第八話 ハンバーガーショップで待っている
颯太に結衣、比叡は幅がやや細めの並木道を歩いていた。緑葉が更にました木々。姿を現し始めた5時頃の夕日に照らされて面妖に見えたりする。そよ風が吹き葉がもつ香りが匂ってくるようだ。
趣味の話をしたりくだらない話をして盛り上がる彼ら。風紀委員という仮面を外した彼らの中身は桜花高校魔術科の高校生なのだ。
正門から出て、駅の方面に向かうゆるやかな坂を降りていくとすぐに古風な町並みが広がる。視野に広がる景色は現代的な校舎からお寺などに変わっていく。
「なぁ、ゆいにゃん。結局さ、あいつら喧嘩腰だったんだ?」
同じ中学だったから喧嘩腰というのはどうしてそうなるのか考えにくいのだ。あのような性格という可能性もあるが、同じ中学だったというのであれば聞いたほうが確実で早い。
「香凛があんなに挑発口調なのはー……同じ治癒魔法を持ってるからじゃないのかな? それとゆいにゃんって呼ぶのはやめてくださいって言ってるじゃないですか!」
「へーあの子治癒魔法を持っとるんかー」
「えぇ。治癒魔法なのは治癒魔法なんですけど、私のは治療をする魔法ですけど香凛のは殺菌や消毒をする治癒魔法なんです」
結衣は少し嬉しそうに説明すると颯太たちに感想を求めようと彼らの方を見た。
「でさ、ゆいにゃんがー箒を投げてきたんだって」
「そりゃあ痛いわな。お疲れさんやわ」
彼らは結衣の話を完全に無視して2人で話をしていた。結衣は彼らに対して殺気を立てて拳を握り颯太の前に立った。
「ゆいにゃんって呼ぶなぁ!! それに人の話を聞けええ!!!」
結衣の拳は颯太の腹部にクリティカルヒットし二次関数の"y=−1/2x^2"のような孤を描き吹っ飛んだ。
「うぐぉっへっ!?」
「おーえらい吹っ飛んどるわー」
「こ、これに懲りてゆいにゃんって呼ばないでください……」
結衣は顔を真っ赤に染めて小さな声で恥ずかしそうに言った。
「あー痛たたたー……」
「自業自得です」
痛そうにする颯太に対してムスッとして歩く結衣。
「おーい仲が良さそうなお二人さん。もうすぐ店に着くでー」
比叡が指さした先は、大手のハンバーガーチェーン店だった。薄い赤色の外壁に店のマーク。店内へと入っていく彼ら。
「比叡ちゃんこっちだよー!」
比叡を呼ぶ声が聞こえた。比叡達一行は声のする方へと向かう。
「おまたせ。こいつらが同じ班のメンバーや」
「あ、えっと、八坂颯太です!」
「鴨里結衣です」
颯太と結衣はそれぞれ自分の名前を言った。
「私は四宮エイルよ。委員長をやってるのよ」
四宮エイル(しのみやえいる)は食べていたハンバーガーをトレイに置くと席から立ち、自己紹介をした。腰のあたりまである薄い桜色の長い髪。つつくと柔らかそうな顔。膨らんだ大きな胸。スタイルのいい身体。こんなにも美しく可愛いのだから、いつも数多の男達から告白されていそうなものだ。
「にしても……エイルはようけ食うなぁ……その大量の残骸はなんや」
比叡はエイルの前に置かれたトレイを指さした。その上には既に平らげられたと思われるハンバーガーの紙包みや紙箱、空っぽになったポテトやナゲットの容器が雑に置かれていた。
「比叡ちゃん達遅かったんだもん」
ムスッとして椅子に座るエイル。ムスッとしながらも食べ続けている。結衣としてはこんなに食べて、なぜ太らないのかが気になるだろう。
「四宮先輩ってよく食べるんですか?」
「だっておいしいものは食べたくならない? それに、食べる娘は育つって言うしね!」
それを言うなら"寝る子は育つ"だろと突っ込む比叡。
(あんなに大きいのはたくさん食べてるからなのかな)
結衣の心情はなぜ太らないかという観点から胸に関する観点へとシフトしていった。
「ん? 結衣ちゃんだっけ? なに胸をジロジロ見てるのかなぁ? 嫉妬しちゃったぁ?」
そう言ったエイルはまるで襲われる女性のようなウルウルとした目つきで結衣を見上げ、身体を守るかのように手で体を覆った。雰囲気がガラリと変わったように見えた。
「い、いえ、違いますから……!」
否定する結衣。普通くらいの大きさはあるし、別に大きいからいいというものではないと自分で自分を慰める結衣。
「ま、エイルだけ食べてるのも何だしさ、うちらもハンバーガー買うとしよっか。今日は奢ったる!」
「じゃあエイルはテラハンバーガーで!」
話を変えようとした比叡に対して手を挙げて希望を言うエイル。
「アホ、エイルは食べ過ぎや。ほな、行こうか。」
比叡は颯太と結衣を連れてたくさんのハンバーガーの宣伝ポスターが貼られているカウンターのほうへと向かった。