四天王―シエラ
それからしばらく、僕達の間には微妙な空気が流れた。お互いの間に、薄い壁ができたみたいに、所作がどこかよそよそしくなる。上辺の生活に何ら変わりはない。しかし、心は確かな隔離を感じていた。
僕は、カレンさんとの距離を掴みかねていた。このまま離れてしまうのが最善なのか、とすら思っては首を振った。
彼女は王女。僕は今や犯罪者。この二人に幸せな結末などあるのだろうか。
僕は段々、自分の行動に自信が持てなくなってきた。どうすれば良いのだろうと頭を抱えながら、毎日を過ごしていた。そしてある時、それらは一瞬にして壊れた。
「!」
旅路の途中で休憩をしていると聞こえたのは、地響き。そして、馬の蹄の音。
僕は顔を上げて、音の方を見た。マントを羽織った男が、長剣を携えて馬に跨りやってくる。
(マズイ―!)
僕は横に跳んで、馬の突進と長剣の一振りを躱した。僕の左耳を剣の切っ先が掠める。
馬が嘶いて、反転した。マントの男が颯爽と馬から降り、マントを翻して剣を構え直した。
「貴様がニル・サラタイルだな?」
「確認する前に斬りかかるなっ!」
せめてもの強がりは、彼の顔の筋肉を一ミリたりとも動かすことはできなかった。彼は無表情でそこに立ち、今までの誰よりも強い威圧感を出していた。
「四天王のシエラ・アカラグアだ。お前を殺し、姫を救出する任務に就いている。王からの命により、お前を殺す」
銀髪の剣士は、僕のような素人にもわかるほどの殺気を出して、剣先を僕に向けた。
「カレンさん、離れていてください」
「は、はい…」
きっとカレンさんも、彼が今までのどの四天王よりも強いであろうことを感じ取っているのだろう。シエラから視線を外すことなく、後ずさった。
「姫に危害は加えません、ご安心を」
シエラがカレンさんを見た一瞬の隙をついて、僕は彼に突進した。長剣は間合いを詰めれば怖くない。
「がっ…!」
甘かった。彼は手首を返し、剣の柄で僕の腹を突いた。僕は腹を押さえて蹲り、必死で嘔吐を堪えた。
「げほっ…!うえっ…」
「そんな実力で姫を守るとは、片腹痛いな。姫も安心できないだろうに」
図星を突かれた。そうだ。僕はカレンさんを一度だって安心させたことなんてない。盲目的に未来を信じて、それを疑うことすらせずに、夢を見た。
「お前のように無能な奴が恋をできる程、王女という地位は軽くない。お前だって、後悔しているのだろう?」
目の前が、真っ白になった。僕が…後悔?
「そんなわけない!」
「ならば何故、疑問が渦巻いている目をしている?」
続けざまに放たれるシエラからの質問。それは僕の心を抉る。
「そんな…」
「後悔していないのなら、何故私にかかってこない。否定できるのなら、体現もできるはずだ」
僕は未だに膝をついて彼を見上げている。先程から一歩も動いていない。
「貴様は姫と釣り合わん。諦めろ」
今度は、目の前が真っ暗になった。息が苦しい。息ってどうやってするんだったっけ?
「ニルさんっ!」
カレンさんの叫び声が聞こえた。反射的に顔を上げると、シエラが一気に距離を詰めて、僕の頸動脈めがけて剣を振りかぶっていた。
血が、舞った。




