桜の木の下で
今回は、学生時代に書いた小説をリメイクした話です。
※あらすじにも書きましたが、少しだけですが、差別描写があります。苦手、または不快になられた方はお薦め致しません。
彼女にあったのは、僕がまだ若い頃だった。
日本人と異人の血が混じっていた僕は、周りから遠巻きにされていた。
日本が外国と交流して暫く経つが、やはり慣れないのだろうと思った。
僕は、ロシア人と日本人の間に産まれた子だった。
父はロシア人で母は日本人だった。
僕の髪は黒いけれど、瞳の色が灰色だったから周りから鬼子や忌み子と言われてきた。
それでも、両親は愛してくれたけれど…
父の国と母の国が戦争を始めてしまい、父は敵国だからと言う理由で連れて行かれ母は、裏切り者だと決めつけられて二人から、幼かった僕は引き離されて、二度と会うことが出来なかった。
そして、母方の祖母に引き取られたけれど、其処に来ても僕は周りから白い目で見られてきた。
幸いにも、祖母は僕を大切にしてくれてたから、特に気にもしなかった。
そんな、ある日だった。
日課である夜の散歩をしていれば、見慣れない少女がいた。
薄紅の着物は、桜の模様が着いていて、髪は黒くて腰まである少女。
その少女は、散歩の時に通る桜の木にいた。
桜の木は、今は春の前なのかまだ咲き始めてはいないが、蕾が着いていた。
ー…女の子がこんな夜遅くになんて不用心なのか…ー
そう思って、見ていれば僕の視線に気付いたのか、少女が振り返った。
今宵は満月であり、振り向いた少女を見た僕は、少女に見惚れてしまった。
少女は、人形のような顔立ちだった。満月の光を浴び、桜の木に佇む少女はこの世に果たして存在しても良いものなのか…
それぐらいの美しさだった。だが、それ以上に彼女の瞳が一掃にそう思わせるような色をしていた。
片方が黒い瞳でもう片方は緑の瞳を持っていた。
少女は、そんな僕を見た後に笑いかけた。
「こんばんは。」
少女は、声すらも美しく、僕も釣られるように
「こんばんは」
と、挨拶をした。
「見て下さい。桜の蕾が昨日よりも多く着いています」
少女が僕を隣に呼び、暫く何も話さずにいたことで、少女が話を切りだした。
情け無いことに、僕は緊張してしまい、この日は禄に話すことも出来なかった。
そして、その日から度々少女と決まって、その桜の木で会うことになった。
少女の名は、さくらと言った。
いつもいる、花の名と一緒だと思った。
「貴方は、なんて名なの」
首を横に傾けるさくらは、その仕草がとても愛らしい
「僕には、二つ名があってね…一つは、草治郎と言うんだ」
「草治郎…もう一つは」
その問いに、迷い…同時に己の迂闊さを呪った。
さくらは初めて僕に分け隔てなく、接してくれた人だった。
だからだろう…気を許して話してしまった。
「どうしたの」
不思議そうに聞いてくる、さくらに僕は溜息をつき、
「もう一つは…ジェーリヴォ」
「聞き慣れない名ね」
「…僕の父は、異人なんだ…この名は、父の国の言葉なんだ」
もう、さくらと会うことはないのだろうと諦めと悲しみで打ち明けた。
元は、自身の迂闊さが原因なのだ。
そう思った。しかし、
「なんだか、不思議で変わった名前ね」
さくらは、まるで気にもしてないような声で言った。それに、僕は驚いた。
「蔑んだりしないのかい」
僕の問いかけに、分からないと言うように
「何故」
と言った。そして、さくらは僕に問いかけた。
「ねえ…貴方の御父様の御国はどちらなの」
その問いかけと、声色は…純粋な疑問だったが。
眼は、好奇心と無邪気な彩色の違う色が見つめていた。
ー…さくらになら、僕のことを話しても良いかもしれない…ー
そう思って、僕は言った。
「ロシアと言う国だよ…この国よりも広くて、冬は寒いと言っていた…父の、生まれ故郷だ…」
父は、漁師だった。
