19、ビスクドール事件
ニートの言ったことは本当だった。
七月に入ると、見慣れた学校の門がテレビに映し出されて、朝食のカフェオレ吹きそうになった。
殺害された女性が、東都学園の高等部の三年生だってわかったらしい。
おかげで、その日学校に行ったら、外壁に沿ってずらっと取材班らしきバンがとまっていて大変だった。
紅花は若ママの車から降りるなり、マスコミにつかまった。
校門前は、先生の目が光っているので、こうして少し離れたところで降りている紅花に目をつけたらしい。
紅花は、自分の生徒手帳を見せると、引き下がってくれた。生徒手帳にはしっかり中等部と明記されている。
中学生と高校生を間違えるなよ、と思いながら、中等部の校門を通る。
玄関で靴から上履きに履き替える際、見慣れた薄い色素の髪が目に入った。
「おはよう」
「……おはよ」
眠そうに髪の毛に寝癖をつけて、颯太郎は教室へと向かっていく。紅花も同じ方向へと向かうが、その距離は微妙にあいている。
普段から、颯太郎と紅花はお昼のときくらいしか話さない。たとえ話したとしても、放課後とか周りに誰もいないときくらいだ。
だから、前からこんな風に距離をとっていたのに。
いつもより、一メートル紅花が後退している気がする。
なんだか、ムッとなった。
なんで私が、あいつの後ろにいるのよ!
紅花は小走りになって、欠伸をしている颯太郎を追い越した。
休み時間の話題は、皆、例の殺人事件についてだった。
高等部に身内がいる人間は、事細かにそれを話している。
紅花は引き出しに入ったクリアファイルをちらっと見る。
千春に印刷してもらった名簿と、事件の概要をまとめたものだ。
若い女性というが、その幅は広く十五歳から五十歳までをターゲットにしていた。死体は椅子に座らされ、着飾られていたという。
五十歳で若いというのは変な感じだけど、たぶん、被害者の中に人外が含まれていると紅花は思った。人間とそっくりな見た目で寿命が違う種族はけっこういる。不死者や吸血鬼もそうだし、妖精や人魚の類もいる。
見た目年齢が若ければ、それでいい。そっちのほうが大衆の興味を引けるからだろう。
被害者は現在八名、この学園の生徒も含まれている。
ただ、印刷物には被害者の名前だけじゃなく顔写真と簡単なプロフィールもあった。
そこで、紅花は妙な違和感に気がついた。
写真は、学校のアルバムから引き抜いたものがあったが、何枚か私服のものがあった。
みんなけっこうお洒落だなと紅花は思いつつ、凝視する。
もしかして……。
それと同時に、もう一つ気になることがあった。
東都市七不思議にあった連続殺人事件、あれの関連性について考察していたサイトもあった。
そこにも気になる表記がある。
こういうのって考える人すごいかも。
感心しながらも、そこで紅花が確かめる術はない。ただ、大人しく何もせず、危険な目にあわないようにしていかないといけない。
颯太郎が言ったように。
紅花はクリアファイルを元に戻すと、隣の席を見る。
机には煮干しの袋が散らかっていて、颯太郎はクッションに顔を埋めていた。
「……」
あれから数日たつ。雨は降らず晴天が続いているが、温室でお昼を食べるのはやめていた。
つまり、ここ数日ほとんど話していない。社交辞令の挨拶くらいだ。
隣にいる少年はただのクラスメイトに過ぎない。
〇●〇
お刺身がお弁当に入っていたらなあ。
颯太郎はもぐもぐ口を動かしながら思う。今日のお弁当は巻き寿司だ。酢飯に玉子とかんぴょうとカニカマとキュウリが巻かれている。ちらちらと桜でんぷが舞っている。この色合いを好むのは母さんだろう。たぶん、家のお昼はかんぴょうの代わりにマグロが入った巻き寿司があるに違いない。
ずるいなあ、母さん。
颯太郎の魚好きは母さん譲りだ。母さんも気が付けば、毎食お魚料理だ。お肉が出るご飯はおばあちゃんかひいおばあちゃん、もしくは時々父さんが作る。おじいちゃんは不器用なので何も作れない。
