入隊一日目の夜
「俺フォールっていうんだ。よろしく」
「あ、えーと、僕はニル。よろしくお願いします」
僕は寮の一室を与えられた。基本的に二人部屋なため、相棒となる男がいるわけだが、それがこのフォールだった。フォールは今まで一人で暮らしていたわけだが、僕が異例の入隊を果たしたため僕と二人で暮らすことになった。普通なら僕は疎まれても仕方ないが、彼は快く僕を迎えてくれた。
フォールは僕より一つ年上で、軍人らしい短髪で童顔だった。本人曰く童顔はコンプレックスらしい。何の変哲もない顔の僕としては、童顔という特徴があるだけでもいいと思う。
「お前ってさー、異例の入隊したんだって?何でまた」
「いや…信じてもらえないと思いますけど…」
「信じるって!俺さ、人の言うこと信じるのは得意なんだよ。だからさ、言ってみ?」
完全に楽しい顔になっているフォールを尻目に、僕は思案した。言っていいものか。だが、言うなとも言われていない。今日から同居人となるフォールに隠し通すというのも骨が折れそうだ。その証拠に彼は、とても楽しそうな顔をしている。
「いや実は…」
僕は、今までの経緯を話した。フォールの顔はみるみる楽しそうに歪められた。最後には大爆笑している。
「ニル…ッ!お前っ…おま、サイッコー!マジかそれ!?」
「人の言うこと信じるのは得意なんじゃ…」
「いや、そうだけどさ、さすがの俺でもそりゃ想定外の返答だぜ!俺てっきりお前は敵国のスパイかなんかだと思ってたけどさ、本当にスパイだったら仰々しい嘘つきすぎだからお前はスパイじゃねーな。一安心だ」
一体なんでそんな心配をしていたのかさっぱりわからないが、とにかく誤解は解けたようでなによりだ。
「へぇ~。んじゃ、お前はこの王国の姫に告って、しかもOKされたのか!すげぇ話だなオイ。そんで、元帥になるために軍にねぇ…」
二段ベッドの上で胡坐をかいて、ふむふむと顎に手を当てて頷くフォール。僕は部屋の設備であるデスクの椅子に座りながら、彼を見上げた。
「けどよ、元帥になるって、相当大変なことだぜ?」
「そんなに?」
「あったりめぇじゃん!お前さ、元帥って言ったら軍の最高位だぜ?だってお前まだ一等兵だろ?あとどんだけの位を経なきゃいけないと思ってんだ?」
「それは今日聞かされた」
「だろ?いいか、この国はな、他の国よりも軍組織が厳密化されてる。要するに、昇任するのが難しいんだよ。俺なんて今は兵長だが、退職までに尉官になれるかすらわからない。殉職して二階級特進すればなんとか准尉に届くかもしれないってくらいだ。そんな中で元帥目指すなんてお前…正直言ってイカれてるぜ」
「そんな言われるほど無謀ですか?」
「小学生が作文に書くレベル」
僕はどっかりと重石を乗せられたかのように肩を落とした。成程、小学生が作文に書くのは突拍子もない夢だ。僕は小学生レベルだということになる。
「そんな~…」
「それにお前、昇任するには体力もそうだけど知力も必要だぜ?」
「へっ?」
「『へっ』って…当たり前だろ。兵法とか指揮の仕方とか、そういうの全部叩き込まなきゃいけないんだぜ。そりゃあ、軍同士の戦いなんて半分は知能戦だからな。頭良くなきゃ指揮は任せられねーよ」
「僕…頭悪いんですけど…」
「だからイカれてるって言ってんの」
ぴしゃりと言うフォールに、僕は重石の重さを三倍くらいにされたように沈み込んだ。
「元帥って…なろうと思ってなれるもんじゃないんですね」
「まぁな。でも、なろうと思わなきゃなれないものでもある」
その言葉に、僕は弾かれたように頭を上げた。
「そうだろ?後は、どんだけお前の愛が強いかだな」
シシ、と笑うフォールに、僕は顔が真っ赤になった。僕が語る分にはまだいいが、他人に面と向かって「愛」だなんて言われると正直恥ずかしい。
「はい…」
「ま、明日からがんばれや。おやすみ」
「おやすみなさい」
こうして僕の軍人生活一日目が終了した。




