50メートル走
体育の時間に50メートル走って、やりましたよね。
その頃は、背の順で席を決めていた。
ボクは大きな方だったので、いちばん後ろの席になった。
キミはボクの近所にいた。キミはボクより背が高かった。というか、クラスでいちばん高かった。そのことでからかわれることもあった。でも、キミは穏やかな性格で、周りに気配りができる人だった。勉強も運動もよくできた。
栗色の髪がきれいだと思った。
同級生なのに、理想のお姉さんに見えた。
ボクは体育がキライだった。走ればいつだって誰も寄せつけない無敵のビリだったし、逆上がりもできなかった。勉強でバカにされたことはなかったけれど、運動ではよくバカにされた。
次の年、キミとボクは別々のクラスになった。
1学期はじめ、学年全体の合同体育で50メートル走をした。
背の順で、女子が多かったせいか男女混合の6人1組となり、キミとボクは同じ組になった。ボクはキミよりちょっとだけ背が高くなっていた。
昨年まで誰も寄せつけない無敵のビリだったボクが1着で、キミは2着だった。
足の速いキミに初めて勝った。学年中に衝撃が走った。
キミは愕然としていた。
「どうして・・・」
と言われた。信じられない、といった表情で。
ボクも同じ表情だった。
「次は負けないよ」
と言われた。でも、2回目もボクが僅差で1着だった。
むきになったキミが面白かった。あんな表情のキミを見たのは、この1度きりだった。
3回目の対戦は実現しなかった。ボクは転校したから。
最後に聞いたキミの言葉は、
「今度は絶対に負けないからね」
だった。
16/9/24 Sat. ~ 16/10/21 Fri.