お弁当に生魚は駄目なのでお弁当には入れないというのもあるけど、最近、高い食材を出し渋っている気がする。
颯太郎の食欲が半端ないレベルに来ているからかもしれない。元々、けっこう食べるほうだったけど、今はその十倍以上食べている。
うちが農家でよかったと思う。一日三升のお米がなくなるから、普通に買っていたらとんでもないことになる。
よく食べる理由はわかっているけど、家族はどんな反応をするかってけっこう、普通に受け入れてくれた。
母さんが一番驚いて、次に父さんがぴくりと眉を動かしたくらいだろう。
おばあちゃんは理由を知っていたし、おじいちゃんとひいおばあちゃんなにか勘付いているようだった。
後から聞いた話によると、おじいちゃんの妹が颯太郎と同じころに不死者になったらしい。それがお隣のおねえさんだということで、ちょっと複雑なものを感じた。
けっこう普通に異常を受け入れる日高家では、来年から休耕している田んぼでまた米を作ろうか話し合っていた。減反政策で休ませている田んぼだけど、加工米として届けるとか具体的な案を出していて、やっぱり我が家は我が家だなあと思う。
起きたことに後悔するより、起きたあとのことをどう対処するか、それを念頭に置く。颯太郎もそういう考え方で育てられてきたので、ドライかといえばドライかもしれない。
だから、今もこうして普通に学校へ通っている。
颯太郎のしでかしたことは、大変なことだ。
でも、それを懺悔するだけじゃ何も前にすすめないことを知っている。もがいても、もがいてもなかなか変わらない未来があるのだ、颯太郎は立ち止まってはいけないことを知っている。
颯太郎は食べ終えたお弁当を片付ける。三段重ねのファミリー用お弁当箱に二リットルのペットボトルが一本、それと大きな水筒にはわかめスープが入っていた。
すべて颯太郎の腹におさまったけど、まだ物足りない。
あと大きなおにぎりが一つあれば、颯太郎の腹は満足するのだが。
「……」
颯太郎は、いつものように木に登ると太い枝の上で横になった。
そして、目を瞑る。
頭の中に地図が浮かぶ。
ここ数日で調べたこの学園の高等部の生徒の行動範囲だ。あらかじめ絞られていた名前がテレビで映ったのは今朝のことだ。
被害者の家はこの学園から遠い、颯太郎の住んでいる町の隣の隣の市だ。性格は大人しく、あまり外出しないタイプだったらしい。手芸部に所属していたという。
そんな彼女が家に帰らないとなったら、心配されるものだが、体面もあったのだろう、学校や警察にちゃんと届けを出されたのは先週のことだったらしい。紅ちゃんのおにいさんであるニートさんが話を聞いたのは、それから数日後だったと逆算できるので、死体発見はその間ということになる。
颯太郎は寝転びながら携帯をいじる。ネットで調べた他の被害者たちの家を頭の地図に入れ込む。
特に接点はない配置だ。若い、いや少なくとも若く見える以外の接点はあるだろうかと颯太郎は考える。
被害者の中に若く見える人外が含まれていることを考えると、年齢は何とも言えない感じになる。
ただ、気になったのは、死体発見現場についてだった。
被害者たちの住んでいる場所はともかく、死体発見現場は案外かたまっていた。
六件が都内で発見され、残り二件は別の地方都市だ。
都内といっても広く、まったく同じ場所にあるわけじゃないのでこれも何かの手がかりになるといったら難しい。
どういうことだろうか。
それに、もう一つ気になるのは、過去にそれに似た事件があったということだ。これは、ただの偶然だろうか、それとも関連性があるのか、もしくは模倣犯だろうか。
颯太郎は指先で携帯をいじる。
こういうのは千春姉が得意なんだよなあ。
織部先生の娘とは、颯太郎は幼馴染だ。おばあちゃんと織部先生は同級生だし、獣人同士ということでいろいろ話があった。
紅ちゃんは今日もここにいないということは、千春姉のところにいるのだろうか。
そんなことを考えながら、ネットを巡回する。
あれ?
