表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術特殊部隊  作者: 未来
第1章 風紀委員会
6/18

第五話 箒と颯太とときどき魔法

 桜の木々から花びらが散り果て新緑に変わりつつある木々。校舎に終業を告げるチャイムが鳴り響いた。登り始めた夕日のかすかな茜色に染められたベージュ色の校舎から少年少女の楽しそうな声が聞こえてくる。掃除に向かう者や、帰路に着こうとする者。はたまた部活動の部室へと向かっていく者と人それぞれに放課後を過ごす。

 教室に配置されたロッカーから箒を2本取り出した颯太は、それぞれの手で箒を持ち栗色のポニーテールの少女のほうへと足を進めた。

「ほら鴨里。箒持ってきたぞ」

 颯太は片手に持った箒を手を伸ばして渡した。フックにかけるための黒くて所々にほつれを目立たせた紐が振り子のように揺れていた。

 窓から外を眺めていた結衣は栗色がかった絹のような髪を振り子までとはいかないが、弧を描くような形で布先を箒のように振り、颯太の方を見た。

「変態さんでしたか。箒を持ってきたことは感謝してあげます」

 結衣はそう言うと颯太が伸ばした手の先に握られてある箒を掴み、「ありがとう」と呟いた。

「どういたしましてー。ゆいにゃん!」

 アハハと笑いながら応答を返す颯太。

「だから、その呼び方はやめてくださいっ!! この変態がっ!」

 顔をりんごのような紅に染めて箒を不規則に振り回す結衣。

「ま、まて落ち着け……落ち着けゆいにゃん!」

 颯太は熱せられた油に水をさしてしまった。

「だからゆいにゃんとかって呼ばないでくださいっ!! ぶち殺しますよ!」

 熱した油に水をさし、油が飛び散るが如くに箒をより一層に強く振り回し始めた。どうやら颯太は危険を感じてしまったようで箒を避けるように後退った。

 後退った瞬間であった。「あ……」という結衣の声とともに箒がするりと結衣の手から離れ光線の如く颯太に向けて飛行していったのだ。

(結衣とまともに会話できるかもなー)

 箒が飛んできているのに呑気なことを考えている颯太である。

 刹那の瞬間、幸運なことに飛んでくる箒に気づいたようで颯太は箒を凝視した。すると、飛んでくる箒は落下する気配もなく颯太に向けて飛行してはいるものの速度が急激にのろのろと遅くなった。

 颯太は迫ってきた箒という危機に対して魔術を使ったのだ。虚現物理魔法に属する速度制御魔法。

 あとはのろのろと進んでいる箒を掴めば問題ない。別に遅くなっているならあたっても問題がないのではと思うかもしれないが虚現エネルギー保存法則が適用されるため、この世界では箒は遅くなっただけでエネルギー量は変わらない。つまり当たってしまえば速度が遅くなる前の衝撃が加わるわけであり痛いわけである。

 後は掴むだけなのだ。しかし、教室のドアがガラガラと音を立てて開かれた。

「おまえらちゃんと掃除してるー? というか、なにやっちゃてんのー魔法なんて使うなよー」

 ドアを開いたのは可愛らしいフリルのついたワンピースに緑色のジャージの上着を羽織った春香だった。

 春香の声に驚き、颯太は春香の方を見てしまった。箒を掴むのを忘れて。

 掴まれずに飛行している箒は空気抵抗でエネルギー量が少しは落ちてしまっているものの颯太の左即頭部にクリティカルヒットした。

「ぅぉうぇっ!?」

 こんな言葉を残し颯太の意識は一気に吹っ飛び右半身に重心がかけられ、ビルの基礎部分を片っ端から爆破するビルの解体工法を施したかのように右半身から崩れていった。春香は、教室の床に叩きつけられ気を失っている哀れな颯太を見てお腹を抱えて大笑いしていた。一方で颯太の意識を飛ばせた張本人である結衣は今起こっていることをあまり理解していなかった。

 笑いが収まった春香は颯太の近くにしゃがみ込むと肩をトントンと叩きながら「おーい。いきてるかー」などと声をかけた。結衣もその頃にはなにが起こったのか理解したのか慌て始めた。

「あわわわわわわ……。楠先生どうしましょう……」

 弱気になりつつある結衣を春香は見上げた。そしてやる気のない感じで口を開いた。

「とりあえずさー保健室にでも連れてけばいいんじゃないの」

 正論である。この場合は医療知識がある者に任せるのが一般論であり正論なのだから。

「わ、わかりましたっ!」

 結衣はそう言うと颯太の足を持ち教室の床を引きずりながら保健室へ運んでいこうとする。

「うぅ……重い」

 重いのは当然であった。春香は手伝う素振りも見せず教師という立場であるのに教卓を椅子の代わりにして座り、夕日の茜色で赤みがより一層に増した褐色の髪をいつものような感じでツイストさせながら割れ関せずと言わんばかりに傍観していた。

「保健室まで八坂を持っていくのが無理だったらさー……」

 春香は、重そうに颯太の足を掴み運んでいた結衣を見かねたのか大きなため息を一つつき、言い放った。

「……使っちゃえば?鴨里の魔法」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