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歌う聖女は金色の獣のお気に入り  作者: 小椋かおる
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第三話 目が覚めるとそこは異世界でした

 目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。

 あれ? 私、何をしていたっけ?

 お葬式とかいろいろ終えて、足がふらついてよろけたところを宗一郎が支えてくれて、ああ、そうだ。宗一郎が光に包まれるのが見えて、無我夢中で手を伸ばしたんだ。

 寝転がっていた体を起こすために、手を地面につくと下に生えている苔がビロードのじゅうたんのように柔らかくて、思わず何度か撫でてしまった。

 そうだ。撫でるといえば、何度か金色の毛並みの何かを無意識に撫でたような感触が残っている。

 む、と手を見ると、なんかつやつやつるつるのすべすべになっていた。語彙力が消えた。家事ばかりしていたから、冬はアカギレによくなったしざらざらとした手触りだったと思ったのに、なんでこうなった? あと、さらり、と一房の髪が落ちてきて、ぎゃっと小さく叫んでしまった。

 金色。

 金色になっている、髪が。いや、全体ではなくて一房だけだけれども。


「美雪姉ちゃん!」


 聞きなれた声が私を呼ぶので、そちらへと頭を巡らせた。

 見慣れた学生服を着てそこには王子様みたいなきらきらした人がたたずんでいた。


「そう、いち、ろう?」


 あれ? 宗一郎ってこんなだった? 穏やかな目つきをして微笑んで駆け寄ってくるその姿は、何かどこか違和感を覚える。何でだろう?

 ぎゅむっと抱きついてくるとそのまま持ち上げてくるくると回転を始めた。わーこれアメリカンホームドラマで見たことあるー、てそんな場合じゃない!


「そ、そそ、宗一郎! 目が回る! おろして! おろして!」


「美雪姉ちゃんが目覚めたー! やったー!!」


 嬉しそうな声で大きくそう周りに宣言するかのように宗一郎がそんなことを言う。ん? 目覚めた?

 振り回した遠心力のまま投げ出さないようにゆっくりと回るスピードを落として、そっと苔のじゅうたんの上に宗一郎が私の足をおろしてくれる。

 顔近い。近いよ、近い。イケメンの至近距離は心臓に悪いってば。


「俺も起きたらここに居て、それで美雪姉ちゃんが目を覚まさなくて、心配で心配で心配でもう」


「え。うそ」


「嘘ついてどうするの。ほんっとーに心配したんだよ」


 目をうるうるさせて背をかがみこませて私の顔をのぞきこむと、宗一郎はすんと鼻を鳴らす。

 ああ、気のせいか。さっきの違和感は。なんか急に大人びたような気がした、なんて。


「ありがとうね。宗一郎」


 ぽんぽん、と頭をなでると、嬉しそうに宗一郎が笑う。なんか犬のしっぽが見える。大型犬種、ゴールデンレトリバーが近い。

 そんないつもの戯れを、誰かが見ているような気配がして、やっと私は周囲の様子を見ることができた。

 森の中。大樹の根元の開けた場所に私はいた。周囲は動物たちに囲まれている。見たこともないような動物ばかりで私は呆然とする。

 これ、あれかしら? もしかして、もしかしたら、あれなのかしら?


「美雪姉ちゃん、俺たちどうやら」


「もしかして宗一郎、私たち」


「「異世界に来ちゃった???」」


 ふたりの声がハモったのと同時に、ひとりのひとが動物たちの輪の中から進み出た。


《ようこそ、私たちの世界ムンドゥスへ》


 人馬、ケンタウロスと呼ばれる幻獣の姿をしたそのひとは、そう言った。確かに日本語とは違う言語を話しているはずなのに、私にはその言葉が何を意味し何を言っているのかもわかった。


《そして、おかえりなさい。我らの王よ》


 ケンタウロスはじっと私を見ていた。いいや、私ではなかった。私の後ろに隠れるようにして、私の肩をぎゅっと掴んでいる宗一郎をまっすぐに見つめてそう言ったのだ。

 何かにおびえているの時のいつもの表情。いつもの仕草。

 私は肩に乗って力のこもった手に重ねるように自分の手を乗せた。

 私たちは、どうやら厄介ごとに巻き込まれ始めているようだった。

もうひとつの話と並行して少しずつ書いています。

前回の話でちょっと怪しかった宗一郎は何か隠しているのか、いないのか?

次回へと続きます

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