35-駄竜さんを落としたあとに byギルドよりお届け
「ぇっ!?あの子、ダンジョンに突き落としてきたの?!」
そんな少し大袈裟な驚きの声は、通常なら大きく響いたはずなんだろうけど、今の時間帯のギルド内では多くの声がある中でかき消されてしまって、周りの目を引き付けることは無かった。
いつも思うんだけど、リサって少しリアクションがオーバーなのよね。レディを志す私としては、少し頂けないと思うの。機会があったらレディとはどんなものか、エリスと一緒に教えてあげなきゃね。
「リサ、それはちょっと人聞きが悪いわ。それに突き落としてなんか無いわよ?下に降りるために少し手を貸しただけだもの」
そう私が訂正を求めたんだけど、リサは全然聞き入れてくれなくて、
「いやいやいや、何言ってるのリーファ!?それ本気で言ってる?!・・・ぁ、本気なんだね・・・お、お姉さん貴方の将来が本気で心配だわ」
そんな失礼な事を言いながら、窓口のカウンターで頭を抱えるリサだけど、何でそんな事を言われなきゃいけないのか理解できないわ。
きっとアキ・・アイツのことだから、今からダンジョンに潜るって言ったら、尻込みして潜らないとかきっと言うはずなのよ。
だからそんな臆病なとこを私に見せて、アイツが恥ずかしく思わない様に、私が直々に手伝ってあげたって言うのに・・・リサってば、そんな私の親切心を察せられないなんて、やっぱりまだまだレディとしては甘いわね。
ふふん、ギルド職員の中で一番人気の相談役『リサの姉御』より出来るレディだなんて、私ってば天才魔術師だけじゃなく、レディとしても高みに至ってるのね・・・自分のことながら怖ろしいわね。くふっ、くふふふふっ。。。
「何でそこで、誇らしそうに含み笑いが出来るの・・・ハァ、メルとマジで話し合わないといけないかも知んない」
「ぇっ?なんでそこでメルの名前が出てくるのよ?!わ、私なにも悪い事してないわ!寧ろレディとして当たり前な、相手を思いやってした事よ?それなのに、まるで悪事をメルに告げ口するみたいな言い方して!納得いかないわ!!」
優雅なレディを志す私としては、本当はあまり自分が行った善行を吹聴するのは、はしたないかと思うけど、このままではリサの勘違いでメルに大目玉を喰らいそうだし、ここは仕方が無いわよね。まぁこれでリサも私の真意に気づき、その素晴らしいレディぷりに恐れ戦いちゃうかも知れないわ。どうせ遅かれ早かれなのだし、ここは甘んじて称賛を受けようかしら。
「相手を思いやって、ダンジョンのしかもあのスライムの巣窟化してる危険度Sクラスに指定された穴に落としたって言うの?」
称賛を受けるのかと思ったら、違う事を聞かれてしまったわ・・・まぁあれかしらね?その前に事情の確認した上で、箔をつけてから称賛をするって形かしら?もうリサも役者よね。
「そうよ?それにアイツは、私と同じような称号の『粘液生物の天敵』ってのが付いてるし、何も問題無いと思うわ」
「確かに私もリーファのギルドカードを確認した時、それもちゃんと把握してる。でもね、あのスライムの巣窟は生半可な力量じゃどうにもならない場所なんだよ?なんであの雑魚呼ばわりされているスライムの巣窟なだけで、Sランクに指定されてるのか知ってる?」
「ぇ、ぇっと・・・あれでしょ?数が多いだとか少しレベルが高い個体が居るとかそんなもんなんでしょ?それぐらいならアイツでも大丈夫よ!」
少しってか、かなり情けない子だけど、それでも腐っても仔竜なんだし、称号付きならなおさら何も問題無く、スライムの巣窟ぐらい攻略出来るわよ。まったくリサは心配性なんだから・・・それともアイツの力を信用して無いとか?
正直、あの姿や行いからは、分からなくも無いけど、それでもリサには一つ文句を言わせて貰わなきゃね。私の従魔を悪く言うのは誰であろうとも許さないんだから!!
