22-可愛い子には旅をさせよと言いますが、その旅が必ずしもその子のためになるとは限りません。旅をしないで日々過ごす世界でどう学ぶのかが大切だったりするのです(下学上達)
ダンジョンに対して少しやる気が出て来たことで、どうにか気持ちに余裕を作ることに成功した僕は、リーファに抱き抱えられながらだけど、周りの様子こと露天市場の観察をすることにしました。
やっぱりこう云った活気のある風景を眺めていると、どこの世界でも変わりなく、浮足立つ気持ちが湧いてくるよね。
もしリーファに抱き抱えられていなかったら、その湧きだした気持ちを冒険心に変えて、思いゆくままにこの市場を駆け回ってたかも知れない。
それほどまでに見るものすべてが珍しくって、探究心をくすぐるものが広がっていました。
このあとダンジョンに入るみたいだけど、その帰りに少しでもいいから、自由時間を貰って、この市場を楽しんでみたいな。
ダンジョンに入るって言ってたけど、リーファの様子からだと日帰りになりそうだしね。
リュックサックの中身がどうなってるかは分からないけど、何日も入る様な重装備って感じがしないし、食料とかを買い込む様子も無いから、僕の考えも間違ってないと思うだよね。
それに一応リーファも女の子なんだから、一晩を外で過ごすって事に忌避感を感じるだろうしね。
なんて思ってたら目的地に着いたのか、リーファが歩く動きを止めて、僕にリーファが指し示す先を見るように促してきた。
「ほら、見なさいよ。ここがダンジョンの正式な入口になるところよ。この柱を通った先に、地下へと続く大回廊があって、その先がダンジョンになっているわ」
そう言ってリーファが指し示す場所を見てみると、確かに両脇に柱と言うか、エジプトにあるオベリスクみたいな建築物があって、その先の地面にぽっかりと開いた穴があり、リーファが言う通り地下へと続く階段がここからでも窺えられた。
「それでね、この柱を通ることによって、この柱を建てて下さった神の加護が受けられて、ダンジョン内限定だけど活動しやすくなってるのよ」
凄いでしょ?とまるで自分で行った偉業のように語りますが、リーファは関係無いよね?って言う野暮なことは言っちゃダメなことは、処世術の基本中の基本ですから、ちゃんと覚えて無ければいけません。
「へぇーそれは凄いねぇー。ぁ、でも活動しやすいってどういうこと?あと加護ってどんなのなの?」
「んーそうね。基本は基礎能力値の上昇だけど、疲れにくくなったり、二日ぐらいなら食事や睡眠を取らなくても良くなったり、他には魔物からの攻撃を一定値以上超えて受けたりしたら、軽減されるか無効化されるわ」
ぇっ!なにそれ完全にチートじゃないですか!?活動しやすい事もだけど、魔物からの攻撃を軽減だけならまだしも、無効化ってなに!?
しかも考えてみれば、神の加護とかって僕みたいな異世界人とか、勇者を始めとした英雄に授けられる特別なものじゃないの?ここの神さま大盤振る舞い過ぎやしないか!?
