理想への転移
アアルの旅路【True end】はアアルの旅路の本来の世界線で描いたものです。
そのため似た部分があるかと思いますがいちおう全く別の話になっております。
というかアアルの旅路は試験的に描いたものなのでこちらを読んでいただいた方がよいかと。
この作品を読みに来てくださった皆様、本当にありがとうございます。
これは、ある人間の「本来の運命」である。
異世界からの勝手な介入により変更される前の世界線、いわゆるパラレルワールドというものだ。
とはいえまったく同じ世界が2つ存在することは無い。
人が一人違うことや、同じ者が住んでいても性格が違うなど、些細な違いが存在する。
今の「世界」というのは実に多様で未熟で稚拙だ。
しかし、一度変化した歴史が戻ることは特殊な例を除き存在しない。
これは【True end】でありながら【Lost end】なのである。
一人の人間、徒徒…もとい徒花の話だ。
人間世界、その中でも始まりの世界から数えてちょうど9413個目の世界だ。
この失われた世界、その話を、聞いてほしい。
語り部…いや、適切ではないな。
今話している私の名は「アイティオピア」
この世界を間接的に作った「神のような物」である…
__________...... .. . .
俺は目が覚める。
記憶の確認。自分の名前、日常生活の行動、昨日の記憶…
大丈夫だ、全て覚えている。
昨日は休みで学校が無かったから「家族4人で」出かけたのだ。
俺、業火 徒徒と、その妹の業火 鈴蘭、
そして「両親」で竜がいる湖と言われるネス湖へ行ってきたんだったな、うん。
結局数メートルのブラウントラウトが釣れたこと以外は普通の旅行だった。
まあネス湖に竜がいないっていうのはとっくの昔から知っているが。
他に…そうだ、年月も思い出さないとな。
今は3666年6月13日…よし、問題ないな。
今のは昔一日分の記憶が無くなったのをきっかけに始めたことだが、それを見られて変だとかよく言われていたな…。
俺は変だとか言われるが、それは変な両親のせいだt…しまった、このままだとまた遅刻する。
ただでさえ今の教師は面倒なのに…
俺は急いで学生服に着替える。よくある学ランで、ずっと昔…昭和50年ごろにこの名前で呼ばれ始めたらしい。とはいえ1500年以上前のことなど確証はないが。
そういえば昔はよく地球滅亡だの人類消滅だの言われてたんだっけ…数年に1回人類滅亡とか昔の地球っていったいどういう場所だったんだ…?
っといけない、遅刻してしまう。
俺は自分の部屋を出て、階段を降りる。
俺の部屋は3階で、2階は客間、1階がリビングとなっている。
人間の数が増えるほど土地が狭くなってまた戦争で人が減って…
今は第4次世界大戦が終わってから1000年以上経っているので、人口はかなり多め…らしい。
しかし人口が多くても無限のエネルギーと人類だけでは消費しきれないほどの食糧がある現代では誰も不便だとは思ったりしない。
むしろ昔はよくあの環境で生きていけたと全人類が口を揃えて言うほどだ。
さて、俺の記憶に問題がないと分かったところで、ようやく1階。
時間的には30秒ほど…自己ベスト更新ならずか。至極どうでもいいが。
1階では既に両親と妹が食べ終わり妹は部屋に、母親は洗い物、父親は…もう家を出たみたいだ。
部屋は無駄な装飾は無いが、いつも通り綺麗に片付いていていつでもくつろげる状態だ。
まあ時間がないので机の上にあった朝食のラップをはがす。
トーストに目玉焼きを乗せた「ラピユタトースト」というものだ。
名前の由来はとある映画らしい。現在まで語り継がれるのだからそれだけの名作なのだろう。
とラピユタトーストを齧りながら俺は考えた。
そしてなるべく早く食べ終わった俺は1階に置いてあるバッグを持って玄関を飛び出した。
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家を出て数分後、俺はのんびり歩いていた。
これが俺の悪い癖だ。登校に乗り物系を一切使わずゆっくりと歩く。
どれだけ時間が迫っていても基本的にこれは変わらない。
そんなわけで俺がゆっくりと歩いていると、人だかりを見つけた。
ここの住宅街は平和だから、また車の自動運転でトカゲが死んだとかそういうことだろう。
それにしては騒々しいが、通学路なので進ませてもらう。
「すみません、ちょっと通りますね。」
その言葉が聞こえているかは別として、俺は人だかりをかき分けながら進む。
すると、人だかりの原因はなかなか珍しい光景だった。
人だかりの中心、道のど真ん中で大柄な男性が女性を抱きしめている。
街中でいちゃつくんじゃねえよ…と思ったが違うらしい。
というのも男性は笑っていて、女性は泣いていた。
泣く理由はすぐに気が付いた。女性は首元にナイフを突きつけられている。
あ、抱きしめるって言うのは後ろからな。
しかし恐怖で声が出ないのか、声を出すなと言われているのか女性は泣きながら周りを見ている。
周りの人間は助けたいが女性が危険だ…と手を出せない状況のようだ。
しかしここは俺の通学路なのだから、何とかして通るしかない。
俺はその二人へ近づいていく。
俺の前にいた人たちは俺が通る道を開けてくれる。流石大人は話が早い。
そして人だかりを抜けたところで男がこちらに気づいた。
「あぁん?さっきの話を聞ぃて無かったのか?あぁん?」
すっげえ絡んでくる上、口調が一々腹立たしい。
「今来たんですよ。通学路なので通らせて頂きたいのですが。」
しかしこの返しは想定外だったのか、舌打ちをしてから男が話し出す。
「俺はよぉ、この女をなぶり殺してる最中なんだわ。んで、邪魔されたくないわけ。わかるか?」
その男の恰好は今時流行らない迷彩柄のジャケットにダメージジーンズと白Tシャツ、そして髪は茶色で髭はチクチクしそう。顔は完全に悪人のそれで「自分チュートリアルです」って感じだ。