ある日、父の乗っていた船が運悪く沈んだらしい。
だけど、父は運良く助かった。
気が付いた時には、父は暖かな布団に寝かされていたらしく、疑問に思って辺りを見回した。
その時助けたのが、母方の今は亡くなった祖父だった。
祖父は、話によれば大層な世話焼きで変わり者だったらしく、例え異人だろうが何だろうが関係なく、助けていたらしい。
祖父は、父に良くなるまで家にいろと言い、暫くやっかいになった。
その家には、娘がいた。
その娘が、母だった。
母は、父を見て驚いたらしい。
当時、母は異国に興味があり、父にくっ付いていたと聞いた。
父は、母を最初は可愛らしい娘だと思ったが…日が経つに連れてお互い惹かれあった。
そんな母と父に気付いた祖父と祖母は、黙って見守っていたらしい。
当時、母に言い寄っていた男がいたが、母はその男には昔から苛められていたので、好きではなく、寧ろ避けていたので何故今になってそんな事を言い出したのかと思った。
ある日、母がその男に告白された。
しかし、母は父を愛していたので、断った。
男は、なんとか母を手に入れるために家の権力を使った。
男は、村の地主の息子だった。
このままでは、母は父ではなく、望まない男と結婚する事になる…母を連れ去ることが出来たらと考えた…しかし、父は、母の家族を助けて貰ったのに、仇で返すことになることを躊躇った。
其処に、祖父が父にこう言った。
『娘をどうか、遠い地まで連れて行ってくれないか』
父は、日本に来てからかなり経っており、母達に言葉を教えて貰っていたので、この国の言葉を殆ど覚えていた。
そして、当時の二人が愛し合っていた事も祖父は知っていた。
父は、最初は断ろうとしたが
『君が、恩を感じるのなら…娘と共に遠い地に行き、そして娘を幸せにする事が、私達の最大の恩返しになる』
そう言って、祖父は父に言った。
父は母に全てを話して、祖父や祖母に当面生活できる金と持ち物を持たせて、逃がした。
そして、暫くして僕が産まれた。
そんな、話をさくらにした。
「そうだったの…なら、貴方の灰の瞳は異国の目なのね?」
さくらは、その話を静かに聞いた後、僕の眼の事を言った。
「そうだよ…父の国では珍しくない眼だ」
「貴方の御父様は、どんな人だったの?」
「優しい人だったけれど…厳しいときもあった」
「御母様は?」
「明るくて、いつも前向きな人だった」
こうして、家の話をするのは初めてだった。
「なら、草治郎は二人のことが大切だった?」
さくらの言葉に、僕は
「今でも、尊敬し、敬愛している…もう、会えないけれど…僕は、二人が好きだった」
幼い頃に、大きな父に肩車をして貰った日、
優しい母に泣いているところを抱き締めて貰った日
三人で、夜、花見をした日
どれも、素敵な思い出だ。
「素敵な人達なのね…ねえ、草治郎…」
声を掛けられて、何事かと思いながらさくらを見れば
さくらは、僕の顔に手を添えていた。
「…泣いても、良いのよ」
僕を見ている、双方の違う色を宿した瞳を見れば、
僕は涙を流していた。
そして、さくらは手を離すと
僕を抱き締めてくれた。
「大丈夫、大丈夫」
昔、母がしてくれたように、僕よりも背が低いさくらは、それでも手を回して優しく叩いた。
その、温もりを逃したくなくて僕はさくらにそっと縋るように泣いた。
「父も、母も…愛していたっ…仕方ないとっ…離されてしまうのはっ…だけど…」
だけど、
「それでもっ…家族三人でっ…暮らしたかったっ…」
自分のことを、鬼子や忌み子と言われようと
父が異人だろうと
母が日本人だろうと
そんな事、誰に認めて欲しいと言った。
例え、辛くて貧しくても、僕達は幸せだったんだ。
なのに、そんな…たった一つ違うだけで引き離されてしまうなんて、冗談じゃない。
返してくれ、僕の大切な両親を
返してくれ、あの幸せな日常を
