33-ノット読心術
鬼退治だと啖呵を切って一歩を踏み出したものの、やはり痴女鬼さんから放たれる強烈なプレッシャーに耐えられなくて、僕は二の足を踏んで居ました。
「なんや、うちの事を褒めるだけで何もしぃひんの?ほならうちからいこか」
「ッ!」
僕が竦みあがってる事は分かった上で、痴女鬼さんがそう言いつつ、そんな僕の様子を楽しむかの様にじっくりと嬲るように此方に近づく姿からは、その鬼の角に相応しく幽鬼さを持って対峙する者に恐怖を与え、そして未だ女性としての成熟には満たないはずの少女の肢体では、あり得ない艶めかさを漂わせたしなやかな動きに魅せられ、その恐怖と欲情による相反する二つの気配に酔わされてしまい、蛇に睨まれた蛙ように僕は動けなくなってしまいました。
《ッ、御主人様、しっかりして下さい!!》
「ふふっ、ほんまかいらしいなぁ。それにしても竜やのにうちに欲情してまうなんて、珍しい事もあるんやねぇ・・・ん?なんやこの魂の具合わ・・・」
急に何か気になる事が出来たのか、今迄漂わせて居た殺気を霧散させ、僕を舐るように見始めた痴女鬼さん。
そんな急な変化に僕が戸惑っていると、この機会を待っていたかのように横から声が掛かりました。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ、シュセン!!」
そう待ったの声を掛けたのは、あのおもらし鬼っ子さんでした。
「んーなんや異物が付着してはるみたいやけど、この魂の気配はあの子らの・・・ってなんやイバラキ、今はちと静かにしてくれへん?」
うち今忙しいんよと、おもらし鬼っ子さん新ためイバラキ・・・おもらしラキちゃんを見もせずにそう御座なりに答えつつ、前屈みになりながら僕の胸の所を注意深く何かを探るように見る痴女鬼さん改め痴シュセンさん。
その痴シュセンさんが前屈みになる事で、未だ未熟のお胸さんには望むべく谷間は見受けられませんでしたが、それでも絶景と言えるほどの光景が広がって居りました・・・眼福であります。
《・・・この状況でそう想える御主人様の業の深さに、戦慄と共に畏敬の念を抱かずにはいられません》
いやだってほら、オトコノコですし?おすし??
「な!それはあんまりなのじゃ、シュセン!!そ、それにそやつを勝手に手を出すことは吾が許さぬのじゃ!!」
そう喚きたてながら騒ぎ出す、おもらしラキちゃんに集中を乱されて嫌気がさしたのか、痴シュセンさんが、
「なんやイバラキそない騒いでからに。あと坊や、なんやさっきから痴シュセン言うんわ。イバラキの事わまぁおもらしラキちゃんでも良いんやけども、うちのことわシュセンちゃんって呼んでな?」
「ぁ、はい・・・シュセンちゃん」
笑顔のはずなのに眼が全然笑って無いそんな有無を言わせない感じで言われ、素直に答える僕なのでした。
「な!どういうことなのじゃ!!お、おもらしラキちゃんって・・・この吾をそんな言い草しよって、許さぬのじゃあ!!」
誰の所為だと思っとるのじゃ、訂正せぇええ!!と僕を持ち上げ、左右に振るのはやめて欲しいんですが!酔っちゃうよ!?
「ますたぁーに何するんだ!この!!」
僕と一緒に左右にシェイクされたエルが、僕の腕の中からおもらしラキちゃんの顎に向かって、見事なアッパーカットをお披露目致しました。
「ぐばはぁっ!!・・・何さらすんじゃこのボケェスライム!?」
「ボケェスライムじゃないもん!ボクはエルだもん!それにますたぁーをイジメるヤツはボクが許さないんだから!!」
そうおもらしラキちゃんに啖呵を切るエル・・・前より随分と小さくなったのに、僕を想って行動するその勇ましい姿からは、少しも気圧された様子が無く、先程まで痴しゅ「にっこり」しゅ、シュセンさんに「ちゃんをつけてぇな?」・・・シュセンちゃんに怯えてた、そんな情けない僕が恥ずかしく感じました。
でもそれ以上に、エルやナビの僕を想うその気持ちにどう報いてあげれば良いのか、申し訳ない気持ちに《御主人様は気にする必要はありません。ただ私たちを傍に置いて頂けるだけで宜しいのです》でもそれでも僕は・・・「なんやそないな事考えてないで、優しゅうしたれば良いんと思うやけどなぁ」《その通りです、御主人様》・・・・・・・「ん?どないしたん?」《どうされたのですか、御主人様?》
「人の心を勝手に読むのはヤメテ貰おうかぁあああああああ!!」
「にゃ!急に叫んでどうしたのじゃ!?」
「なになに?どうしたのますたぁー?!」
そんな内情を知らない二人の疑問の声にはひとまず答えずに、勝手に人の心を読んじゃう読心術者たちに一応の抗議をしたいかと思います!!