ピアスや時計は無駄に金をかけた感がある。あまり触れないでおこう。
「ん、ああすみません、全く聞いてませんでした。もう一度お願いします。」
俺は一切表情を崩さずそう言った。
それが逆鱗に触れたのかは知らないが男は立ち上がり、女性を後ろに放り捨てた。
…今更だがあれって同じ高校の女子かもしれない…制服的に。
「いぃぜ、ここまで小馬鹿にされたのは久しぃなぁ。遊んでやるよ。」
「それは困ります。あと1分以内にここを抜けなければ遅刻確定なので。」
「ぁあ!?ならさっさと死にやがれ…よっ‼」
男はナイフを横なぎに滑らせてきた。それを後ろに一歩下がって回避し、バッグから武器を取り出す。
「カルシウムが足りませんよ。」
バッグの中の牛乳瓶を取り出し、ふたを開けて縦に振り下ろす。
中身が男に掛かったのは言うまでもない。
「なっにしやがんだてめぇ‼」
男はナイフを正面に突き刺す。しかし牛乳で目が見えなくても先ほどまでいた場所を刺すとは流石だな。
だが、俺はそんなものは当たらない。俺はもう一度縦に牛乳瓶を振る。
ゴッ
と鈍い音がし、男は倒れ伏した。
「てめぇ…いつの間に後ろに居やがった…!?」
そう、牛乳で視界がつぶれた瞬間俺は男の後ろに回っていたのだ。ナイフも当たらないよなぁ。
男は気を失い、俺はその場を立ち去った。
殺してはいないはずなので正当防衛だろう。
俺は牛乳瓶を捨て、近くの自販機で牛乳を買いその場を去る。
誰も俺を止めない。そりゃ当然だ。
人を気絶させた男、俺が一切表情を変えず牛乳を飲みながら歩いているのだ。止められないだろう。
パトカーの音が近づく。だが現場に俺はいない。
俺は1分を切ってしまったことを後悔しつつ、走り始めた。
_________....... ..... .. .... . .. .
やっと校門を過ぎたのだが、少し様子が変だ。
校舎の鍵が締まっているのか数百人の生徒が校門~校舎の部分にいる。
『本日h…きゅうk…でs…』
放送が鳴っているようだが、何故か強烈なノイズによってほぼ聞こえない状態だ。
しかし、生徒達が校門の方に歩いてくるので恐らく『本日は休校です』とかだろう。
俺も早々に帰宅するか。せっかく走ったのにな…
「あ、かっくーーん!」
この声は
「今日学校お休みだって!かっくんのお家行っていい?鈴蘭ちゃんとお話ししたいし!」
目の前の黒髪巨乳天然アホ毛女子高校生は輝井 照美 あだ名は輝井ちゃん。
「いいんじゃないか?多分喜ぶと思うからな。」
実際輝井ちゃんと鈴蘭は仲がいい。なら少しでも鈴蘭を楽しませたいからな。
「では私もよろしいですか?徒徒様。」
「お姉さまが行くなら私もついていきますわ、お姉さまが不安ですから!」
そう言って2人は輝井ちゃんの後ろから出てきた。
先に発言した方はメルル アルファド スカイリー あだ名はメリー。
金髪ツインテールだが威圧的な態度はとらずむしろ相手のことを第一に考える性格だ。
その後に噛みついてきたのはマルル アルファド スカイリー あだ名は羊…ではなくマリーだ。