返してくれ、返してくれ、返してくれ
僕達は、確かに幸せだったのに、何故、ほっといてくれなかったんだ
そんなやり場のない悲しみが涙となり、さくらの着物を濡らしていく。しかし、さくらはそんな僕を何も言わないで抱き締めた。
男なのに、外でみっともなく泣く僕に何も言わないでただ、その何も言わない優しい温もりを離したくなかった。
大きく欠けた月が、僕達二人を照らしていた。
その日から、僕とさくらはより、仲が良くなった。
僕の他愛のない話にも楽しそうに聞き、
さくらが歌う声に静かに耳を傾け、
そんな、毎日をいつしか楽しみにしていた。
僕は、さくらをいつの間にか愛していた。
ある日、さくらが僕に言った。
「この桜はね、平安の時から、此処にいたのよ」
「随分と長くあったんだ」
「ええ…長く長く、人を見てきたの…不思議でしょう」
そう言うさくらは、何処か悲しみが混じっていた。
「この桜は、人を惑わしては人を殺すと此処の村では長く言われてきた…だから、村の者は近付かないの」
さくらは、本当に悲しそうに言った。
その話は、知らなかった。
僕は、そっとその桜の木に触り、優しく撫でた
「それでも、この桜には感謝しかない」
驚いたさくらに、僕は微笑んだ
「君に、出逢えた」
「何故…」
「君と初めてあった時に、僕は、君に見取れた。この桜が無ければ、きっと君に気が付かないで通り過ぎていたと思う」
桜の木に頭を寄せて、僕は言った。
「ありがとう、さくらに会わせてくれて」
眼を閉じて、その桜にお礼を言った後、
僕は、泣いている事に気が付かないさくらを抱き締めた。
「…何故、抱き締めるの」
「君が泣いていたから」
「私、泣いていたの」
「大丈夫、大丈夫」
その、問いに敢えて答えずに僕は彼女の背をいつしかさくらが抱き締めてくれたように僕も同じように抱き締めた。
さくらは、静かに涙を流した。
そして、より僕達は親密になった僕達は、それでも夜に出会うことしか出来なかった。
それでも良いと、思った。
ある日、祖母の容態が悪くなり、僕は、さくらに暫く逢えなくなることを伝えた。
さくらは、寂しそうにしていたが、そう、と言って御大事にと言った。
そして、祖母が亡くなった。祖母は、最期に僕に言った。
僕という孫が来てくれたことが嬉しかったこと、
毎日が、楽しかったこと、
最期に孫に看取られて、私は幸せだったと言った。
だけど、来たときから優しかった祖母は、その後僕を真剣見た。
「あの桜の木にはもう、近付かないように」
何故と言おうとすれば、
「あの桜は、昔から人を殺してきた忌まわしい木だ。殺した人間の魂を、古くから吸って生き長らえてきた…そして、決まって人の形をとる」
祖母の話によれば、その桜の木は村の古くからの言い伝えで、子から孫に伝えられていると言う。
曰くその姿はとても美しく、それを見た者は魅入られてしまう。
人の形をとった桜は、老若男女問わずに虜になる。
何度も桜の木を切り倒そうとしたけれど、決まってそれを行えば、不慮の事故が起こる。
だからこそ、その桜の木は今のまま彼処にあるのだという。
そう言った祖母は、僕の手を握った。
「草治郎、どうか、幸せ…に…」
最期は、僕の好きな優しい微笑みで、亡くなった。
祖母の葬式を執り行い、通夜をした。そして、四十九日が過ぎた後に家で横になっているときに、縁側に誰かが来たようだった。その、人物はさくらだった。
さくらは、近づいた後に座っていた僕を押し倒すように、寝かした。
僕は、されるがままに抵抗なく受けいれた。
お互い無言で見つめ合っていた。
口を開いたのは、さくらだった。
「何故、抵抗しないの」
「する必要がないから」
そして、僕はさくらの頬に触る。
「私は、人を殺してきたのよ…貴方のことだって、躊躇いなく殺せるのよ」
「それでも、」
