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ストラッドとの出会い

 風呂から出た後、僕達は宿の食堂で夕飯を食べることにした。今日の夕飯はステーキだそうだ。安い宿だったから正直料理に期待はしてなかったが、いい意味で裏切られた。レアに焼かれたステーキは噛むと口の中に肉汁を広げ、僕の唾液を倍増させた。

「うまい!」

 僕がそう言うと、カレンさんも弾ける笑顔で頷いた。二人ともこんなにおいしい食事は久方ぶりだった。少なくとも、駆け落ち中に食べたことはない。

「うまいだろぉ?」

 野太い声が響いたかと思うと、先程の髭の男が隣にビールジョッキと共にやってきた。いや、これはジョッキじゃない。ピッチャーだ。

「兄ちゃんも飲むか?」

「いや、僕酒は苦手で…」

「んだよ、つれねぇな。男なら一杯いけよ!ほれ」

 髭の男にピッチャーを渡されて、僕は戸惑った。一滴も飲めないわけではないが、下戸なのは確かだ。

「じゃあ…一口だけ…」

 付き合いだ、と割り切れば、一口くらいいいだろう。僕はピッチャーを受け取って、ぐいっとビールを飲み込んだ。液体を飲み込むと、一瞬頭がくらっとした。が、それはすぐに気持ちの良い余韻に変わる。

「よし、これで俺達は兄弟だ」

「きょーだい?」

「おうよ。俺の生まれ故郷では、酒を酌み交わすと兄弟になれるんだ」

「へぇ~。血がつながってなくても?」

「酌み交わした兄弟の絆は、時として血のつながりよりも強い」

「そうなんだ」

「俺はストラッド。よろしくな」

「僕はニルです。よろしくお願いします。こちらは、カレンさん」

「『さん』?恋人なのに『さん』付けか」

 僕達はドキッとしてお互いに顔を見合わせた。カレンさんの顔は林檎のように赤く染まっていた。きっと僕の頬は苺のように赤く染まっていたことだろう。

「日が浅いんです」

「ほう。なかなかと深い訳を持ってそうだな。まぁ、いいや。今日は俺のおごりだ。飲めや」

「ありがとうございます!」


 次の朝、二日酔いの中で目を覚ましたのは言うまでもない。一口だけのつもりが、杯を重ねてしまった。僕は起床と同時に頭痛に悩まされた。僕を責め立てるようにガンガンと響く痛みは止め方のわからない目覚まし時計のようだ。

 カレンさんはまだ寝ていた。よほど疲れていたのだろう、子猫のような寝顔を僕に向けて、寝息を立てている。正直且つ素直に言おう。可愛い。

「あ、ニルさん、おはようございます」

 僕がカレンさんに見惚れていると、カレンさんが目を開けた。寝ぼけ眼をこすって、むくりと起き上がる。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ええ、とても」

 欠伸を一つして、カレンさんはベッドから降りた。僕達は昨日の夜と同じように食堂に行った。

「おう、ニル、カレンちゃん」

 ストラッドが手を上げて僕達を呼んだ。僕達は彼の向かいに腰掛けた。

「おはようございます」

「二日酔いは大丈夫か?」

「全く大丈夫じゃありません」

「はっはっは!そんなんで仕事は大丈夫か?」

「きっと、多分、恐らく」

 慎重な言葉を三つ重ねると、ストラッドはまた笑った。彼はと言えば、昨日の酒がもう体内に一滴も残っていないような快活さだ。

「よろしく頼むぜ。俺は一足先に行ってるからよ。港で待ってるぜ」

「はい」

 僕はまだ知らなかった。この出会いがあんな奇跡を起こすなんて。



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