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魔術特殊部隊  作者: 未来
第1章 風紀委員会
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第十話 エイルと巡回

 あの七条大橋でのタンクローリー衝突事故の翌日、晴ればかり続いていた京都魔術都市は久しぶりの雲に包まれていた。灰色絵の具を染めた絵筆を水槽にいれて、かき混ぜたような空模様。少しずつではあるが、梅雨になっていくのだろう。

 そんな日の放課後、風紀棟の教室には颯太と結衣の姿があった。彼らは今日も校内巡回をするのだ。正確に言えば今週は毎日であるのだが。

 校内巡回をする班員は颯太と結衣と比叡だ。だが、今日の比叡は校内巡回をすることができないのだ。なぜ来れないかと言うと、別に教師の方々からお叱りを受けているというわけではない。授業にて出されたレポートを作成するからだ。

 しかし、今日の校内巡回は颯太と結衣だけでやるというわけではなかった。比叡の代理でエイルが来ることになったのだ。

 珍しい編成で行われる校内巡回に少しの期待を持ち、エイルが風紀棟までやってくるのを待っている。結衣は10分程前から、窓際前方の席に陣を取り、虚現物理の勉強をしていた。無言の空間に一人取り残された颯太は結衣の右隣の席に荷物を置き、結衣がまとめ書きをしているルーズリーフを覗き込んだ。

「ゆいにゃんは勉強かー……」

「もうそろそろしたらテストだよ? のんきにしていられるわけないじゃん」

 結衣は視線をルーズリーフに固定しながら、応答した。

「虚現物理か。楠先生のやる気が感じられない授業じゃ何もわからないって」

 扉がガラガラと音を立てて開けられた。

「1年生諸君ヤッホー!」

 現われたのはエイルだった。かばんを肩にかけ、両手を万歳しているように挙げて、まるでテンションが高い外国人のような挨拶をしてきた。昨日知り合ったのに、もっと前から知り合っていたような雰囲気を出しており、友人に会えて嬉しそうな表情をしていた。

「おや、結衣ちゃんは勉強しているのかー。再来週からはテストだもんねー」

 結衣と颯太に近づいたエイルは鞄を無造作に地面に置くと、顔を颯太に寄せた。

 結衣と颯太に近づいたエイルはにこやかな笑顔で、鞄を勢いよくかつ雑に地面に置くと、

「どうせ、颯太ちゃんは勉強してないんじゃないのー?」

「い……いや、勉強してますから……たぶん」

 ニヤニヤと颯太を見つめるエイル。蛇に睨まれたカエルの気持ちを颯太は感じたのかもしれない。ニヤニヤ見てくるエイルには、何か恐怖感を感じてしまったのだ。その恐怖感から……つい嘘を言ってしまった。勉強なんてろくにやっていないのに。

「なら、今度のテストで証明してもらおうかなー」

「ど、どう証明しろと言うんですか……」

「1位。テストのクラス内順位で1位をとってもらおうかなっ」

 1位という響きに慌てふためく颯太。彼、新入生テストでのクラス順位が40人中で40位だったのだ。颯太の心の中は不可能という前提で埋まってしまった。

「もし、1位をとってきたのならー……何でもしてあげよう!」

 エイルは胸を張り、宣言した。颯太には大きな胸が更に大きく見えたようであった。

「な、何でもですか……」

 一瞬、欲望に動くような考えを起こした颯太であったが、そんな考えは捨て去り「手作りお菓子をください」と言おうと口を動かそうとした、その時である。

「颯太ちゃんの考えることなんてどうせ、いかがわしいことでも考えてるんじゃないの? 胸でも触りたいんでしょ?」

 先ほど、颯太によって潰された考えをエイルは復活させてしまった。否定しようとしたが、エイルの喋りは、まるでガトリング銃。颯太に否定する暇を与えなかった。そして、左隣で勉強している結衣から冷ややかな視線の照射がされているような気配を颯太は感じ取っていた。まるで、汚物を見るような視線が……。

「そっかー。仕方ないなぁ……。その条件、呑んであげるとしますか。じゃあ、颯太ちゃんが1位をとれなかったら……女装してくれるよね?」

 颯太は、逃げ出したいと考えていた。颯太の学力では、クラス内順位1位という目標は不可能に近い。というよりも、不可能と断言してもいいくらいだ。ということは、颯太はエイルによって女装をするという命令を受けてしまったという事だ。

 颯太は顔がどちらかと言えば、可愛い方なのかもしれない。ちょっと高い身長に、幼く見える顔立ち、長すぎず短すぎない黒髪。可愛いく見えてしまったが故に、エイルの脳内には「女装をさせてみよう」という発想が思いついたのだろう。

「ま、ご愁傷様。四宮先輩、校内巡回行きませんか?」

「そうだねー、颯太ちゃんも行くよー!」

 勉強道具を鞄の中に片付けた結衣は、「どんまい」と言わんばかりの気持ちを込めて颯太の肩を叩き、エイルの元へと向かった。結衣の表情がいつもより増して、明るくなっている感じがしていた。颯太にとっては、昨日知り合ったばかりなのに、もっと前から知り合っていたような感じにさせるエイルになにか不思議な魅力を感じていた。


「ところでエイル先輩、昨日の事故の時に「ドア殴ってみて」って言ってましたけど、なんでですか?」

 颯太は少し前を歩いていたエイルに向かって問いかけた。

「それはねー、私の魔法なんだよー!」

 エイルはつま先を支点にして、くるっとターンした。ターンして颯太の方を向くと、足元に落ちているものを拾おうと屈んだ。

「これ、触ってみて」

 エイルの掌には、とても硬そうな石があった。颯太がその石に触れてみたものの、とても硬い。

「普通の石ですけどどうかしました?」

「これをねー……」

 そう言ったのエイルの脳内では、魔術を行うためのプロセスが実行されていった。この硬い石に変化を生じさせるための。脳内で、変化を生じさせるための演算処理を行い、虚現論を用いて実行させる。

「……よしっ。触ってみてー。結衣ちゃんもー」

 脳内での演算処理が完了したエイルは、颯太と結衣に硬い石を触るように指示した。

「うわっ……! なんだこれ? やわらかいです」

「なんだか、マシュマロみたいですね。すごく不思議。」

「うち、材質変換って魔法を使ったんだよー。」

 物体を構築している元素を分離・現の世界から消去し、現に新たな元素を生じさせ結合させる。これが「材質変換」という魔法だ。この魔法は物理現象をコントロールできる虚現物理魔法と違い、空間をコントロールする「空間制御魔法」という分類に属するのだ。

「で、昨日の事故のときにね、ドアの素材を金属から紙に変えたから、殴れば壊れるかなーってね」

「エイル先輩すごいですね……」

「すごいでしょー? もっと褒めろ褒めろー」

 笑い声が聞こえてくるこの巡回班。この京都魔術都市を守るのは、彼らをはじめとした風紀委員と治安維持委員会の手によって守られているのだ。

読んで下さりありがとうございます。

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