颯太郎の指がとあるブログで止まる。事件被害者の顔写真が並んだとても趣味の悪いブログだ。
そこにある写真のいくつかに疑問を持つ。
もしかして……。
颯太郎は、起き上がると木から飛び降りた。
そして、高等部へ向かっていた。
〇●〇
世の中理不尽なものだ。
散々悩んだものがあっけなく終わる。そういうことってけっこうあると思う。
それが今、夕方のニュースであっている。
「やっと解決したのね」
若ママがどでかい寸胴鍋を振りながら言った。なかには大量の肉じゃがが入っている。白滝とシイタケといんげんが入った薄口しょうゆ味の肉じゃがだ。
紅花がどんぶりをさしだすと、おたまですくってついでくれる。味見なんだけど、正直味見の量じゃない。
「長かったわね。それで犯人は?」
あれほど、何度もワイドショーで特集されていたものだけあって、どの番組もそればかりだった。
犯人が犯人だけに、話題も集まるのだろう。
「女の人だって。しかもお医者さんらしいよ」
食いつかずにいられないネタだろう。
紅花は行儀悪く頬杖をつきながら、じゃが芋を口に入れる。男爵芋を使っているのだろうか、ほくほくして美味しい。少し煮崩れしているが、味が染みていて好きだ。
被害者は皆共通の趣味を持つ人たちだった。
きれいに着飾られていたというが、実際にはそうではなかったらしい。元々、その被害者が着ていた服だった。
ゴシックロリータという系統の服だ。
なるほどと紅花は思った。
印刷してもらったサイトの写真に違和感を持ったわけだ。写真のうち数人がその系統の服を着ていた。
話によると、そういう共通の趣味を持った人たちはどこかに集まるらしい。死体発見現場が都内に集中していたというがそういうことだろう。被害者の住んでいる場所がばらばらなのも集会のために集まっていただろう。
ただ、そんな接点がありながら、なんで今までわからなかったと言えば。
「素性も名前も知らない相手と会う、ネットの闇ねえ」
使い古された文句だ。ネットのテレビ叩きが多いように、テレビはテレビでネット叩きがある。
ゴスロリとは、人によっては墓まで持って行く趣味のようで、被害者は周りの人間にその趣味を隠している者が多かったようだ。
中には貸倉庫に服を隠し持っている人もいたらしい。
普段はそんなそぶりも見せない人が多い。素顔もゴスロリファッションを決めているときとまったく違うだろう。
ほぼすっぴんな顔写真に名前も住んでいる場所も違えば、一緒にお茶会を楽しんだ人も気づかないだろう。少なくとも、気づかない、気づいていてもあえて口にださない人が集まっていたからこそ、こうして被害は広がっていたのかもしれない。
なんだよ、まったく人騒がせな。
紅花はなんだかむかついて、チャンネルを子ども向け教育番組にかえる。
そして、紅花がむすっとしながら、どんぶりの中身を空にすると呼び鈴の音が聞こえた。
愚兄はまだ帰ってくる時間でもないし、呼び鈴なんて鳴らさない。
「紅花ちゃん、でてくれる?」
「はーい」
ぱたぱたとスリッパの音を立てながら玄関を開けると、眼鏡の優男が立っていた。いつもと同じ海外ブランドのスーツを着ているが、少し乱れているように見えるのは気のせいだろうか。
「どうしたの? アヒム兄さん」
「紅花、ちょっと話があってね」
そういうアヒム兄さんの顔は青かった。
とりあえずスリッパを出して中に上がってもらう。
「どうしたんですか?」
ソファに座り込むなり、テレビのチャンネルを変えるアヒム兄さん。たとえ、以前はこの家に住んでいたとしても、アヒム兄さんならそんな不作法な真似はしないだろう。ニートと違って。
よほど急いできたのか、若ママがお茶を出すと、一気に飲み干した。
アヒム兄さんは、テレビの特番を見る。
「この事件を知ってますよね」
「解決したからよかったわよね」
「うん」
若ママと紅花は顔を見合わせる。
しかし、アヒム兄さんは首を振る。
「捕まった医師は、屍鬼だった。いや、屍鬼化していたというか」
「それって」
屍鬼は死体漁りをする食人鬼として知られている。広い意味では、確実に息の根を止めて死体になったものを食べる食人鬼として使われる。
被害者の腹に綿が詰められていたというのは、やはり奪った内臓をつまり食べていたということだろう。
紅花と若ママは顔を歪める。
ある程度、予測の範囲内だが、それが本当だと言われるとやはり気持ちの良いものではない。
そして、アヒム兄さんはさらに不安になる言葉をかける。
「その医師なんだが、実はこの事件の最初の被害者の司法解剖をした医師でもある」
「……それって」
「その際、誤って遺体に素手で触れてしまい怪我をしたと」
怪我?