「そこの痴「にっこぉ」・・ッ、シュセンちゃん!!」
「なんや坊や?ほんでうちの名前を呼ぶのはかまわんけど、坊やの名前はまだうち知らんのやけど、教えてくれへんの?」
「ぁ、それは失礼しました。僕はアキクンって言います。以後お見知り置きを・・・って違くて!!」
「くふふっ、あの子らと違って礼儀正しいんやね?アキクン・・・いい名前やねぇ」
「こやつアキクンって名なのか・・・アキクン・・・覚えたのじゃ!!」
「ぇっ?あの子らって・・・まさか、またなの!?って今はそんな事よりも!勝手に人の心を読むのはやめて頂きたいのですが!?あとナビも前から言いたかったけど、魂に同居するのはもう良いとしても、エチケットは守ろうよ!毎回勝手に人の心を読まれたら休まる時が無くて、僕ノイローゼになっちゃうよ!!」
《で、ですが御主人様のバイタリティーを逐一監査するために、感情の起伏を含めた御主人様の心の動きを把握しない事には、心のケアを始めとした対応が出来ません。私の御主人様を案じる気持ちを分かって頂きたく願います》
「なるほど、なるほど・・・」
《分かって頂けたようで安心しました》
「・・・ノット読心術!!次、僕の心の中を読んだら、僕の魂から出て行って貰うからね!!」
《そ、そんな殺生な・・・私の唯一の優位性と楽しみを奪わないで下さい!!》
「ちょ、ナビ言うに事を欠いて何って言ったの今!?ちょっともう本気で怒るからね!!」
《嫌です!御主人様に何と言われようともその命令にはお応え出来ません!!》
「な!じゃ僕の魂から出て行って貰うよ!!」
《それも嫌です!!絶対に御主人様からは離れません!!》
この分からず屋が!御主人様こそ!!と痴話喧嘩夜露死苦していたら、
「くふふっ、ほんまおもろいなぁ自分ら・・・なんやその子、魂から剥がしたいんか?ならうちが剥がしたろうか?」
僕たちの痴話喧嘩をどこか楽しそうに聞いていたシュセンちゃんが、そんな何やら不穏な事を口ずさみながら僕に向けて手を翳し、そして・・・
《ぐっ!ま、まさかそんな・・・魂の干渉をも可能とするのですか!くっ、レジスト・・・ッ、今の私の力では抗う事が・・・い、や、嫌です御主人様!!御主人様と離れたら私は・・・ですがそれよりも御主人様と離れて、心を通わせられない事が凄く辛く嫌です!!》
そんな悲痛な想いが僕の心にも強く響いてきて、それが凄く悲しくて寂しくて・・・
「だ、ダメ!シュセンちゃんヤメテ!!」
「なんや剥がして欲しいんとちゃうの?剥がさんと心読まれてまうよ?嫌なんやろ?」
「そ、そうだけど・・・でも、それでも、ダメだよ!それにもし僕の魂からナビを追い出してしまったらどうなるか分からないし」
「そやねぇ・・・その脆弱な力を見る限りわ、剥がしたとたんに消えてまうんとちゃう?」
「や、やっぱり!?じゃ絶対にダメだよ!!もしこれ以上するって言うのなら・・・・」
先程までの遣り取りから、シュセンちゃんには絶対に敵わないと思うけど、それでも仲間をナビを奪おうとするのならどんな事をしてでも・・・
「そないな顔されたらかなわんわぁ。ほれに坊やとわもう敵対したくないんよ。ほれ、もうしぃひんさかい、そんな怖い顔せんといて。うち悲しいわぁ」
そう言って、その翳した手を下ろし、本当に悲しそうな顔で佇むシュセンちゃんの様子からは、嘘をついているようには見えませんでした。
「ぁ、そんなつもりじゃ・・・ってでもそうか。僕が最初にナビを魂から追い出そうとしたんだから、それをただ手伝ってくれただけですよね。ぅん。シュセンちゃんごめんなさい。それとありがとうございました」
素直に謝罪と感謝を込めてそうシュセンちゃんに僕は頭を下げました。
「あららそない畏まらんで。うちも少しやり過ぎたみたいやし、おあいこやね?ほやから、そない頭を下げんといてな」
僕の謝罪を快く受け入れてくれただけじゃなく、無かった事にしてくれるみたいです。そればかりか下げたままの僕の頭をそっと抱きしめてくれました。
「よしよし。なんやあんまりにもかいらしくて、つい抱きしめてもうたわぁ・・・うちにも母性本能があったんやなぁ」
何やらシュセンちゃんが呟いてましたが、僕はそれどころではありませんでした。
いやだってほら思い出してみてよ!シュセンちゃんの恰好をさ!?
着物を着崩し過ぎて、前をはだけさせた痴女スタイル!?
って事はですよ?いま僕の目の前にあるこのやわっこくて凄く良い匂いのするこの物体は・・・はわわ自主規制でお答え出来ません!!
お答え出来ませんが、少し感想を述べさせて頂きますとですね。微かに心臓の脈動する音が聞こえてきて、それが心地よい響きで安らぎを感じさせます。それに生暖かくもやわっこい肌が優しく僕を受け止めてくれて、とても気持ちが良いのです。もし枕として製品化したら絶対に世界中の愛好家が買い占める事は確実でしょう。ぁあそうか・・・だからオトコノコはおんにゃのこを求めるのか・・・そんな男女の関係性について想いを馳せていると、
《・・・御主人様、先程私が抱いた感動を返してください。もし返せないのでしたら、二度と私による読心に関しての事柄は議題に上げませんようお願いいたします》
・・・してやられちゃったね☆




