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46-女神なんて居なかったんや

「あちゃーそう来たか・・・マズイね、こりゃ」


「ゲッ、アンタその姿は、何よ?!前に私より年上みたいな事言って無かったかしら?どう見ても私と同じかそれ以下じゃない・・・マズイわ」


 何が不味いのか分かりませんが、二人とも嫌そうな顔をしてとある人物に目を向けました。

 その視線を一身に受けた人物こと、女神系魔導具店主メルさんであるのですが、何故か口元を片手で覆い隠して居りました。

 メルさんが何故他の二人から不審な眼で見られているのかも謎ですが、その前に、ポタポタと赤い液体がその口元を抑えた手から滲み出て、足元に水溜まりを作っています。

 って、よく見なくてもこれ血じゃない?!しかも水溜まりが出来るぐらいって・・・まさか、さっきの間欠泉が噴き出すような音って、メルさんが血を吹き出す音だったの?!

 何かしらの持病もしくは、突然の発作なのかも知れない。どうしよう、早く病院に連れて行かないと?!

 そう慌てた僕は、未だ口元を抑えつつ、少し身震いして居るメルさんに声を掛ける事にしました。


「ちょ、ちょっとメルさん大丈夫ですか?!それって血ですよね?どこか悪いんですか?ってか、何でリーファもリサさんもそんな落ち着いてるの?!早く病院に連れてかないと・・・」


 僕が慌てているのが滑稽に思えるほどに、リーファとリサさんが凄く落ち着いて居て、何故かそんな僕たちをどこか嫌そうな眼で見ていました。

 そんな二人の様子に違和感を感じた僕は、メルさんが大事になって居るにも関わらず、その疑問に答えて貰おうとそんな二人に顔を向けて、問いかける事にしました。


「ど、どうしたの二人とも?メルさんが大変な事になっているのにそんなに落ち着いて・・・ハッ!もしかして、メルさん何かしらの持病を持っていて、吐血が日常茶飯事だとか?でもそれでも、こんな大量に血を出しているのは流石に不味いんじゃない?!早く止血なり病院で処置して貰わないと!!」


 そう僕が訴えますが、それでも落ち着いた雰囲気どころか益々嫌気を示すように、メルさんを眺める二人の表情が芳しくありません。

 するとそんな僕の訴えにやっと応えてくれるのか、リーファが口を開きましたが、何故かその語る口はどこか重たそうでした。


「ぁーそうね。確かに持病?は患っているわね」


「や、やっぱり?!じゃ、早く病院に・・・」


 そう続く言葉を僕が発しようとしたら、


「アキクン!!」


 突如、僕の言葉を遮るようにメルさんが僕の名前を呼びました。


「ぇ?ぁ、はい、なんですかメルさん?って、体調は大丈夫なんですか?!」


「だ、大丈夫よ、アキクン。ありがとう心配してくれて・・・それでだけど、その姿は何かしら?」


 未だ口元を抑えていますが、先程ポタポタと垂らしていた血は止まったみたいですね。

 本当に大丈夫なのか疑問ではありましたが、リーファに聞く限りやはり何かしらの持病を患っているみたいですから、気持ちを幾分か和らげるためにも、他の話をする事も大切だろうと思い、メルさんの問いかけに答える事にしました。


「ぇっと、この姿ですか?どこか変な所はありますかね?一応見た目は、ヒューマンらしいですが・・・ぁ、それとこの服なのですが、知人から頂いた物で、甚平って言うんですよ。どうです?似合いますか?」


 そう言って、先程もしたように一度くるりんと回ってみて、前後ろと僕の姿格好を見せ、メルさんに感想を伺ってみました。

 っとその前に、少し僕の姿格好について語ろうかと思います。

 見た目の姿は、この世界で言うところのヒューマンこと人間なのですが、前の世界の僕とは少し違っているみたいなんですよね。

 まず見た目の年齢が、明らかに一桁と思われる男の子です。前の世界の僕は、高等部に入ったばかりのピッチピチの15歳だったのですが、何故かショタに転生してしまったようです。

 多分ですが、仔竜ベビードラゴンに併せた仕様なんだと思います。

 それに前は少し・・・そう少し、ぽちゃんとしたおにゃかが今はすっきりポンと無くなり、昔懐かしいまだ純粋で幼かった頃の体がそこにありました。

 それ以外は特に変わった事は無い気がします。ぇえ変わっておりませんとも!幼かった頃の僕は、今の姿の様に愛らしかったですとも!!親戚のお姉さんも可愛いって言ってた頃の自分ですとも?!