こちらは金髪ポニテで偉そうな態度をとる。ほとんどの人は話してて不快になる、俺は気にしないが。
この二人は姉妹で、お嬢様だ。
スカイリー家といえばわかるだろうか。
世界の鉄鋼商品98%を支配するあのスカイリー家だ。金銭的にも権利的にも最強のあの家だ。
「別にいいんじゃないか?鈴蘭と仲いいのはメリーもh…マリーも同じだからな。」
「…今私を羊と呼ぼうとしませんでしたか?」
「気のせいだろ?ほら行くぞ。」
俺は足早に学校を去る。
既に8割がたの生徒が帰宅しているので、俺たちは遅いほうだからな。
「あ!あれってかっくんのお父さんじゃない?」
なん…だと…?
「まさか、もう休校なの嗅ぎつけたのか?」
「流石にそれは…いえ、しかし嘘花様ならありえますね…」
「んー?俺がどうしたってー?」
「急に出てくる所とかそういう所がその評価を招いてるんだよ親父。」
「流石俺の息子!俺が近づいてきたのも気づいてたからな!」
このちょっと嬉しそうにしている20代前半に見えるのが俺の親父、業火 嘘花。
顔は俺とよく似ているが警察の制服を着ていて身長が俺より高いのでまず間違える人はいない。
あ、服装通り警察官です一応。
「学校の敷地内に入ってくるのは大丈夫なのか?というか何故ここに」
「んー、家くるんだろー?なら車あるし乗せてこうと思ってなー。」
盗み聞きしてたとか親としてどうなんだ・・
「お前らどうする?乗ってくか?」
「かっくんが乗るなら乗ってくー」
「私も照美様と同じ意見ですね。マリーはどうしますか?」
「お姉様が乗るなら私も乗せて頂こうかしら。」
「ん、じゃあ校門の方に止めてあるから先乗ってるなー」
親父はそう言って校門の方に走っていった。
「それじゃあ俺たちも行くか。」
輝井ちゃんを先頭にして俺たちは校門を出て車に乗り込んだ。
車はよくある8人用で乗車する際に親父含め先に3人いたのが伺える…3人?
「お兄ちゃん、学校休みなんだよね?」
今話しかけてきた純白のワンピースの天使…じゃなくて妹は鈴蘭だ。
俺の妹にして「アルビノ」と呼ばれる病気…のようなものを患っている。
しかし容姿端麗で博識でアルビノとしては珍しく苛めなども受けていない。というかアルビノは直射日光に弱いので基本的に家を出られないのだ。
それをバックミラー超しに見守り微笑んでいるのが母親の業火 エリーである。
エリーというのは親父と結婚する際うっかり他国の英語名の性の部分を書いてしまったらしくそれで通しているが、名前はシオンのほうが正しい…と言っていた。
この業火という苗字は昔焼き畑農業が云々の人が持ってた苗字で、苗字は変えられないから変だと思われがちだが周りも人のこと言えない奴ばっかりだったからな。
佐十 や鱸が何故か多い苗字で、これでもマシな方という…
なんでも第4次世界大戦後いろいろ変わったらしいがその前のことを知る人がいなかったため呼ばれ方から漢字を想像する→今に至るらしい。
っとおれの苗字の言い訳は置いといて
「なんで鈴蘭と母さんが?家行こうと思ってたのに。」
「えっと、爆弾が落ちるからお兄ちゃんと私のお友達で避難するらしいよ?」
は?