普通、遺体に触れるだけで怪我をするものだろうか。
「その時の話では、遺体が動いたなんてことを報告していたらしい。上は過労として、処理したようです」
「それって……」
かなりやばくない?
三人の表情が一致する。
もし、その報告が医師の言うとおりだとすれば、他の被害者はともかく最初の事件は別の犯人がいるのではないか。
その上――。
「最初の事件は、医師は関与を否定しています」
つまりどういうことかといえば。
「最初の犠牲者は何らかの形で屍鬼の因子を持っていた上、まだ、生きていた。一番考えられるのは、半不死の状態でしょうね」
つまり、紅花たち不死者と同じということだ。ただ、その力は弱く、内臓を全部抜き取られることでほぼ死を迎えていた。かろうじて蘇ったが、再生する力が及ばずまた息絶えた。
「接触した医師は、その際、傷口から犠牲者の血が入ったと考えられます」
祝福ではなく呪縛として血を受けた医師は、その思考が屍鬼化した。呪縛を受けた者は、餓えとともにその呪縛の元になった血肉を求めるようになる。ただ、少量のため餓えはほどほどに、嗜好が代わり、一部を除き理性はそのままだった。
最初の事件が、昔あった事件に似ていたことから、それを元に連続猟奇殺人に仕立て上げることにした。
獲物はネットかなにかで似たような人間が集まる場所で選び、食事を終えたら事件として飾り立てる。
「じゃあ、最初の犠牲者ってうちの身内ってこと?」
警察関係者でもないアヒム兄さんがこれだけ詳しいというのは、そういう流れで呼び出されたからだろう。
しかし、兄さんは首を振る。
「血族で欠けた者は誰もいません」
「じゃあ、どういう?」
紅花は質問しようとして、ふと止まった。
今日のアヒム兄さんはずいぶんおしゃべりだ。普段はオリガ姉さんとともに秘密主義で、たまにニートですらしびれを切らして紅花に話してくれるくらいなのに。
アヒム兄さんの顔色は悪い。
「もしかして、まだ問題あるんですか?」
紅花にかわって、若ママが兄さんに質問した。
兄さんはばつが悪そうに紅花を見る。
「最後の犠牲者の遺体が消えた。いや、逃げた」
「……今の聞かなかったことにしていい?」
「賛成」
若ママもあからさまに嫌な顔をする。
現実逃避に三つ頭にゃんこのミケにおやつを与え始めるくらいだ。
逃げたということは、遺体は遺体ではなかったと言える。内臓を根こそぎとられて再生できる種族は限られる。
「元々そうだったか、それとも犯人の血をなんらかの形で受けて不死化したかわからない。後者の可能性は著しく低いだろうけど」
できればそれであってほしいと、アヒム兄さんの顔が語っていた。
元々被害者が不死化していた場合、最初の犠牲者との接点も考える必要がある。
「警察になにか言われたようですね」
ミケを右手で撫でながら若ママが言った。左手は心を落ち着かせるためだろうか、肉球をぷにぷに押している。
「最初の犠牲者が不死者であった場合、僕たちの立場が危うくなります。最悪、僕らが人外として与えられている人権も奪われる可能性が出てきます」
不死者がそう簡単に相手を呪縛し、食人鬼を作るようであれば、社会に害悪しかない。人外が現代社会で人権を得るには、一般人に友好的な関係であることは必須事項だ。そんな病原菌みたいな存在であってはいけない。
「もちろん、そう簡単にそうなるわけではないのですが、今、父さんも母さんも眠っています。向こう側がここ数年強気に出ていることは、忘れてはいけないのです」
オリガ姉さんとアヒム兄さんは、お父さんたちにかわって不死者を束ねている。世界中で百人もいない血族だけど、それでもいろいろあるのだ。
「捕まった犯人の血に残った因子だけでは、誰由来の血液かわからない。もし、証拠として必要だとすれば、今動き回っている被害者を確保する必要があります」
「どうやって捕まえるの?」
「たとえ屍鬼化しても、過去に慣れ親しんだ場所に戻る性質があります」
うん、嫌な予感がする。
「確か東都学園の生徒ですね」
うん、それ以上言わないでほしい。
紅花の特異体質はなんだったろうか。ある種の恐怖を感じると、一部の人外や異形の生き物たちに強烈な飢えを感じさせるというけったいなフェロモンを出してしまう。
