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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
11/16

1-11 決着・決戦前夜

次回は明日の午前8時投稿する予定です。よろしくお願いしますm(_ _)m


 シャルロッテもエリシアも杖を掲げて魔力を練り始める。互いに杖へ命令式を与えた魔力を送り込んだ。そうすることでただの魔力が実態を帯びて魔法へと変わる。



「はぁ!!」


「風・収束!!」



 エリシアの魔法で水が現れ、水はやがて氷へと姿を変える。


 シャルロッテの魔法で風が吹き荒れ、杖の合図に従って一箇所に収束される。



「「はぁぁ!!!」」



 その2つの声と共に、氷と風の塊はうねりを上げて加速していく。もちろん、向かう先は互いに対峙する相手だ。


 氷と風の塊はぶつかり合って爆発音を鳴らした。あまりの激しさに地響きが観客の声をかき消す。2年生に成り立ての学生としては破格の威力である。


 砂ぼこりが舞う中でも2人の動きは止まらない。一手の遅れが勝敗を分けるだろうと、この時2人は感じていた。



 シャルロッテは視界が狭まったこの状況を利用して、回り込むように走りながら魔力を練り始めた。


 これで相手の死角へ行けたのなら御の字だが、恐らく相手も同じことを考えているだろう……とシャルロッテは踏む。


 最悪、逆に死角を取られている可能性すらある。そんな戦況も視野に入れ、命令式だけで済む魔法を唱える。


 シャルロッテは神童と呼ばれているものの、属性魔法の発現自体はあまり安定していない。命令式だけでコントロールが不十分なものが多く、初歩的な演唱によるサポートによって、発現することが多いのだ。だから、命令式のみで済む魔法は基礎魔法と呼ばれる最低ラインの魔法に限られている。


 対してエリシアは使用するほとんどの魔法が命令式のみで発現出来る。


 エリシアは属性魔法が発覚した年齢が13と比較的早く、そこから英才教育を受けて実力を伸ばし続けたのだ。シャルロッテは15歳で突然全属性魔法が発覚し、アカデミーの教育を受け始めて僅か一年だ。そもそもの年季が違うのである。


 砂ぼこりが舞っている間、互いに魔法を撃ち合うことは無かった。やがて砂ぼこりが止み視界が広がっていく。シャルロッテは周りを見回すと、驚きを隠しきれず目を見開いた。



「……! これは!?」


「あなたが何か仕掛けてくると思ったけども、見た限り何も無くて安心したわ。お陰でこんなに氷を生成出来た」



 そこには無数の巨大な氷の柱が宙に浮いていた。透き通った氷は太陽の光を浴びて、絶望を一層輝かせた。エリシアは天に掲げていた杖を振り下ろす。その合図で氷の柱はシャルロッテへと襲いかかる。普通の生徒ならば一溜りもない。しかし、シャルロッテはこの時嫌に冷静だった。



「火・放出」



 その声に合わせて、灼熱の炎が氷の柱を包み込んだ。無慈悲で非常識な火力が氷の行く手を阻む。



「懐ががら空きよ!」



 エリシアはその炎の隙間を水を全身の周りに留めることによって突破した。高低を利用して、視線の誘導と死角を生み出した。タイミングは完璧だ。どうやってもここからシャルロッテが十分に防御をすることは出来ないだろう。エリシアは勝利を確信して、命令式を魔力へ送りこもうとする。


 エリシアは勝利へと一本踏み込んだ。



「がら空きなのはあなたの方じゃないかな?」



 シャルロッテがそう言うと、エリシアの踏み込んだ地面から魔法陣が出現する。土が水のように柔らかくなり、エリシアの片足が沈む。足首まで沈みこんで元の地面の状態へと戻る。



「設置型の土魔法!?」


「これだけじゃないよ!」


「鎖が……! こんな魔法直ぐに──」



 エリシアの左右から現れた氷の鎖が、彼女の手足を拘束した。シャルロッテはなんとか拘束を解こうとするエリシアの首元に杖を突きつける。



「動かないで」



 ただそれだけを呟いた。2人の間で生まれた緊張が、波のように観客へと連鎖していく。一瞬、威圧したような目がエリシアを襲う。エリシアはそっと息を飲んで両手を上げた。



「……降参するわ」



 シンッと重く静まった空気が戦いを決着付けた。






《勝者 シャルロッテ》



「シャルロッテの勝ちだ!!」


「さすが神童だ!」


「うぉぉぉおお! シャルロッテちゃぁぁん!!!」



 誰かがそう叫んだのを皮切りに、静まり返っていた人々に生気が宿る。耳を覆いたくなるほどに祝福の歓声が上がった。



「やっぱ、Aクラス同士の戦いは違うなぁ!」



 シンが周りと共にハイテンションになっている。俺はシンに合わせて高らかに両手を広げた。

 確かに明らかに派手で、レベルも高く、思わず引き込まれるような試合展開だった。だが、この喉に引っかかるような違和感はなんだろう。



 3月下旬頃の進級試験で、彼女はアカデミー内の対魔法がかけられた壁を突破する程の威力を持ち合わせている。それならば、初めの一発で勝負は決まっていたはずだ。ってことは、様子見で威力を下げたのか? でも、それは実力差が分からない者同士の戦いにおいてやることだ。今回はいくら相手が優秀であろうとも、同じAクラスである限り多少のネタは割れているはず。一発の火力でシャルロッテに分があることは明白ではないか。


 つまり、彼女はわざわざエリシアに対して手を抜いたことになる。


 一体なんのために?


