第六話 歩いていく道 歌う私
裸馬状態のレアータさんの背中に乗ることをお勧めされたけれど、体験乗馬はしたことはあるけれども鞍もない状態で乗ることに不安があったので、徒歩で里へと向かうことになった。
《この森の奥深くは人が入り込めないように結界が張ってあるのですが、いつ王を呼び戻したものたちがここにいることに気付くか分かりませぬ故。里はわずかばかり人との交流はありますが、ここよりももっと強い結界を張ってありますから今より安全でありましょう》
ぽくぽくと蹄の音をさせながら、先導してくれているレアータさんがそう話してくれる。
そうか。追手、か。並々ならぬ力を持っているから王で、そんな宗一郎を呼び出してるってことは何かしら宗一郎にさせたいことがあるってことで。そんな相手さんたちが宗一郎を探さない訳はないか。
《ミユキ様に何かあったら大変ですし》
様付けで呼ばれるのはちょっとこそばゆい。でも譲歩はしてもらえなかった。
隣を歩く宗一郎の左手をぎゅっと握る。手をつないで歩くなんて久しぶりだけれど、とても安心する。
誰かと手をつないで歩くのなんて、何年ぶりだろう。
「そうだ。美雪姉ちゃん、合唱部とか入ってたよね」
「あー小学校の頃ねー、それがどうかした?」
「なんか歌ってよ。黙々と歩くのちょっと疲れちゃった」
「そうだなー。なんか元気の出るやつがいいかねー」
ちょっとハミングしながら適当な曲に適当な歌詞をつけて歌い出す。いつもやって遊んでいたやつだ。適当すぎて訳が分からない感じになっていくけど、ご愛敬。
「みどりがーたくさんーもりもりー森の中ー」
「適当すぎる」
なんとなく足元の草の反発力が強くなった気がする。気のせいだと思うけど、このあたりはあれかなー。なんか植物の種類とか違うんかな。さっきの場所とは。
「お日様がきらきらー空から注ぐひかりーあったかいー」
木立がざわ、と揺れて、私たちの歩く道が明るく照らされる。降り注ぐ陽光はあたたかい。あたたか、い、けど、これ? 何かおかしくない?
「んんん?」
「どしたの?」
「いや、なんか、歌うたび、景色がちょっと変化していく、みたいな」
《ミユキ様は愛されてますね》
ふふふ、とレアータが笑う。何? どういうこと?
「気のせいじゃないのー?」
宗一郎はまったく気にしていない。何か引っかかるなー。
「美雪姉ちゃん、ちょっと」
「ん?」
ちょいちょいと突かれて顔を近づけるとこそっと耳打ちされる。
「里についたら、いろいろ話すよ」
言われた言葉に驚いて目をぱちくりさせると、ふふ、と宗一郎もいたずらっぽい顔をして笑っていた。
なんだろう。この蚊帳の外感は。
でもまぁ、後で話してくれるならいいか。
その後も目につくものを歌いながら私たちは歩いて行った。降り注ぐ光はどこまでも暖かかった。
やっと歌えた! 歌うことで周囲が変わる理由は里についたら宗一郎が説明します。
のんびりゆっくり進みます。