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スイッチ・オン

 次の日から、僕の本格的な訓練が始まった。僕よりも三ヶ月早く入隊していた正規の軍人達(つまり先輩達)と一緒に訓練をすることになった。

 朝はランニングから始まった。軍人達に言わせれば「軽め」のランニングだが、僕に言わせれば体力の限界を試されているようなものだ。

 周囲の僕を見る目は冷たかった。それはそうだ。異例の入隊を果たしただけでも浮くのに、それに加えて訓練すらまともにこなせないのだ。仕方がない。

 午前中は体を動かし、昼は極度の運動(僕の主観だが)のせいでろくに食べられず、午後からは座学。正直座学では何回か寝た。だが、うつらうつらする度に教官の怒号が響いて、僕はそれをアラーム代わりに起きた。きっと教官の怒号をアラーム音としてセットすれば誰しも起きられると思う。

「こんな生活、あとどれだけ続くんだろう…」

 夕飯も終え、自室に戻って二段ベッドの下段で伸びている僕を、上段のフォールが蝙蝠のように覗いた。その顔はやはり楽しそうだった。

「お前、もうギブアップ?」

「はい…」

 力なく答える僕に、フォールは溜息をついた。頭に血が上ったのか、彼は頭を引っ込めて上でそのまま話を続ける。

「お前さー、そんなんじゃ姫守れないぜ?」

「姫を守るって…僕は元帥の立場を得るために…」

「軍人ってのはこの王国を守るんだぜ?それってイコール王族である姫を守るのと同義と思っていいんじゃね?勿論国民だって守るけどさ。…お前は、姫を守るために必要な力をつけているんじゃないのか?」

「カレンさんを守るために必要な力…?」

「そりゃ、立場とかっていう権力的なものも必要だよ?けど、もっと肉体的な強さだって必要だろ?お前、姫とデートしてる最中に暴漢に襲われたらどうすんだよ。このままじゃただやられて終わりだぜ?そういう時に女をビシッと守ってこそ男じゃねぇか。元帥になるのも確かに必要だけどよ、逞しい姿ってのも見せなきゃだろうがよ」

 おおおおおお。フォールは人の厄介事を楽しむくせしていいことを言う時がある。成程、発想の転換というのは大切だ。そう、僕はカレン姫を守っていかなければいけないのだ。それは、軍に入れられなかったとしても変わらないことだっただろう。カレン姫を守るために僕は立派な男になる。暴漢なんかも一撃で退散させるような、強くて頼りがいのある逞しい男になるのだ。

「フォールさん」

「ん?どした」

 僕の声音が変わったからだろうか、フォールは再び蝙蝠の格好をして僕のベッドを覗き込んだ。

「僕、やりますよ。やってやります」

「お、おう。…お前、単純だな」

「単純が僕の売りですから。僕は、愛する女性を守れる男になります!」

「…聞いてるこっちが恥ずかしい」

 そんなフォールの言葉を無視して、僕は静かな闘志を胸に秘めた。やってやる。



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