爆弾?
周りが「ちょっと何言ってるかわからない」と思っているのに気付いたか鈴蘭が続けて言う。
「多分すごい爆弾だから安全な所行くんだって。」
「安全って…何処に行くんだ?」
その返答は親父から帰ってきた。
「母さんの親戚が住んでるところだ。心配しなくてもあと数分で着くから安心しろ。」
( ´_ゝ`)フーン
まあ爆弾なんて落ちるか怪しいから休校ってことで遊びに行くんだろうな…
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しばらく皆で他愛もない話をしていると車が止まる。
「着いたぞ、とりあえずそこ入っててくれ。」
そこはどこにでもあるただのオフィスビルだった。そこ、というのは近くの赤い扉を指しているのだろう。
俺は車を降り、続いて輝井ちゃんとメリー、マリー、鈴蘭が降りてくる。
赤い扉は円型のノブをひねると簡単に開いた。なのでそこに入ってみると、部屋の様子が伺えた。
部屋の中は立体映像で出来た地球儀が一つ、それ以外はソファが幾つかある程度だった。
「かっくん、この地球儀すごいよ!」
輝井ちゃんの声に反応してそちらを向くと
「こちらは私の家ですね。」
「近所の公園とかまで再現してる!すごい!」
「お兄ちゃん、私達の家もあるよ!飛行機も今飛んでるのと全く同じ!」
その地球儀を見てみると、確かに今の世界と全く同じだということがわかった。
札幌は今日は雨→雨雲が北海道の一部を覆っている。
今朝青森空港を出たであろう飛行機が飛んでいる。
中部は高気圧の影響で晴れ→雲がほぼ見当たらない
高波警報が北陸に出ていたはず→地球儀も高波、
…等日本の半分をざっと見てみたが現在時刻に起こっていることをそのまま映しているように思えた。
「そうだよ、これは人工衛星からのデータで作っている映像だからなー。」
いつの間にかいた親父がそう言った。
「で、ここ。各国上空に真っ赤な戦闘機がいるだろ?」
確かによく見ると赤い点がちらほら…
「これが爆弾を運んでいるらしくてな。しかも威力がスパコンでも処理できないっていう状態。」
威力の計算すらできない?
「それはおかしくないか?所詮人の手で作られたんだから計算くらいはできるだろ。」
「いや、それが出来ないからここに集めたんだ。」
ますますわけがわからない。みんなも理解が追い付いてないようだ。
「恐らくもうすぐ爆弾が炸裂する。それでもお前らに死んでほしくないからここに集めたんだ。」
「それならシェルターとかそういう所の方が…」
「いいか、よく聞け。」
親父こそ俺の話を聞けよ。
「…死ぬなよ」
その一言を親父が言うとともに、床に書かれた模様、魔法陣が光り始める。
「魔法陣?親父は変だとは思っていたがまさかの魔法使い?」
「まあ似たようなもんだ。気にすんな。」
気にするなって方が無r
光が一層強くなり俺たち5人…俺、鈴蘭、輝井ちゃん、メリー、マリーを包み込む。
そして意識が途切れる寸前に見たのは、地球儀に何の前触れもなく赤い斑点が出現したところだった。
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俺が目を開けたとき、そこは草原だった。
そこは風の音、草が擦れる音、衣擦れの音くらいしか聞こえず文明の音がない、そんな場所だ。
起き上がって自分の状態を確認する。服装は変わらず学ランだが背中に草が付いているくらいか。
所持品は学校に持っていったバッグくらい。鈴蘭たちは何処かな…
座っていても周囲確認は難しいので立ち上がる。すると目の前に一人の少女がいた。
「マスター、お待ちしておりました。」
メイド服を着た銀髪少女は俺に向かって深々とお辞儀をしてから、そう言った。
…マスター?