さくらの顔を、両手で包む。
さくらは、表情はないのに眼は、明らかに動揺していた。声も、感情が乗っていないのに、僕には淋しく聞こえる
「君が何者でも、誰でも…人でなくても構わない…ただ、僕は君を慕っている…心から」
その言葉を聞いたさくらは目を見開いた。
場違いにも、愛らしいと思った。
「初めて、家族以外で僕を認めてくれた、知る度に君を愛しいと思っていたんだ…」
紛れもない本心を言った。
「愛している、君を」
その、愛の言葉を伝えて僕の胸に置いてあるさくらの両手を、自分の首に添えさせた。
「だから、君に殺されるなら、本望だ」
言葉を終えて眼を閉じた。
愛するさくらに殺されるのなら、苦しさだって愛おしい。
だけど、待てども苦しさは来なかった。
目を開けて、さくらを見れば
泣いていた。美しい瞳から、これまた綺麗な雨を僕の顔に掛けた。
そして、添えさせた首からまた、胸に戻した後、さくらは僕の胸に縋るように泣いた。
「何故…何故、貴方はそうして死を受け入れるの…」
それこそ、先ほど言ったはずだ。
「他の誰かに殺されるのは、嫌だけどさくらなら、例え…何であろうと構わない」
その言葉を聞いたさくらは、
「私は人ではないわ…自分の力のために人を殺す、桜の精よ」
懺悔するように言ったさくらを空いた手で抱き締めた。
身体が震えたが、気にすることは些細なことだ。
「今までも、自分のために人を殺して来たわ…自分を強くするために、人の魂ですらも糧にして…なのに、そんな恐ろしい物の怪を貴方は知ったのに愛されるの?」
顔を上げないさくらを更に強く抱き締めた。
「なら、君は異人の血が入った僕をどう思う?」
「…貴方は、人間よ…私と違うわ」
「そう、僕と君は人と精霊…ただ、それだけの違いだ」
顔を上げたさくらに、僕は言った。
「…今なら、父が母を愛した意味が分かる…愛することに、違いなど…そんな事は些細なことなんだと…さくら、君は僕をどう思う」
僕の問いかけに、さくらは涙をこぼしながら言った。
「私も、貴方を慕っているわ…」
その顔は、あどけない笑顔だった。僕はさくらを引き寄せて、口付けた
長い長い、口付けだった。気付けば、僕はさくらを今度は押し倒していた。
「でも、良いの…私は、傍にいれば貴方を…力が衰えれば殺すわ」
「構わない…君の力になれるのならば…」
そう言って、僕はさくらの着物を手に掛けた。
肌に触れば、さくらの聞いたことのない声を上げた。
その度に口付けをすれば、さくらは控えめに受け入れる。
そして、そのまま一つになった。
途切れ途切れのさくらの声に、僕は聞く度に歯止めが利かなくなっていく。
事が終わり、さくらを抱き締めたそしてさくらが話し掛けた。
「ねえ、草治郎…」
少し、掠れた声と気怠げなさくらにどうしたのかと聞いた。
「草治郎のもう一つの名前…なんて意味なの」
その言葉に、僕はさくらの髪を撫でるように梳いた。
「ジェーリヴォ…ロシアの言葉では、木という意味だ」
そう言えば、さくらは満開の桜のような、笑顔をした後、
「なら、私達は運命だったのね」
その言葉に、
「そうだね…」
もう、眠くなってきた僕は、桜を抱き締めたまま頷いて寝た。さくらが、何か言ったような気がしたけれど、それは明日聞こうと思った。
「本当に、馬鹿な人…」
朝が来て、目を開けたけれど違和感を感じた。
傍にいるはずの、さくらがいなかった。
何処に行ったのだろうかと探したが、見当たらない。
その時、机の上に一枚の折り畳んだ紙があった。
何だろうと思い、読もうとしたが…嫌な予感がして、あの桜の木に行くと…
桜の木が、咲いているのに…雷に撃たれたかのように真っ二つに分かれていた。
呆然として、見たけれど…手に何故か持ってきた手紙を読んだ。
読まないといけない気がしたからだ。
草治郎へ
やっぱり、私は貴方を殺せません
