衝撃
鼻血を垂らして地面に伸びたミエルを尻目に、僕達は先を急いだ。おかげで晩ご飯は食べ損ねた。
「急ぎましょう、カレンさん」
「はい」
馬を駆り、北へ北へと移動していく。
僕達は、何日も移動し続けた。宿などに泊まる暇もなく、野宿を強いられた。食事と言えば保存食や缶詰といった簡素なものだけで、心神は衰弱しきっていた。
「ニルさん、すみません」
この国の国境近くまで来た時だった。僕達は北へ来たことによって寒さが増したため、火を焚いて暖を取っていた。カレンさんが、突如火を見つめながら言った。
「何が、ですか?」
「私が王族だったばっかりに、こんな生活を…。命まで狙われて。ニルさん、こんなことを言ってはいけないことはわかっています。しかし…私達は、本当に一緒になっていいのでしょうか?」
僕の中に、衝撃が走った。僕は今まで、カレンさんと一緒になることに何の疑問も抱いていなかった。だが…。
「私達は、この後ずっと追手に怯える生活をしなければならないのでしょうか?私は構いません。私は保護される身なのですから…。しかし、ニルさんは違います。あなたは殺される恐怖と闘わなくてはいけない。それが、申し訳なく思うのです」
カレンさんの目には、涙が湛えられていた。溢れんばかりの涙を、彼女は手の甲で乱暴に拭った。僕は火を見つめる彼女を横から見て、その顔に浮かぶ悲愴感を初めて見た。
僕は、馬鹿だ。口ではカレンさんを守ると豪語して、四天王と戦って、今まで逃げてきた。だけど、そんなのは僕の自己満足じゃないか。カレンさんといることで有頂天になっていた。僕は一緒にいるだけで、彼女のことを何も見ていなかった。自分は奥手だということを言い訳にして、カレンさんと一緒にいるだけで僕達は幸せなのだと、そう唱えてきただけだった。
「すみません、こんなこと言って…。私、先に寝ますね」
「あ、おやすみなさい…」
こんなことしか言えない僕が憎かった。僕は、彼女の手を握って「愛してる」と言うことすらしなかった。しばらくして、カレンさんの寝床からすすり泣きと嗚咽の声が聞こえてきた。胸が締め上げられた。僕は、最低の男だ。