 って事にして、愛らしい黒目黒髪の純日本男児が僕です。

 あとシュセンちゃんから頂いた甚平を着こなして居て、益々日本男児が板についていると思います。ちなみに履物は、甚平に併せて草履となります。

 シュセンちゃん曰く甚平も草履もアーティファクト級らしいですよ?

 ですので、見た目に反して防御力があり、並の防具とは比較にならない程の一品だとか・・・良いよね!ファンタジー和装最強説!?

 そんな感じで、ショタライフを送る事になった僕ですが、これじゃ美少女や美女にちやほやされたとしても、恋愛までには至らなく、愛玩動物にされるのがオチと言うのが、懸念させる問題ですよね。悲しい事です・・・ハーレムしたかった(遠い目)。

 でもこのまま順調に行けば、もしかしたら美男子になる可能性も否定出来ないので、前の世界とは違うルートを辿るため、きちんと鍛錬に励みたいかと思います!

 この世界には誘惑する書物や映像もありませんから、次元ではなく、現実を駆ろうと言うものです?!

 ヲタクは頑張れば出来る子説を見せてやりますとも!!

 そんな新たな活路を見出した僕は、前の世界の同志達の代わりにこの世界で生き証人となるべく、まだ見ぬ美男子な未来へと想いを馳せるのでした。


 目指せ!ハーレムマスターの道!!?


《・・・・・・・ふっ》


 あとでナビとは、何度も言ってる気がしますが、腹を割りまくって話し合いたいと思います。

 愛人だとか正妻だとか言ってくる割には、辛辣な気がするのは気のせいだろうか?!


《現実って目を背けたくなりますよね》


 マジなんなの?!

 ナビによる冷水ぶっかけ現実見ろよな態度に、遺憾の意を表明しつつ、厳格な政治家ヨロシク、今後の政策について議論したい気持ちに駆られていると、


「ぶっほぉ。もう我慢出来ない!アキクンいらっしゃい!!」


 メルさんらしくない、凄く興奮した様な声音で僕を呼んだかと思ったら、急に腕を掴まれ、そのまま抱きしめるように僕をメルさんのあの美しくも絶景な双丘へと導きました。


「ちょ、メルさん?・・・ッ、むぎゅぅ」


 そう、むぎゅぅです!むぎゅぅ!!この姿で、初の抱擁・・・素晴らしいです!!

 残念と言うか良かったと言うべきか、今回も心中では総前屈み状態ですが、この未熟な身ではMySUNは反応しないようです。

 ですので何ら問題無く、相手に不快な気持ちにさせないそんな抱擁が可能なショタの体に、今は感謝です!!

 ぁあ、何という素晴らしいのでしょうか・・・最初この術を覚え、このショタの身に幾らかの失望を感じましたが、よく考えてみたら、この身だからこそ出来る事って多いんだなって気付きました。

 愛らしい幼い姿で居れば、女性から自然に抱擁させる事もあると、今回証明された訳ですし。

 恋愛には至らないかも知れませんが、それでもこの甘美な時間を得られるのなら些細な事です。

 あと純粋なショタならここで羞恥の余りヤメテよねっと返すところでしょうが、そんなつまらない矜持など今の僕には思い出せません。

 ですので、ここは厭らしくならない様にこの抱擁を楽しみたいと思います・・・少しぐらいさわわしても良いよね?

