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歌う聖女は金色の獣のお気に入り  作者: 小椋かおる
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プロローグ 後編 ~君の名は~



 泣いてばかり。



 小さい頃のダニエルはそれはそれは泣き虫だった。

 まぁ、そりゃあ正しく毛色の違う子どもが突然小学校に現れたりしたら、いじりたくもなるものかもしれない。

 わたしには、その気持ちは残念ながら分からないけど。

 小さい頃のわたしもちょっと変わった子どもで、引っ越しに伴い転校した時にいじめにも近いいじりを受けたことがあるからだ。まぁ、なんやかんやあっていじめは無くなったけど、それからそういうことをする人が大嫌い。


「みゆ(ねぇ)


 そうして泣いてアパートに帰宅したダニエルが真っ先に頼りに来るのはわたしだった。

 帰宅部で何より家で過ごすことが大好きだったわたしは、学校から帰るとすぐ家に引きこもっていた。

 だから、とても頼りやすかったのかもしれない。


「どうしたの?」


「みんながダニだって言うんだ」


 名前のことでいじめられるのは結構、いや、かなりきつい。

 自分ではどうにもならないもののひとつだ。生まれたときに両親やそれに準ずるひとたちが考えて付けてくれて、だからこそ変えるなんて考えられない。


「こんな名前、もういやだ」


 そう言って泣くダニエルの瞳はもうとろけそうになっていて、そんな顔をされると母性本能が刺激される。

 どうやったってかばいたくなる。

 だって、可愛いんだ。

 すごく可愛い。

 天使みたいな、そんな子が泣いているのはどうにも居心地が悪い。


「新しい名前、付けようか」


 なんでそんなことを思ったのか、今になってもよくわからない。

 どうしてか、そう思った。

 そうしたら、こんなにこの子が泣くことがなくなるんじゃないか、なんて。


「新しい名前?」


「そう! わたしが考えるよ。ダニエルの新しい名前」


 どうかな? と首をかしげると、ダニエルの涙がぴたりと止まった。なんか現金だなと思えて少し笑えた。


「どんなのがいいかなぁ」


 ごしごしと顔を拭って、それから勢いよくダニエルが話し始める。


「あのね、みゆ姉みたいのがいい。漢字で書くの」


「日本語ってこと?」


「うん! それでね、かっこいいの!」


 かっこいいのかー、かっこいいのねー、すごいハードルが一気に上がった。

 ああ、でも、このキラキラとした瞳に、わたしはとても弱いんだ。


「そう、そうねー、あ、宗一郎とかどう?」


「ソウイチロウ?」


「この前現代社会で先生が教えてくれたんだけどさ、本田宗一郎って人がいてすごい人だったんだってー」


「すごいひと?」


「そう。一生懸命でいろんな困難を乗り越えたすごいひと」


「いっしょーけんめいで、すごいひと、みゆ姉は好き?」


 おっと、脱線した、かな?

 でもダニエルの目はキラキラしたままだ。


「そうね」


「ソウ。ソウイチロウ、いい名前。みゆ姉がよく言うのもいっしょ」


 えへへ、とダニエルが笑う。

 ああ、天使はやっぱり笑っている方がいいな。


「ないしょの名前にする」


「ないしょの?」


「みゆ姉が呼んでくれればいい。そうしたら、ぼく、宗一郎になる」


 アニタにはないしょ、とダニエルが言う。


「何かあったら、宗一郎って呼んで」


「何かって?」


「助けて、って時とか」


「助けてかー、そうね、覚えておく」


 じゃあ指きり、とダニエル改め宗一郎が小指を差し出す。

 指切りげんまん、とつなぐと、なんだか神聖な儀式をしている気分になった。

 瞳をのぞきこめば、その瞳がいつもより明るい金色に瞬いたような気がして、何度か目をぱちぱちさせて見つめなおす。


「ダ」


「もう、宗一郎、だよ」


 ふふ、と笑う宗一郎は、なんだか少し大人びて見える。

 まだ7歳だって言われたと思う。今度の誕生日で7歳かな、小学一年生だし。

 私はちょうどこの前十七歳になったところ。

 十歳も違うとそれこそ大人と子どもぐらいの年の差だと思うのに、なぜか、彼はとても大人に見えた。




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