ぁ、でもダンジョン内限定って言うし、そこまで目くじら立てる事でも無いのかな?ってかここの人達からしたらかなりの恩恵だろうし、否定するものでも無いよね。でもなんだろうか、こう納得がいかない気がするのは、僕がまだこの世界を現実として、生きていないからなのかも知れない。
だって魔物とかが生息している世界で、生身の人間が生きていこうとしたら、いくら魔法とかがあったとしても、生活が脅かされることもあるだろうし、生死にも関わってくるはずだから、こう云った神からの加護があるのなら、どれだけ助けになるか想像に難くない。
ぅん、ここの神さまは、きっと人々に優しいんだろうね。甘いって言う人もいるかも知れないけど、僕はなんだか神さまに対して、少し思い違いをしていたみたい。リーファの話からしてろくでなしの集団かと思ってたけど、大変失礼な考え方だったかな。そんな神さまが居る世界なら僕もきっと楽しんで生きていけるだろうから・・・従魔契約解除してくれる神さま居ないかな(切実)。
「だからこの柱から通ってダンジョンに入れば安全に探索できるわ。ただでもその代わりに・・・ってあら?どこかのグループが帰って来たみたいね?」
と観光名所の説明をするツアーガイド幼女さんことリーファが、ダンジョンの探索から帰って来たグループを見つけたみたい。
僕もどんな歴戦の冒険者が帰って来たんだろうかと、興味津々にその一行を見てみようと、思案の海から浮上して、そうして見た先にいたのは・・・
「今日は大収穫だったよねぇー」
「そうだねぇーまさかオーグだけじゃなくて、ミノタウロスも出てくるんだもん!吃驚したよね!?」
「だねぇー中ボス程度だろうけどなかなか強かった方じゃない?ぁーでも結局お肉しか落ちてこなかったのが残念かな」
「まぁ確かに装備品とかが落ちてれば、お小遣いになったのにねぇー」
「まぁまぁ良いじゃん。一応俺たちの目標のお肉はいっぱい集まったんだし」
だねぇーこれでお母さんたちも喜んでくれるよねぇーと僕とリーファの横をそう言って通り過ぎたのは・・・
年端もいかない、もしかしたらリーファよりも幼いそんな子供たちが、大量のお肉を背負いながら、通り過ぎていきました。
・・・・疲れてるのかな僕?やっぱり電撃喰らいすぎかも知れぬ。この世界に病院があるかわからないけど、あとで精密検査受けないと・・・。
じゃないよ!!なに今の!?
のほほんと屈託のない笑顔で話す子供達の姿からは、まるでお母さんから頼まれたおつかいをこなした帰りみたいな雰囲気を感じますが、その物騒な内容の会話も気になるけど、それよりも背負い籠に大量に入ったお肉らしきものを運んでる姿に、その幼い体の一体どこにそんな力があるのかと驚愕する思いが・・・ってぁあああこれ、さっきもリーファに思ったやつ!!
あんな年端のいかない子供たちも、リーファと同じぐらい力があるって言うの!?ホントこの世界どうかしてるよ!!
「ね、ねぇリーファ!あ、アレどういこと!?」
と先程通り過ぎた子供たちのグループを驚きを隠せない顔で僕がそう指さすと、まるで日常の中の当たり前の風景を語るように、
「ん?ぁあさっきのね・・・ホント残念よね。どの探索組が来たのかと期待したら、おつかい組だなんて・・・まぁでもよく考えたら探索組が帰ってくるにはまだ早い時間帯よね」
とそう残念そうに語るリーファなのでしたって、やっぱりただのおつかいだったのか・・・もうわけがわからないよ(´・ω・`(毎度です)
「お、おつかいってどういうこと?あんな年端のいかない子達がなんでダンジョンなんか入ってるのさ!ダンジョンに入るには、ギルドの許可が必要だったんじゃないの!?」
と僕が誰でも思うような当たり前の疑問を口にするのですが、なにを言ってるのかしらと云った風にリーファが、
「はぁ?ダンジョンにおつかいぐらい誰でも行くわよ。何を当たり前のこと言ってるの?それに浅い層なら別にギルドの許可とか要らないわよ」
また訳の分からない事を言い始めたよこの問題児は、みたいな顔はヤメテ貰おうか?
「ぇっ!で、でもダンジョンみたいな危険なとこ、いくら層が浅いって言っても危険なんじゃ!?」
「はぁ?さっきアンタ話聞いてなかったの?だからこの柱を通ってダンジョンに入ったら、神の加護が得られるって言ったでしょ?だからなんの危険も無く浅い層ぐらいなら、赤ん坊でも生活できるぐらいだわよ?」
ここの神さまってか神はやっぱりろくでなしだよ!!どこの世界に赤ん坊にまで加護を与えて、ダンジョンに入れるようにする神が居るんだよ!!
