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歌う聖女は金色の獣のお気に入り  作者: 小椋かおる
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第十五話 収穫祭の前の王様と私

 ふわふわとした気持ちになるのは、いつぶりだろう。

 これはあれだな。あの、この世界に来た時だ。ふかふかの毛皮に埋まって寝ていた。

 寝ていた?!

 がばっと身を起こせば、金色の獣の姿が目に入った。優しい瞳も金色をしていて、それを細めて私を見つめてくる。

 周囲は森の中だった。周りにいた人たちからは少し離れていて、どうやら残ったアドウェルサの体を解体する作業に取り掛かっているようだった。


「起きた? みゆ姉」


 声は宗一郎のものだ。なんだか気が抜けて、またぽふっとその毛皮に顔を埋めてしまった。あったかい。


「みゆ姉?」


「ごめんね。なんかほっとして気が抜けちゃったのかも」


 怖くなった。本当は。すごくすごく怖くなって、無我夢中でどうにか歌った。誰にも傷ついてほしくなかったのも本当。あのアドウェルサと呼ばれた獣が救われてほしいと願ったのも本当。

 でもあの血の匂いと光景がここが異世界なのだと私に痛感させた。痛いほど、胸を締め付けた。足元が急に不安定になって、立っていられなくなってしまった。

 こわい。とても。

 傍にいてくれる宗一郎がいても、ここは私がずっと暮らしていた世界ではない。そう考えてしまったらもうダメだった。手が震え、体が震えた。

 そしてもうひとつ、思い出していた。万が一戻れたとしても、あの世界にはもう私をつなぎとめるものはもう存在していないことを。これは八方ふさがりというやつだ。

 私には逃げ場がない。それに思い当たってしまった。

 

「みゆ姉」


 ぎゅうっとその毛を掴んで、いつの間にか私は泣いていた。

 何もない。何も。私には。


「みゆ姉、泣かないで」


 べろん、と舐められて驚いた。宗一郎が獣の姿のまま、背中に乗せた私の頬をその舌で舐めた。

 その瞳が揺れている。獣の姿になっても変わらない。私を心配してくれるその目。


「ごめんね。宗一郎」


 泣いてしまったことを謝ると宗一郎は首を横に振った。


「俺が巻き込んだんだ。みゆ姉が謝ることじゃないよ」


「でも」


「あの獣、アドウェルサは《天災》って意味なんだって」


「え?」


「避けようのない災害なんだって言ってた。みんなが。でも俺が居なくならなかったら、こんなことにはならなかった。あの子も、アドウェルサにならずに済んだ」


「宗一郎」


「だから、みゆ姉が謝る必要はないんだ」


 それだけ言って宗一郎は目を閉じる。それ以上、私の言葉を聞きたくないと拒絶された気がして、私は混乱した。だって宗一郎にまで拒絶されてしまったら、私、どうしたらいいの?


「宗一郎!」


 その首ねっこにぎゅっと抱きつくようにして顔を抱えてこちらを向かせた。


「宗一郎が理由だったとしても、宗一郎のおかげであの子は救われたんだよ!」


「みゆ姉」


「宗一郎がこの世界から居なくなったせいであの子がアドウェルサになった、でも、宗一郎があの場所に居てくれたからあの子はアドウェルサじゃなくなったんじゃないの?」


「うん」


「喜んでたもん。聞こえたでしょ? 宗一郎にも」


「うん」


「だから、いいんだよ。私ももっと強くなるから!」


「それは困る」


 ふふっと宗一郎の笑う気配がして、私も笑った。泣き笑いだったけど、それでも二人で笑っていた。


「ソウ様、ミーユ様」


 気付けばレアータさんが側に来ていて、私と宗一郎の前で傅く。


「我らの王と聖女(オプスキュリテ)よ。アドウェルサをはらって下さりありがとうございました」


 そういえば、気になっていた言葉があった。


「ねぇ、宗一郎」


「うん?」


「オプスキュリテって何? 私に初めて会った時にも言ってなかった?」


「……覚えてたの?!」


 そりゃあまぁ、金髪の天使との初対面でしたし? こんなにでっかく成長するなんて思ってはなかったけど。

 私と宗一郎のやり取りをレアータさんはにこにことして聞いている。


「オプスキュリテは、闇、という意味もありますが、王と共にある聖女を示します」


 なかなか口を割らない宗一郎に代わってレアータさんが説明を始めた。


「王は光。遍く全てのものを輝かせるお力を持っている唯一の王。その王を包み込むのが闇です。王の安らぎ。ただひとつの安息の場所。つまりは伴侶という意味ですね」


 ……伴侶。

 伴侶。なってほしいって言ってた。


「……それって」


「あーもう、今ここで言う羽目になると思わなかったんだけど! レアータ!」


 ぎゅっと引き結んでいた口から恨み言が出た。宗一郎が怒っている。でも、なんで?


「いいじゃないですか。どうせ皆知ってますよ」


「一目惚れだったんだよ。初めて会った時から、俺の隣にいるのはみゆ姉しかいないと思ってたの!」


 ぼんっと音がしそうな勢いで私の顔が赤くなる。だってそんな、そんなの、聞いたことなかった。


「ずっとずっと好きだったんだ。この世界に戻ってくることがなくても、絶対お嫁さんになってほしいって思ってた」


 心臓の音がうるさい。ドキドキしっぱなしでどうにかなりそう。


「お試しじゃなくて、ちゃんと付き合ってほしい。ダメかな?」


 そんな耳も尻尾もへにょんとなって、しょんぼりされてしまうと私も困る。

 こういう態度の生き物に弱いんだ。わたし。


「私もいるんですけどー」


 レアータさんが咳ばらいをしながらそう告げたので、はた、と気づいた。

 そういえば、周りにも人が居たんでした。

 なんかチラチラ視線感じるし、顔も耳とか首まで熱くなってきてるの感じるし!


「収穫祭で絶対返事貰うからね!」


 そう言いながら宗一郎の姿が、しゅるんと獣から人に戻る。私はまたお姫様抱っこをされていて、この赤いのがなかなか引かないのをどうしようかと考えていた。



収穫祭が始まれない!!

宗一郎は一生懸命口説きモードです。

人生初? 二度目? 愛の告白にみゆ姉はドッキドキ。

のんびり続きます。

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