紅花の表情を読み取ったのか、兄さんが肩をぽんと叩いた。
「だめです、アヒムさん。そんなの!」
若ママがミケを置いて、紅花とアヒム兄さんの間に入った。
「紅花ちゃんが今までどんな怖い思いをしてきたかわかってるんですか?」
「それはわかっています。でも、ここで僕たちとは無関係なことを示しておかないと、今後、紅花だって困ることになります」
「でも」
若ママが紅花をぎゅっと抱きしめる。
アヒム兄さんは、深く息を吐くと、眼鏡をくいっと押し上げた。
「ならば、守ってあげればいいでしょう。学園側にはなんとかねじ込みますから」
兄さんの考えは変わらない。たぶん、オリガ姉さんがいても同じ態度をとるだろう。
若ママが顔をきゅっとさせていた。ほのかに顔が赤くなっている。
「それならいいんですか?」
「ええ、それなら可能です」
若ママの表情がさらに硬くなる。
紅花は若ママの手をぎゅっと掴む。
「若ママ、私大丈夫だから」
なんとか頑張るから。
若ママがそんな紅花に微笑む。
「……大丈夫、たとえセーラー服でもブレザーでもこの齢で着ようとも、紅花ちゃんは守るから」
「若ママ……」
紅花は何とも言えない顔をしてしまった。
「生徒としてねじ込むとは言っていません」
眼鏡を押し上げながら、アヒム兄さんが言った。
若ママが地獄の底に突き落とされたような顔をしていた。
「もう、兄さんのせいだからね。若ママがああなると丸一日仕事手に付かなくなるんだよ」
紅花はご飯と揚げの味噌汁をついでいた。おかずは肉じゃがの他に、ほうれん草のおひたしと揚げだし豆腐だ。あと豚の生姜焼きが付く予定だったけど、アヒム兄さんのせいで若ママが部屋に引きこもったので仕方ない。あとで焼こう。
「うん、悪かった」
兄さんは反省しているようだ。紅花から茶碗とみそ汁を受け取ると、テーブルに並べる。せっかくなので夕飯を一緒に食べてもらうことにした。人数分あるのかと聞かれたから、ニートの分減らせば大丈夫といったら、それもそうだと納得していた。
テレビを見ながらご飯はお行儀悪いけど、BGMくらいなら許してくれる。特に何も考えなくて良さそうなローカル番組にチャンネルを変える。
もぐもぐ、黙々と食べていると、意外に口を開いたのは兄さんのほうだった。
「紅花」
「……」
紅花は揚げ出し豆腐を口いっぱい入れているので無言のまま顔を上げた。
「颯太郎くんだったな。彼はどうだ?」
紅花はごくんと飲み干すと、首を傾げる。
「どうと言われても」
いつも魚食べてるか、寝てるとしか言いようがない。
「頭はいいのか?」
「頭?」
授業態度は最悪だなって思う。成績は可も不可もない感じの答案を机の上で広げていた。
成績という意味ではそこまで良くないと思う。
ただ。
「優等生じゃないけど、頭は回るかも」
妙に機転が回ったり、人外に関してはかなり知識を持っていると思う。あと、どこか先を見て行動している感じがする。
「そうか」
「どうしたの?」
妙なことを聞くなあと紅花は思う。
「あの連続殺人事件、いきなり解決したと思わないか?」
「そうだねえ。拍子抜けした」
一年以上前から騒がしていて、警察は無能だと言われていた案件だ。
「被害者たちの接点を当てたのは、颯太郎くんだ」
「……マジで?」
「マジとか言わない」
アヒム兄さんが優雅に味噌汁を飲む。
「恭太郎を通じて僕に連絡があった。そういうわけで、僕が警察関係者に軽く話を通したわけだが」
大当たりだったわけだ。
そして、不死者との関連を疑われる一層の要因になったと。
「どちらにしても、犯人がわかったら一度はこういう話になっただろう」
遅かれ早かれの話だと兄さんはいう。
「それにしても……」
獣人とは基本、単純な思考の者が多い。
「ハーフだからじゃない」
「かもな」
兄さんはそういって、肉じゃがに手を付けた。
紅花はほうれん草のおひたしを食べながら、おいしいと思った。
どうでもいいおまけを言うと、その後、愚兄が帰ってきて、若ママがいじけていると知るとひたすらアヒム兄さんにことあるごとに蹴りを入れていた。
ニートが帰ってきたころには、夕飯は綺麗に片付けられていた。