「確かに不甲斐無いように見えるかもしれないけど、私の従魔を甘く見るのは止めてよね!幾らリサでも許さないわよ!!」
ふふん言ってやったわと鼻息を荒くしてみるけど・・・ってレディとして少しはしたないわね?少し落ち着くのよ私。ふふん、直ぐに冷静になれるなんて私も大人になったものだわ。と自身の成長に感慨深く想っていると、
「ハァ。別にリーファの従魔をどうこう言うつもりは無いって・・・ただね、無理なの」
「な、なにが無理なのよ!」
せっかく落ち着いてレディ然としてたのに、リサの呆れる様な物言いに少しカチンと来てしまったのは仕方が無いわよね?ノーカンだわ。
「落ち着いて話を聞いて欲しいんだけど、本当にリーファの従魔を悪く言うつもりは無いんだ。それでなんで無理かと言うかなんだけど、あのスライムの巣窟に居る個体群は・・・無限に湧き出すの」
「へ?」
リサの突拍子もないそんな理由に、理解が追いつかなかった私は、レディにあるまじき呆けた顔をしてしまった。
「だから無限に湧くんだって・・・何が理由でそうなってるかは、調査の仕様も無くて分からないらしいけど、それでも少なくともあの穴に落ちたら、もう二度と地上に戻っては来れないと思う」
そう沈痛な顔をするリサからは、冗談を言っているようには見えなかった。
「へ?で、でもアイツならきっと大丈夫だとおも・・・」
そんな私の淡い期待を残酷な現実を突き付ける事で打ち砕くかのように、
「無理だと思う。下層までの近道としてあの穴が見つかった時、Sランク間近って言われていたグループが挑戦したけど、全滅間近まで追い込まれたらしいの。それにあの穴から下層までの深さが結構深くて、地上に戻るには、転移魔法か転移するためのアイテムを使用しないと難しいんだって」
だからきっともう戻ってくる事は出来ないと思う・・・とリサがそう言ったみたいだけど、私には何を言われたのか分からなくて・・・
「こんな事を言うのも、私もあの子に会ったばかりだから辛いけど・・・諦めた方が良いわ」
「ッ!そ、そんな諦めろだなんて・・・ハッ!従魔契約魔法に送還スキルがあったはず!!従魔送還スキル発動!!『戻ってらっしゃい良い子だから』・・・・ッ、ダメ!どうして?!なんでよ!?」
「お、落ち着いてリーファ!ダンジョン内は特殊な場所だから、外部からの魔法が効き難かったりするって聞くの。だから従魔契約魔法は発動出来ないと思う・・・」
「そ、そんな・・・わ、私の所為でアイツ・・・アキクンが・・・嘘よ・・・」
私の身勝手な考えの所為で、アイツを・・アキクンを死地に送ってしまった。
少しは加護の無いダンジョンが危険な場所ってのは分かってたはずなのに、アキクンが幼いけど竜だって事と、そんな仔竜を引き当てた事に舞い上がってしまって、きちんと情報を集めないで、スライムに対して補正のある称号があるから大丈夫だと、あの穴に導いてしまった。
そんなつもりは無かったのに、それでも私の所為でアキクンが・・・アキクンが・・・ッ、ダメよ私!アキクンが今辛く苦しんでいつ死ぬかも知れない状況に居るかも知れないのに、こんな所で泣きそうになってただ佇んで居たら、本物のレディとして立派に胸を張る事なんて一生出来ないわ!!
そうよ!向こうが来れないなら私が行けば良いじゃない!!
「ぅ、やっぱり黙ってた方が良かったかな・・・でも遅かれ早かれ分かる事だし、それに黙って隠してた方がもっと深く傷つけてしまったかも・・・ごめんね、リーファ。ギルド職員なのに何もできないお姉さんで」
「大丈夫よ、リサ」
「へ?な、何が?」
「私が行けば良いのよ!じゃ、ちょっと行ってくるわ!!」
「ぁ、いってら・・・ってダメ!!それは絶対にダメ!!ギルド職員としてもメルや貴方の友人としても絶対にそれは許しません!!」
私が早速ギルドを後にしようと駆けだそうとしたら、窓口からリサが飛び出してきて、私の腰に絶対に行かせないとばかりに抱き付いてきた。
「ちょっと!リサ放して!!私が行かなきゃ行けないの!!そうじゃないと私が私を許せない!!」
「ダメ!絶対にダメ!!それにもう間に合わないかも知れないんだよ?!」
「な、なんでそんな事言うのよ!!アイツは、アキクンはまだきっと大丈夫よ!!それに・・・ほら!ギルドカードにもまだ名前が残っているわ!!名前が残っている限り生きてるって証拠でしょ!?」
懐からギルドカードを見せる事で、アキクンの生存を確かめさせ、リサの拘束を緩めて貰おうとしたら、そのギルドカードを確認したリサが、
「た、確かにそうだけど・・・ってあれ?こんな称号あったっけ?」
そう疑問を口にしたので、気になって私もギルドカードを確認して見たらそこには・・・・
『粘液生物の宿敵と書いて友@エルのますたぁー』
「「ナニコレ」」