加護を授けることが出来るなら、年齢制限ぐらい設けようよ!この世界の倫理観ホントどうなってるんだよ!?
もうダメだこの世界!!もしこの世界に神が集う会議とかあったら、倫理観をきちんと備え学ぶことが当たり前の前の世界の代表として、ここは僕が声を大にして訴えてやる!!
覚悟しとけよこの世界の神々ども!!?(お付き合いいたします)
「もういいわよね?そろそろ向かわないと帰りが遅くなっちゃうわ。じゃ行くわよ」
とそう言って、目の前にある柱を通って・・・行かないで脇にそれたんですが、どこに行くんです?
「ぁ、あれ?どこ行くの?目の前のダンジョンに行くんじゃないの??」
と僕がそんな疑問を口にしますが、それでもリーファは歩みを止める事は無く、そのまま脇を通って、件のダンジョンの入り口である階段すらも通り過ぎてしまったんですが、本当にどこに行くの?
「んーさっきも言いかけたけど、あの柱から通るダンジョンは、神の加護もあって確かに安全なんだけど、その代わりダンジョンの階層もそれに合わせるように、比較的楽な階層が続くのよ。身の入りが良い階層まで行くとしたら、かなりの日数をかけて下に降りるしかないのよね」
「へ、へぇーそうなんだ・・・そ、それで僕は今、どこに向かってるのでしょうか?」
なんか凄く不穏な気配がするのは決して気のせいではない事は、これまでのリーファの行動や考え方から、簡単に導き出せることでしょう・・・に、逃げ・・られない!!ガッツリホールドされていて身動きが取れないだと!?
「ん?だからダンジョンよ?まぁでも正規のルートじゃないけどね・・・暴れないでくれない?」
「ぅっ、い、いや少し背中が痒いかなぁ~って思ってさ!そ、それと少し窮屈だから少しだけで良いから、抱きしめる力緩めてくれないかなぁ~なんて?」
「もう少しで着くから我慢しなさい。それと、もし少しでも妙な動きをしたら・・・わかってるわよね?」
終わった・・・結局起きてても何の対処も出来ませんでした。これなら気絶してた方がまだ幸せだったかも知れません。
断頭台に上がる靴音が生々しく響き渡る様なそんな幻聴が聴こえる中で、精神がゴリゴリと削られる僕のSAN値こと正気が持ちそうに無いんだもの!
このままだと名付しがたいものになっちゃぅうう!誰か、誰か助けてぇえええええええ!?(結構余裕ありますよね)
といつもピンチなヒロイン姫のように、助けを求める僕ですが、そんな想いは何処にも届かないようで・・・
「さぁ、着いたわよ」
着いてしまったようです。
やっぱり現実には、タイミングよく助けてくれるヒーローなんて居なくて、目の前に立ちふさがる苦難の壁を乗り越える力は、自分自身にしか無いんだって。だから人はその壁に立ち向かうために、日々努力し、研鑽を積んで立ち向かっていくのでしょう・・・とか含蓄ぽく語っている僕ですが、そんなの知ったこっちゃねぇんですよ!わざわざそんなめんどくさい壁なんて登って無いで、遠回りしてでも他の道を選ぶのが僕です!!