今までは、誰でも躊躇いなく、出来ました。
でも、私は貴方に生きていて欲しいと思った。
貴方を、本当に慕っています。
だから、殺せませんでした。
でも、それだけではありません。
桜の木はもう、遥かの昔にいつ倒れてもおかしくなかった。
だから、私は人を殺めてきました。力でそれを補ってきた。
だけど、それも限界が来たのです。
私は、この世から去ります。
草治郎…どうか、幸せになってください。
桜と私と木の貴方が出逢えたのは、私には過ぎた幸福でした。
さようなら、私の桜の木
愛しています
さくらの手紙を読んで、僕はその場で、手紙を握りしめて、その場で泣き崩れた。
何故、それなら僕をあの時殺してくれなかった
何故、連れて行ってくれなかった
君と、死ぬのなら構わないほどに愛していたのに
そんな思いを抱えて、僕は声を押し殺して泣いた。
そして、その後はその桜の木は供養され、綺麗に無くなってしまった。
僕は、あの後せめてもと思い、桜の枝を折って自分の家に持ち帰った。
さくらと共に居たいという、身勝手な思いからだった。
季節が過ぎ、何度も何度も月日を繰り返した。
僕は、妻をとることもせずに一生一人でいた。
たまに、家に訪ねてくる人もいた。
そして、僕はある日倒れた。
年をとり、そろそろ寿命がきたことが分かった。
僕には、友人が出来た。あの頃から暫くした後に彼と知り合って、友人となったのだ。
その友人宛に、僕が死んだら棚に飾ってある桜の枝を入れて欲しいと遺言を書いた。
そして、布団に横たわった僕は、若い頃に出逢った少女…さくらを思い出した。
初めてあった日
泣いていた僕を抱き締めてくれた日
そして、今度は泣いていたさくらを抱き締めた日
思いを伝え、全てが一つになったあの日
そのどれもが、流れるように思い出された。
これが、走馬灯というものかと思った。
そして、眼を閉じた。随分と穏やかな眠りにつけた。
意識が遠のく、その間際に嘗ての愛しい人の声を聞いた。
『草治郎』
そして、その声に導かれるように僕は
『さくら』
と、声を出した。
こうして、僕は生涯を終えた。
「本当に、馬鹿な人…」
私が、人を殺める化け物知っても愛しているなんて…なんて、馬鹿なのだろう…
「私が、貴方を殺せる訳ないのに…」
最初は、貴方も殺そうとした。人なんて、一緒だと思った。だけど、知る度に草治郎を愛するようになった私には、そんな事が出来なくなった。
草治郎を失うのが、怖い
私が彼を殺してしまうのが恐ろしい
だから、
「貴方を、連れていけないわ…」
寝ている草治郎に、別れの口付けをして紙に、彼に宛てて手紙を書いた。
そして、最後に草治郎を見た後、私はその場に去った。
私自身である桜の木に着いた後、私はその場で、桜の木に寄りかかって眼を閉じた。
自分が消える…当たり前だ、既にこの木も私も、長く生きすぎて限界が来ていた。
ここいらで、潮時なのだろう。
桜の木が、割れる音がした。
私が消える感覚がする。
最期に、頭に思い浮かべたのは
愛おしい、草治郎だった。
本当は、共にいたかった
本当は、一緒に行きたかった
だけど、それは泡沫の夢。
『さくら』
貴方の声を聞きながら、私は消える最期に呟いた。
「愛して、います…草治郎…願わくば、貴方と居たかった…」
…………………………………………………………………………………
今回の話は、私が学生時代に書いた話です。(;・д・)
因みに、ラストでヒロインが消えるのは一緒で、主人公がハーフだと言うのも、そして内容も割と一緒ですが、それをちょこちょこと加筆したり、名前を変えたりしました。
もし、読後も読まれて不快に思われた方…本当にすみませんでした…(;´Д`)
今回、投稿しようと思ったのは、ふと思い出していてもたってもいられなくなり、投稿しました。
それでは