第四話 風紀委員会の新事実 その2
姫子の言葉によって状況が一瞬把握できなくなった颯太を含む1年生達。春香や姫子、上級生はこの光景を見たことがあるかのように顔に笑みを含めていた。
「いやーだからね、おまえらは治安維持委員会に組み込まれるってことを教えてもらったんだよねーそれぐらい理解しちゃおうよー」
やる気のない物言いで軽いパニックに陥った1年生に無理難題を言う春香。
そもそも、この京都魔術都市立桜花高等学校魔術科は治安維持委員会や魔術系の組織で活用できる人材を育成する学校である。そのためなのか入学試験で魔術に関する検査を受けるのである。また、魔術は魔法という分類に分けることができる。例えば虚現物理魔法や空間制御魔法である。十人十色と言うのだろうか、人によって使える魔法は1人1つで使える魔法は異なる。そのため他の魔法との統合運用能力などを学んだり個性を伸ばした教育を行い、魔術を運用できる次世代の人材育成という学校の方針が立てられている。そして、数多くの優秀な治安維持委員を輩出してきたのである。輩出というよりは一般企業への就職希望者以外は一定の階級で治安維持委員会に入れるのである。
そして、多くの人材を輩出される側の治安維持委員会。治安維持委員会というのは一言で言えば警察組織である。京都魔術都市内で一般的な警察において対処が不可能な事件やテロ、重要人物の警護などに動員されるのが治安維持委員会である。治安維持委員会が出動する事件の大体が魔術を悪用したものであったりする。魔術を使われてしまったら普通の警察では対処しきれないものなのだ。いわば治安維持委員会は"魔術特殊部隊"である。
さて、その"魔術特殊部隊"の傘下部隊とされる風紀委員会。傘下部隊ということは魔術を用いられた事件などに出動するということになるのである。しかし、この学校に入学したという事は一般企業に就職しない限りは治安維持委員会に入るのである。少し早く治安維持委員会に入ったと思えばそんなに気にすることでもなかったりするのだ。いや、当の本人からしてみると重要な事であるのだ。パニック状態の者や我に戻り危険性を思ってしまう者、はたまた割り切って考えた者などと様々な人がいる。
「まぁー慌てるのは無理もないかなぁー。どうせ、しばらくしたら慣れてきてどうでもよくなっちゃうもんだっての」
春香のやる気のない喋り方が強張った心境を和らげるような感じであった。こんなときのやる気のない感じというものは重宝しそうである。そして「しばらくしたら慣れる」という言葉。適応能力というものなのだろうか、人間というものは一定の時間を経つとその事柄が日常であると錯覚するのである。例えるのであるならば見慣れぬ地への転勤である。最初の頃は身近な人がいなくなり孤独感を感じてしまうことがあるのだが次第に日常であると脳は整理してしまう。人間とは不思議なものである。
(え、あ、そうなの? 風紀委員会が治安維持委員会っていうものの傘下部隊なの?)
ようやく現状を理解した颯太は同じクラス同士で座るということらしく左隣の席に座っていた結衣に話しかけた。
「なぁ、鴨里。治安維持委員会の傘下部隊ってどう思う?」
「いきなり呼び捨てですか。楠先生の言っていたようにこれも慣れなのですかね」
若干の敬語が颯太に対する警戒心の現れのようであった。
「じゃあなんて呼べばいいんだっ! 鴨里結衣だからー・・・ゆいにゃんとか?」
結衣に突っ込みを入れつつもちゃっかりと欲求を混ぜ込もうとする颯太。
「そうですねー……ってゆいにゃんとか何なのですか!? にゃんとか……あ、あなた変態なのっ?死ぬのっ?」
若干、頬をほんのりと紅く染める結衣。栗色の髪もあってかその顔はまるでサブカルチャーな人形のように可愛く見えた。
(しかし、3年間辞めることができなくても鴨里みたいな可愛い子がいるから案外悪くないかもなー)
「じゃあ、メアドでも教えてよ」
「はぁ!? なんでそうなるのっ!?ありえないしっ!」
強めに言う結衣。しかし、声が大きかったのか春香の許容範囲を超えたようで、舌打ちをすると面倒そうに颯太と結衣に注意を発した。
「そこー、うるさいよー。少しはだまって人の話ぐらい聞こうかー」
無駄な労力を使ってしまい少し苛ついた春香。
どうやら召集はこれで終わりのようで、春香は「おまえら早く帰れよー。帰らないと部屋の鍵を職員室に返しに行かせるからー」と生徒達に帰宅を促す。鍵を返しに行かなければならないという言葉に反応したのか我先にと帰ろうとする生徒達。面倒なことは避けたいというのが人間というものだ。この光景が見事にそれを表わしていた。
(鴨里と少しは喋れたから今度はメアドだな)
なぜかメアドに拘る颯太。時刻は午後の5時を超えていた。
「さて、帰るとしようかな。家に帰ったらなにしようかな」
春の夕暮れ。橙色に染まる空は魔術の都、京都魔術都市をうすい赤色に染めていた。もうしばらくすると街は暗くなるだろう。颯太の足は家路へと向かっていった。
よろしければ、評価・感想をお願いします!
これからもいい作品を作っていきたいと思っていますが、そのためには皆様からの意見がとても重要です!もしよろしければお願いします!