そんな事してる暇が僕には無かったとも言えますがね・・・次元を駆けるには、いつも犠牲が付きものだっただけさ(さ、流石です!!)。
とか何とか思って現実逃避して、目の前に広がる光景を見なかったことにしたい僕が居ます。
そう壁なんて見えませんのだ!ってまぁ壁じゃなくて目の前にあるのは・・・・
地面にぽっかりと大きく開いた穴が目の前に広がって居ました。
正直、見なかったことにしたいけど、ここ以外にダンジョンの入り口ぽぃのは無いですし、しかもご丁寧に看板があって、そこにはこう注意書きがされてました。
『イニティブラのダンジョン下層入り口・・・ここから入る者に注意喚起を示す。この場所は正規のルートでは無いため、柱の神の加護を受ける事が一切出来ないので注意されたし。また現在この先に・・・の巣・・・たので使用を十分留意するように。ダンジョン管理局長兼ギルド長より』
なんて書かれてるんですが!しかも何かで破れちゃったのか一部は読めないけど、『の巣』って多分だけど魔物の巣があるってことじゃないかな。
注意喚起されるぐらいだから、きっとヤバい魔物だと思う。これは絶対に避けないといけないと思いますので、全力で他の道を選ぶようリーファに言わねば!
「り、リーファさん?何やら注意喚起があって、ここから入らない方が良いみたいだよ?破れちゃってて見えないけど、きっと魔物の巣って書いてるはずだから、絶対ここからは行かない方が良いと思う!」
と必死になって捲くし立てますが、リーファの方は柳に風って感じで、
「大丈夫よ。その巣ならアンタなら大丈夫だから」
ってな感じでまったく意に介さないご様子・・・どんだけ僕に全幅の信頼置いてるのこの盲目幼女!?
その勝気そうな眼ん玉ひんむいて僕の事をよく見てよ!ほらそこに映ってるのは、ぷりちぃで幼気な仔竜が居るはずだから!ちゃんと現実を見て!お願いします!!
「無理だよ!ちゃんと僕の姿を見てよ!!こんななりで、しかもまだこの世界の事もろくに知らない僕が、何が出来るって言うのさ!」
「うるさいわね!やってみないと分からないでしょ!!ねばーぎぶぅあっぷよぉ!?」
「なんでそのフレーズ知ってんの!?っていやいや無理なもんは無理だからね!そ、それによく見てよ、この穴。下に降りる階段も無ければ、ロープも無いじゃないか!どうやって下まで降りるんだよ!?」
そうなんです。こちらのダンジョンの入り口らしい穴には、柱のとこにあるダンジョンの入り口にあるような階段が無いのです。
ここがダンジョンの入り口だと言われなければ、陥没した大きな穴にしか見えないんですよ。
だからどうやって降りると言うのか・・・もしかしてリーファ浮遊魔法使えるとか?
「どうやって降りるかですって?そんなの簡単なことよ・・・ほら、いってらっしゃい」
「ぇっ?」
急にふわっと浮遊感が僕を包み込みます・・・あれ?やっと拘束から解放されたと言うのに、この不快感極まりない感じはなんでしょうか・・・しかも一瞬浮遊感を感じたと思ったら、急速に重力を意識させられるこの感じはそう・・・落ちてます僕?
「って、ちょっと待ってぇえええええええええええええええ!!?」
「じゃ、ダンジョン攻略頑張ってね」
とそう言ってひらひらと手を振ってくる幼女様の姿からは、僕を貶めると言った雰囲気は微塵も感じさせなく、それが逆に怖くて、なんで僕はもう少しちゃんとリーファと話し合わなかったんだろうと後悔をしました。
幼い子供と言うのは、人とは違う生き物が、自分と同じように生きているという認識が薄いとどこかで聞いた事があります。
だから純粋な眼で時に残酷に動物を虐げてしまうとか・・・今の僕の現状がそれに当たると思います。
普通ならここで僕がリーファに諭してあげるのでしょうが、その僕が被害を受けている時はどうしたら良いのでしょうか?
あとそれと落ちていく僕は一体どうしたら良いのでしょうか?取り合えず、ここで一言リーファに言葉を残そうかと思います。
「リーファのバぁかぁああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
はぁ?みたいな顔をされましたが、次に会ったらえらい目に合わせたる!と誓いを胸に、強制的な奈落への旅路に僕は向かうのでした。
もうホント嫌ぁああああああああああああああああああああああああ!!?




