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歌う聖女は金色の獣のお気に入り  作者: 小椋かおる
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第八話 お試しでお付き合いすることになりました

 これは、あれかな。

 ここ二十数年生きてきて初めてのあれだ。プロポーズってやつだわ。あはは。

 あははじゃなーい! ノリツッコミだって冴えわたるってものよ。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!」


「……そうだよね。突然こんなこと言われても困るよね」


 しょぼーんとなった宗一郎の頭に垂れた犬耳とおしりにはしょぼくれた尻尾が見える。見えた気がするじゃなくて見える。あ、これ本物だ。


「突然異世界に来ただけでもあれなのに……こんな……」


 そのままずるずるとへたり込んで座り込んだと思ったら体育座りしてその膝に端正な顔を突っ伏した。何やってんだろうか、このイケメン。

 図体ばっかり大きくなって、でもうるうるとした目は小さい頃のまんまで。

 でもね、馬鹿だなぁ。ほんとに。

 私は同じ目線の高さになるためにしゃがみこんで、その顔をのぞいてみた。


「ねぇ、宗一郎。私のこと、信用できない?」


「そんなことない!」


 間髪入れずに否定された。うん。なんだろうなぁ。この気持ちは何て言うんだろう。


「あのさぁ、宗一郎。私が言うのも何なんだけどね?」


「うん」


「私さぁ、この年までお付き合いってものもしたことがないのよ」


 まぁ、いわゆる喪女とかいうやつなんだと思うんだけどね?


「だからね、えーと、伴侶ってのはちょっとすぐは考えられないんだけど、お試しでお付き合いは出来なくはないかなーと」


「ほんとっ?!」


 がばっと俯いた顔が上がった。なんて現金なイケメン。まぁ、私も甘やかすのがいけないんだけど。

 だって嫌いじゃないんだもの。ずっとずっと小さな弟だとばっかり思ってたのになぁ。


「俺、きっともっと強くなって、美雪姉ちゃんを守れるくらいになって、それでえっと、すごく格好良くなって絶対美雪姉ちゃんが伴侶にしたいって思えるようになるから! 頑張るからね!!」


 この体育座りの体勢で力説されても全然心に響か……なくもない。イケメンてお得だなぁ。いや、これはひいき目ってやつかしら。


「でもさぁ、レアータさんみたいな美人がきっとこっちにはいっぱいいるんだろうし、宗一郎が気が変わらないとは言え」


「言えなくない! 俺には美雪姉ちゃんしかいないの! 他には要らないの!!」


 お、おう。左様でございますか。

 立膝で私の手をまたぎゅっと握って、真剣な顔でそんなことを言うもんだから、私の顔は何故だかすごく熱っぽくなっていった。胸がきゅーっとなって泣きたいようなうれしいような、今まで感じたことのない感覚を私はその時はじめて感じたのだった。






 そしてひとまず私たちは、この隠れ里でお世話になることになった。

 王と崇められている宗一郎のことはひとまず隠して、長の食客という扱いで置いてもらえることになったのだ。

 これからこの世界のことを少しずつ知っていこうと思う。やることが沢山あって楽しみもいっぱい。不安もそこそこ。

 でも。


「美雪姉ちゃん!」


 いっしょに居てくれて、私だけが必要だって言ってくれる人がそばにいるのなら、なんとか頑張っていけそうな気もする。

 とりあえずは私たちの異世界生活はここからスタートするのだった。


 


 美雪姉ちゃんは折れました。

 次回へと続く。

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