 そもそも、手を抜いて彼女自身への利点はあるのだろうか。決闘が長引くだけで、試合だけで見れば不利になるだけだろう。では、数日後に控えている昇格テストは? 彼女自身への影響というは少ない。彼女の飛び抜けた才能の前では心理戦云々が入る余地などないように思える。威嚇するまでもなく強いというのは周知の事実だ。手の内だってあれだけ有名になれば、常に公開してるようなものだし。これといった行動原因にはならないだろう。


 そもそも、あの一連の立ち回りはなんだ。まるで誰かに見せているみたいで……



「おーい、そろそろ行こうぜ。昇格試験も近いんだ。早く練習しよう」


「うん、そうだね。行こうか」



 そうだ。それこそ、利点があるなんて、俺らみたいな昇格試験でAクラスを狙っている奴らくらいだ。映像では見れないAクラス同士の試合が公開されて、大体の実力だって分かる。好都合なことばかりじゃないか。じゃなきゃ、わざわざこうして俺らもこの決闘を見にいこうとすら……あれ?



「まさか……ね」



 人は皆利己的に行動するものだ。人のために行動することなどありえない。でも、もし本当にそうだとするなら──まぁ、ありえないか。


 ちょっとした自身の予想を切り捨てて、俺はシンの背中を追いかけた。





 5月下旬、さらに言えば昇格試験の前日の夜、俺はいつもの噴水広場へとやってきた。そこにはシャルロッテが演者さながらの豊かな表現力で歌っていた。決まって歌っている曲は「自由へ」だ。この影の中なら彼女は自由でいられる。その特殊な立場がより一層彼女の歌に息を吹きかけた。


 ここにいる時、彼女は随分と感受性豊かになる。月光から覗く彼女のきめ細かい表情はここでしか見られないのだ。



「ルウシェくん、今日も来てくれたんだね!」


「うん、なんだか寝付けなくって」



 もちろんそんなの嘘に決まっている。これも全てフレイアからの指示で動いた結果である。そこに俺の感情などない。


 俺は若干表情に力を入れて、唇を引き締めた。こうすれば自然と緊張しているように見える。



 その効果があったかどうかは分からないが、シャルロッテは表情はどこか優しげだ。彼女はテーブルに灯りを置いて、ベンチへと腰掛ける。そして、彼女は自分の隣の席をゆっくりと叩いた。


 俺はポケットに手を突っ込んだまま、合図に従って彼女の隣へ座る。ひんやりと染み込むように心地よい冷たさが広がる。



「いよいよ明日だもんね」


「そうだね……僕はAクラスに行けるかな?」


「正直、最初は難しいと思ってた。前例があるわけじゃないし、ルウシェくん自体が特別成績が良いってわけでもない」


「うん……」



 俺は彼女の言葉に頷いた。


 振り返れば、俺の明確な戦闘記録はテオドゥロと戦った時の映像のみ。オマケに勉強だって苦手だ。彼女の評価は至極真っ当なことだ。



「でもね、どうしてだろう。ルウシェくんなら出来るんじゃないかって、なにかやってくれるんじゃないかって……きっと君の頑張ってる姿がそう思わせてくれたんだよ」


「そうなのかな」


「絶対そうだよ! ルウシェくんは勉強も魔法も毎日夜遅くまで頑張ってたもん! だから自信持って!!」



 シャルロッテは勢いよくこちらへ顔を近づけて言う。暗夜よりも深い瞳は動かない。初めて出会った時のいたいけな彼女は少したくましくなったと感じた。


 これが彼女なりの励ましなのだろう。



「そうか……そうだよね。うん、僕やれるだけやってみるよ!」



 そう答えると、シャルロッテは満足した様子で頷いた。


 それからしばらくの間、俺とシャルロッテはおしゃべりをしていた。ほとんどが試験に関係ない世間話だ。シャルロッテが気を使って試験の話を遠ざけてくれているのだと思う。


 話が一段落すると、シャルロッテは小さくあくびをし、眠そうに目を擦った。



「私はそろそろ部屋に戻るけど、ルウシェくんはどうする?」


「僕はもう少し夜風に当たってるから寝ようかな」


「そっか……じゃあまた明日!」



 シャルロッテは大きく手を振って広場を後にする。俺は彼女に合わせて手を振った。彼女が見えなくなると、その手をゆっくり下ろして周りを見渡した。周囲に気配はない。今なら大丈夫だろう。

 俺はポケットに入れたままだった魔法石をもう一方の手で取り出す。魔法石は既に通信状態にある。



「これでいいか」


「ばっちり。手筈通りに事は進んでる見たいね」



 一連の話を全て聞いていたフレイアは声を弾ませた。なんにせよ、これで台本通りに進んでいることの確認が取れた。



「音声だけでそんなこと分かるか?」


「あなたに嫌悪感を持っていないことくらいは分かったわよ」



 女の勘ってやつがそう言っているのか。フレイアはやけに自信満々だ。


 まあでも、彼女自身が「シャルロッテとの会話を聞かせてほしい」と頼んだほどだ。何かしらの根拠はあったのだろう。


 満月手前の月に雲影が重なる。月光の線が雲の隙間を縫うように射し込み、夜空を煌めく。今ではもうあまり見なくなった風景だ。



「俺がそうなるように立ち回ってるからな」


「知ってるけれど予想以上だってことよ。良い誤算だわ」


「そいつは良かった。まぁ、明日の昇格試験次第では計画もお陀仏だけどね」


「“ルウシェ”なら無理かもね。でも“エイル”なら可能でしょ?」



 フレイアは意味ありげな言い回しを使った。深くは理解できないが、「本気を出せば出来るでしょ」って言うニュアンスだろう。「頑張れ」とも「大丈夫」とも言わない、なんとも彼女らしいひねくれた声援だ。いや、彼女のことだ。単なる事実を言っているに過ぎないのかもしれない。



「あぁ、やってやるよ」



 不思議とその声に力がこもった。


 



いかがだったでしょうか。



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