第十三話 収穫祭の前のお呼び出し
収穫祭の時に振る舞うサンドイッチを一通り作って、それから串焼き肉のための串を準備していたら、宗一郎が顔を出した。
「みゆ姉」
「あれ? どしたの? 宗一郎」
額に浮かぶ汗をぬぐいながら彼を見ると、あの時レアータさんに向けていた真剣な顔をしている。
「ちょっと一緒に来てほしいんだ」
「え? ど、どこに?」
「森の方。今、狩猟組の人たちが狩りをしている方向なんだけど」
「うん」
「……ここでは詳しくは言えないから、付いてきてほしい」
ちら、とスーオちゃんの方を見たってことは、スーオちゃんのお父さんのルーイさんたちが関わっているってことだ。
「ティスさん、スーオちゃん、ごめんね。ちょっと行ってくる」
「粗方終わってるから大丈夫だよ。気にしなさんな」
「はやく帰ってきてね!」
ティスさんとスーオさんにエプロンを預けて、歩き出した宗一郎の後を追って速足でついていった。
「この世界の生き物が魔力があるって話、覚えてる?」
歩きながら宗一郎にそう聞かれて、私はこくこくと頭を縦に振った。手を引かれて歩いているのだけど、いつもなら私の歩幅に合わせてくれる宗一郎の足がいつもよりはやく感じられるのが、なんとなく焦りを感じて不安になる。
「この世界には魔力が満ちているんだけど、本当は俺がそれを循環させていかないといけなかったんだ。でもしばらくこの世界に居なくて、魔力が滞って凝ってしまったりする」
「凝る?」
「凝る。凝った魔力は澱んで歪む。そうするといわゆる魔物になっちゃうんだ」
いよいよファンタジーっぽくなってきた。まぁ獣人の隠れ里なんていうところに匿われている時点でファンタジーばりばりなんだけども。
「それで、狩猟を生業としているひとたちが森で魔物になったイノシシを見つけたって連絡が来た」
「魔物になったイノシシ」
「みゆ姉に歌ってほしいんだ。そいつも、好きで魔物になったわけじゃないと思うから」
まっすぐ前を見ている宗一郎は、なんだかいつもと違う。大人になったなーと思うことは増えたし、それよりもなんていうんだろう。責任を負った男の顔だ。これは。
「怪我人もいるらしい。あんまり血なまぐさいところにみゆ姉を近づけたくはないんだけど、レアータ達にも頼まれたから」
ぎゅっと手を握る力が強くなる。
「何かあったら、絶対俺が守る。だから、いっしょにそのイノシシを助けてほしい」
「馬鹿ね。宗一郎」
「え?」
「私があなたの頼みごとを断ったりしたことあった?」
伴侶になってほしいという願いはすぐに叶えるというのはちょっと勇気がいるので無理だけど。お試しでお付きあいもしてるからね。全部断ってないから!
「じゃあちょっと急ぐから、ごめんね?」
「え? ひゃあ!!」
そう言ってそのまま、私をお姫様抱っこで抱えると走り出す。
え? ちょっと?! お姫様抱っこなんて人生初なんですけども?!
「しゃべると舌噛むから黙っててね」
見上げる視線の先にある宗一郎の横顔が、本当に茶化すことなく真剣だったのでおとなしく黙っておくことにしたのだった。
突発的な出来事により収穫祭はまだまだ始まりません。
どうかお付き合い下さいませ。