 そう思い、双丘の次に魅惑のヒップに手を触れようとした、その時・・・


 ポタ・・・ポタ・・・ポタタ・・・


 と何やら水滴が頭上から落ちて来ました。

 はて?何だろうかと思い悩むも数瞬、そう言えば先程メルさんが何の病に罹患してるか分かりませんが、その症状として血を吹き出してしまったのですよね。

 そうなると今している抱擁で腹部が圧迫され、それが原因の元にまた血を出しているのやも知れません。

 これはいけませんね。幾ら抱擁が気持ちよくて、離れ難いものがあろうとも、メルさんに負担を掛ける訳にはいきません。

 お優しいメルさんの事ですから、僕に気遣って無理をなさっているかも知れないので、ここは僕から抱擁のお断りをするべきですね。


「ぁ、メルさんごめんなさい。体調が優れないのに無理させてしまって。一度離れますね?」


 そう言いつつ、メルさんのあの穏やかで優しい顔を見上げようと、その温かく形容しがたい柔らかい双丘から顔を抜け出そうとして・・・


「ハァハァハァ。だ、大丈夫よ、気にしなくて。それにもっと私に抱き着いても良いのよ?」


 やっぱり病状が悪化してしまったのでしょう。凄く苦しそうに声を絞り出しながらも、僕に優しく言葉を掛けてくれるメルさん。

 それにしても、抱擁が原因でそんなに苦しそうにしているのに、もっと抱き着いて良いなんて・・・もしかしたら、僕の事を気遣ってくれてるのかも知れません。

 女性の皆さんは、男性による視線や情欲に敏感と聞きますし、メルさんも僕のそんな厭らしい気持ちに気づいてしまったのでしょう。

 それなのに、その邪な想いに応えようと、辛い病態にも関わらず、まるで聖母の様な慈愛をこんな僕に与えてくれるなんて・・・やっぱりメルさんは素晴らしい女性です。

 そんなメルさんに恋をして良かった。こんなショタの身では不釣り合いだと分かっているから、僕はその気持ちを打ち明ける事は無いだろうけど、それでもこの気持ちは大切にしよう。

 そう思えばこそ、もうメルさんの事を情欲のはけ口にするのは止めるべきですね。

 そう決意した僕は、メルさんからの抱擁を純粋な気持ちで受けつつ、そしてもう十分だとその身をメルさんから離すことにしました。


「ありがとうございます、メルさん。もう十分ですから・・・離れますね」


 今度こそ、離れようとメルさんに断りの言葉を伝えたのですが、


「ハァハァハァ。だ、ダメよ!折角見つけた完璧で理想なオトコノコ!!もう二度と離さないわ!!?」


 そんな苦しそうで切ない様な、もしくは凄く興奮した様な声が聞こえてきて・・・って、ん?いま変な内容の言葉が聞こえなかった?

 ぇっと、確かにメルさんの声だった気がするんだけど・・・あれぇ~?

 ふと、リーファとリサさん二人のあの嫌そうな顔を思い出し、何だか凄く嫌な予感をして、未だに止まない降り注ぐ水滴の元を確認しようと、今度こそ顔を上に向けて、メルさんの顔を見上げようとしたら、そこには・・・


 変態が居ました。


 いや何言ってるのか、メルさんはどうしたって思われるかも知れませんが・・・変態が居るとしか言えません。

 確かにメルさんのあの美しく整った輪郭の顔なのですが、その顔に設えている各パーツが大変な事になっております。

 まず降り注いでいた水滴ですが、やはり血液でした。しかし、その血液は口からではなく、鼻孔からのものです。

 鼻孔から熱いパトスを流し続けた事で、あの美しかった鼻梁が崩れ、その穴を大きく広げ、ふがふがとさせています。

 それによく見てみると、半開きの口からは涎まで垂らして居て、その鼻孔から溢れた熱いパトスと合流し、その入り混じった汁が僕の顔に降り注いでいるようです。

 何が起きているのか茫然自失した僕は、その水流の過程を眺める事で現実逃避をしていると、ふと此方を伺う熱い視線に気付かされました。

 どこから発せられたのか言うまでも無いのですが、語らない事にはこの大惨事に対応出来そうにも無いので、どうにか心を奮い立たせ立ち向かう事とします。

 それでその熱い視線の元ですが・・・この様になる前は、糸目でも分かる慈愛を感じさせるような優しくも美しい眼があったのでしょう。

 ですが今は、その優しさをドブに棄てたかのように眼を爛々と光らせ、まるで肉食獣が獲物を求める様な目つきに変貌していました。

 元は透き通った綺麗な水面のような碧眼だったものも、今は欲に濁りきった薄汚い色を見せ、粘りつくヘドロの様な獣欲を伴った眼差しを僕に向けています。

 本当に、この方はどなたでしょうか?

 どう控えめに見ても、場末のエロ親父の様な下賤な輩の顔が、あの美しかった女神然とした顔に無理やり施工した様に設えられているのですが・・・どう考えても悪質業者による建売物件です、ありがとうございました。

 今も感じる、美しい双丘から与えられる温かさと鼻腔を擽る様な甘い匂いが無ければ、これがメルさんの顔だとは今でも僕は信じられません。

 余りの事に絶句し、その怖ろしくも隠そうともしない情欲に濡れた眼差しを一身に僕が受けていると、その悲惨なまでのメルさんの変貌ぶりに、どこか諦観を滲ませつつも、どうにか僕を助け出そうとリーファがメルさんに話しかけました。


「め、メル?一度落ち着きましょう?誰もメルからアキクンを奪わないから、そっと一度離れましょ?大丈夫、誰もアキクンに触れようともしないし、近づかないから。だから、ね?」


 野生の獣に諭すように話しかけるリーファ・・・この状態のメルさんってそんなにヤバいの?!


「ヤダ、コノコハ、ワタシノ」


 ちょ、ついに片言になってるんだけど?!マジで野生化でもしてるんですか、メルさん!?どうしてこうなった!!?

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