第二話 風紀委員会に入ってしまったのだけど・・・
ある春の日の放課後、二人の男子生徒と一人の女子生徒が腕に"風紀委員会"と書かれた腕章をつけて、南中を超えほのかに暖かい廊下を歩いている。
男子生徒の一人は、この学校に入学したことを後悔していた颯太である。
彼は勉強に関しては半ば諦めてはいるが、ある目標を立てていた。
(やっぱりさ、高校生活だから少しくらいは充実させたいよなぁ)
そう。颯太は高校生活を充実させるために行動を起こしているはずであるのだ。
「八坂くんに鴨里さん。風紀委員会にはもうなれたん?」
学ランのボタンを全開の状態にして、まるで羽織ってるかのようなスタイルで歩く寝屋川比叡は少したどたどしい大阪弁で2人に聞いた。
(なぜ、風紀委員なのにそんな格好をしているのだろうか)
比叡が質問したうちの1人である颯太はそんなことを思っていた。
「寝屋川先輩。風紀委員なのですから、そんなだらしない格好はやめたほうがいいと思いますが。それに、中途半端な大阪言葉は自重してください」
可愛げのある声が聞こえた。可愛い声なのだが冷たい物言い故にその言葉は鋭い槍のように比叡に突き刺さった。
「鴨里さんひどいやんー! 別に格好なんて表現の自由やん? まぁ風紀委員だからボタンくらいは止めるんやけどなぁ」
比叡はそう言うとブツブツと小声で言いながら学ランのボタンを閉じ始めた。
3人の足はそんな会話をしながらも校内を巡回すべくゆっくりと動いていた。
「はぁー……」
颯太の重いため息が規則的な動きをしていた空気を乱す。
「八坂くん、どないしたん?自分、悩み事あるん?比叡でよかったら聞いてやらんこともないけど」
比叡の大阪弁により乱れた空気が元の規則的な空気配列に戻りそうであった。
もう一人の女子生徒は「どうしたのだろう」と言わんばかりの顔をして
「悩みがあるのなら、寝屋川先輩にでも言ってしまえば?」
と颯太に言い放った。
「あ、いやー別になんでもないよ」
(そもそも原因はあなたなんですけれどもねー)
それは数日前の事であった。クラスの委員会決めを行っている時である。
「えーっとさ、あとは風紀委員会を決めるだけなんだよねー」
颯太のクラス担任である春香はパイプ椅子に座りながら面倒臭そうに喋った。
風紀委員会とは規則や風紀を維持するための組織である。ということは規則や風紀を乱したりするものに対して委員が指導するということになるわけである。仮に指導されたとなれば大抵の人はあまりいいイメージを持たないものである。わざわざ憎まれ役になりたがる者などは滅多にはいないのである。これが風紀委員会の現状である。
そもそも、委員会に自ら立候補しようとする人が少ないのである。風紀委員会というものになれば立候補者は更に減ってしまう。
黒板に書かれている白い文字。委員会の名前が書いてあり、
「まぁー好き好んでやるやつはいないよねぇー」
ペンをくるくると手の上で回して机に突っ伏した春香。マイペースにも程があると思うクラスの生徒達。
そんなだるーく、ゆるーい雰囲気を突き破るかのように白く細い可憐な手が挙がった。いや、挙がっていた。
「楠先生。私、手を挙げているのですが」
声の第一印象は可愛い声であった。颯太はこの声の主を見つけるべく声のした方向へ首を回した。いや、首を回すほどでもなかった。なぜなら隣に座っていたのであったのだから。
「あ、やってくれるの。なんて名前だったっけー」
「鴨里結衣です」
その少女、結衣はほんのりと栗色がかかったの長い髪でありその長い髪をまるで馬の尻尾のように頭の後ろでまとめたポニーテールが可愛さを増していた。
(あ、可愛いなー。なんか接点でも持てたらいいなー)
そんなことを颯太は考えていた。
そして颯太の思考回路が動きに動き一つの結論に辿り着いた。
(風紀委員会に入ってしまえば接点ができるじゃないか)
という考えに辿り着いた颯太は風紀委員会に入ることを決めたのだ。天井に向かって伸びた手を春香が見つけると
「あ、やってくれるんだ。早く決まって先生は嬉しいなー」
と言い、黒板に"鴨里"と"八坂"の名前が白い文字で刻まれた。
ここから先は颯太がどんどん後悔していくだけであった。
風紀委員会に入り、颯太と結衣に比叡が教育係となり校内巡回を一緒にすることになり今に至る・・・という次第である。
「ふーん。まぁなんでもないんなら別にええけどなっ」
比叡がそう言うと階段を何段か抜かして飛び降り
「校内巡回、はよ終わらせよっか」
彼ら3人は別の校舎を巡回すべくゆっくりと歩いていった。