第十一話 収穫祭の朝
その日はとてもいい天気だった。
雲一つない快晴。言うなれば日本晴れってやつ?
「みゆ姉、収穫祭日和だね」
「そうだね。みんな楽しみにしてたから晴れてよかったね」
ほわほわーっと宗一郎がそう笑うので、わたしも合わせてほわほわーっと笑ってみせた。
収穫祭は獣人たちにとって大事なお祭りで、というかこの世界に生きる人たちの中で特に農業とか狩猟に携わっている人たちにはかなり重要なお祭りであるらしく、いつも顔を合わせる獣人の人たちもそれぞれ気合を入れて準備をしたりしていたのを見てきた。
だから、天候だけでも憂いが無くなったのはとてもいいことだと思う。
晴れるように祈った甲斐があったなー。
「ミーユ様、ソウ様、お邪魔してもいいでしょうか?」
「レアータさん! どうしました?」
「ミーユ様の収穫祭用の衣装が出来たから持ってきたのです」
どやっとしながらレアータさんは背中に隠していたそれをふわりと広げてくれる。黒のビロードに似た生地のジャンパースカートには色とりどりの花が刺しゅうされていて華やかだ。あまり飾りのない白いブラウスによく映える。
「私が魂込めて作りましたのでね!」
えへん、とさらに胸を張ってレアータさんが鼻息も荒くそう言うと、なんとなく親しみを覚えて顔がほころぶ。優しいし面倒見がいいんだよね。
「へぇ、きれいだな。まぁ、みゆ姉には負けるけど」
「そこなんですよ、ソウ様。そこが問題」
何の話を始めたのやら? 本当にわたしのことがかわいいなんて、宗一郎くらいのものだ。そんなことを言うのは。
身長も小さいし、髪はやたらストレートでいつもポニーテールにしても癖ひとつ付かない。昔は三つ編みでゆるふわウェーブとかにあこがれたなー。何ひとつ残らなかったけど。目は大きいとは最近よく言われるけど、きっとメガネをはずしたからかも。近眼メガネって目が小さく見えるものね。
かわいい、かわいいと褒めてくれるのはうれしいんだけど、ほんと、わたしのどこがいいのかわからない。好きなとこ、ほんとないんだよね。
そんなどうでもいいことを考え始めたのに気付いたのか、宗一郎がわたしの手をとった。
「みゆ姉。この服着たらいっしょに祭り回ろうね。約束だよ?」
ゆびきり、と小指を差し出されたので、一瞬目を見張った後、わたしは思わず笑ってしまった。
なんだろうね。不思議だね。何かネガティブなことを考えていると、宗一郎にはすぐに気づかれてしまうような気がする。顔に出てるのかなぁ?
「屋台のお手伝いがあるから、終わったら着ようかな。汚すともったいないもの」
「じゃあ、約束。ゆびきりだよ」
ね、と指切りを催促されて、差し出された宗一郎の小指に自分の小指を絡めた。
わー指切りなんていつぶり? すごく久しぶりな気がするなぁ。
なんだかすごく大事な約束をした気がして、胸のあたりがほわほわとあたたかい。
「じゃあ、わたしはお手伝いに行ってくるね」
エプロンを手に取ると、宗一郎はうなずいて手を振ってくれる。
「また後でね」
「うん。また後で」
そして私は少し小走りで部屋から出ようとした。扉を閉めようとした瞬間、
「ところでレアータ、少し話があるんだ」
「……はい」
先ほどのにこにこしていたレアータさんの顔が急に引き締まった。宗一郎も真剣な顔をしていて、先ほどとはまったく違う。
何か特別な話し合いが始まる気配がしたけど、なんとなく聞くのは野暮な気がしてわたしは何も聞かないまま扉を閉めた。
なんとなく、だけど、先ほどほわほわとあたたかった胸のあたりがもやもやとした気分になっていた。
収穫祭、始まれなかった!(書いている間のサブタイトルは収穫祭のはじまりでした)
しばらく体調崩して書けなかったので申し訳ないです。
のんびりゆっくり続いていきます。