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魔術特殊部隊  作者: 未来
第1章 風紀委員会
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第十四話 水も滴るいい女

「まったく……はるにゃんの仕事の仕事は教師でしょ? こんな時間に喫茶店に呼び出すという事はサボってるのですよね?」

 黒い制服姿に見を包んでいる黒川姫子。艶めく髪と制服という組み合わせが姫子の大人っぽさを更に際立たせているかのようだ。

 喫茶店の窓際のソファーに座る姫子は、コーヒーカップに口を付け、炒られた豆が香る軽く透き通るようなコーヒーを口へと運んだ。

 苦味を帯びた味わいが口に広がり、香りが鼻を通っていく。「おいしい……」と姫子はつぶやいた。

「サボってるって人聞きが悪いなー。サボタージュしてるんだよ、ひめっち!」

 楠春香は頬を軽く膨らませた。そして、白い陶器の皿に載っているバタートーストに手を伸ばし、それを口に運んだ。サクッという音を立ててバタートーストをかじる姿はなんとも可愛らしく見えるものだ。

「結局サボってるんじゃないですか……」

「まぁー、ひめっちも暇そうだったから、久しぶりにさ、一緒に優雅な朝食でも摂ろうかなってねー」

 姫子は「ふふ」と笑うと口を開き、春香に言った。

「で、本題はなんですか?」

「え!? なんでわかったの?」

 春香は目を丸くして姫子に聞いた。

「何年一緒にいると思ってるんですか。はるにゃんとは長い仲ですよ、何か言いたげなことぐらいはわかりますよ」

「そっか。ばれちゃってるかー」

「バレバレです」

 姫子は微笑みながらつぶやいた。

「ひめっち、深夜に何が起きたかわかってるよね?」

 てへへと笑っていた春香の表情が一変して、真面目な顔持ちへと変わった。

「烏丸通に現れた藍峰紫乃ですか。それだったら、本部も朝から大慌てですよ」

「そうだろうね。さしずめ、彼女は電気使いの治安破壊者テロリストといったところかな……。」

 姫子は、横に置いてある鞄から大学ノートくらいの大きさのタブレットを取り出すと、何かを入力し始めた。

「国立魔術研究院の元研究員で、電気工学の研究をしていたと……。突然失踪して、行方不明の状態だった。という感じですね」

 姫子はタブレットに表示されている文字を読み上げると、画面を春香に見せた。

「魔術研究院といったらすごい研究所じゃなかったっけ? それにしても、そんなエリート研究所の研究員が失踪かー」

 春香はバタートーストをかじった。春香のかじったところはバターがかかっているところで、柔らかかったようで、サクッという音があまりしない。

「しかし、面倒事が増えましたよね」

 姫子がそう言うと、春香はストローを咥え、オレンジジュースを口に含んだ。

「あー、統一連合の件かー……。仮に、5台全部使われるとしてもあと3台はむこうの手札に残っているというわけになるんだよなー。面倒くさいなー」

 春香はソファに身を任せるように仰け反り、天を仰いだ。

 すると、規則的な電子音が春香の周りに鳴り響いた。

「はるにゃん、電話着てるよ?」

「あー、もう、面倒くさいなー……」

 鞄に手を突っ込み、手探りでスマートフォンを取り出した春香は「ちょっと電話出てくるからー」と言うと、外へ向かおうと席を立った。

「わっ!?」

 春香が出口へ向かおうと歩いていたら、お盆にお冷を載せたウェイトレスとぶつかってしまった。ぶつかった衝撃で、お盆の上に載っているお冷が宙を舞い、グラスの中に入っている水が春香に襲いかかってきた。

 その水は、不意な衝突で、尻餅をついていた春香に水が襲い掛かってきた。春香は不覚にも「ひゃっ!」という声を上げてしまったのだった。

 グラスが割れる音が店内に響き、「なんだなんだ」という他の客からの注目が集まってきた。

「お、お客様、申し訳御座いません! 今、何か拭くものを持ってまいります!」

「あー、はい。何かすみませんねー」

 小走りでキッチンの方へと走っていくウェイトレス。変わりに、グラスが割れる音に気付いた姫子がやってきた。

「はるにゃん、どうしたの!?」

「いやー、店員とぶつかっちゃったんだよねー。……っくしょん!」

「タオルです、本当に申し訳御座いません!」

 タオルを抱えたウェイトレスが戻ってきた。春香は「あー、いいよー。そんな気にしなくてもいいからー」とウェイトレスの責任を軽くしようと春香なりの気遣いを言いながら、タオルを受け取ると、髪や服から水分を拭き取っていった。

「……っくしょん! うぅ……冷たいー」

「これ貸すから羽織っておいたら?」

 姫子は、制服の上衣を脱ぐと春香に羽織らせた。

「申し訳ありません。お詫びとして、御代のほうを無料とさせていただきますから……」

「あ、本当? いやー、なんかすまないねー……っくしょん!」


 春香は午前中、サボった……いや、サボタージュしたわけであるのだが、午後からはサボタージュせずにきちんと仕事をしている。

 しかし、春香のくしゃみは止まる気配を見せず、現在進行形で、午後になってもくしゃみが出続けていたのだ。

 ちなみに、職員会議中もずっとくしゃみをしていたわけである。

「このカリキュラムだけどさ、もっと魔術に関する実技分野の配分を増やし……っくしょん!」

「楠先生、風邪ですかな?」

「あー、風邪っぽいんですかねー? やけにくしゃみが出る……っくしょんっくしょん!」

「そうですか。お大事に」

 この事から、春香が午前中サボタージュしていたということが、体調が悪かったから病院に行っていたのだろうと、他の教師達によって勝手に正当化されてしまっていたというわけだ。

読んで下さりありがとうございます。

もし、よろしければ感想・評価をつけてくださると、私としては大変嬉しく思います。

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