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四天王―スコット

 国境が近くなってきた。ルークの手から逃れて二日が経った。僕達はひたすら東に向かっていた。とにかく国内にいるのはまずい。なるべく早い段階で国外に逃れることが先決だった。

「カレンさん、後一日半くらいで隣の国に到着します。それまで、少しペースを速めたいと思います。大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です」

 カレンさんは気丈に振る舞ってはいるが、その顔には疲労の色が濃く出ていた。無理もない。これまでの逃亡劇で常に精神をすり減らしてきて、おまけに今まで野宿を貫いてきた。隣国に入ったら宿を取ってゆっくりと休もう。

「ニルさんも、お怪我の方は大丈夫ですか?大した手当をしていませんけど…」

「なぁに、こんなもの、放っておけば治ります。僕のことは気にしないでください」

 僕は笑顔で応えた。その実、体はとても痛かった。きっと体が悲鳴を上げているとはこういうことを言うのだろう。傷口は消毒液がないせいで膿んでいるし、無理な移動を繰り返しているせいで腫れは一向に引かない。

「次の追手が来る前に、国境を越えましょう。新しい国に入ったら、宿を取ります。一日、ゆっくりと休みましょう」

「まあ、楽しみだわ」

 カレンさんの顔がぱあっと明るくなる。その笑顔で僕は救われる。彼女の笑顔をずっと見ていたい。そう、大きく口を開けて鋭い両眼が僕を獲物として捉え、今にも襲ってきそうな…あれ?

「どうしました、ニルさん?」

 僕の顎は重力に逆らうことをせず、そのまま下にずり下がっていた。僕の異変に気付いたカレンさんが、僕の視線の先を追って振り返る。そして、悲鳴を上げる。

 そこには、百獣の王と呼ばれるライオンなるものが低い唸り声を響かせていた。

「うわああああ!」

 僕はカレンさんの腕を引っ張って、ライオンから一目散に離れた。僕は恐怖のあまり尻餅をついて、ライオンを見上げた。カレンさんも震えながらライオンを見ている。

「な、何だ!?」

「君が、ニルって輩か」

「は!?」

 今までライオンにしか視線がいってなかったが、よく見てみるとその背後の木に一人の男が寄りかかっている。冷たく細い両眼の内右目にモノクルを嵌めて、シルクハットをかぶっている。服装はもちろん燕尾服にステッキである。まるでどこかのサーカスの団長を思わせた。

「私は四天王の一人、名をスコットという」

「はぁ…。どうも、ニルです」

 敵云々を抜きにして、自己紹介をされたら自分もちゃんとするのよ、という母の訓示が惰性で出てくる。お母さん、息子の頭は今日も平和です。

「カレン姫、私と一緒に城へ帰る気はないのでしょうね?」

「勿論です」

「では、ニル。君にはここで消えてもらわなければならない。安心していい、髪の毛と爪は両親の元に送られる」

「安心できるかっ!」

 僕は精一杯そう叫んで、ライオンとスコットを交互に見た。

「そうか…ならば残念だ。このライオンに食い殺されれば髪の毛も爪も残らないが、いいか?」

「よくないわっ!」

 僕が再び叫ぶと、スコットは心底不思議そうな顔で僕を見た。

「なら、どうするんだ?」

 僕はきっと彼を睨みつけて、立ち上がって土を払った。

「お前を追い返す。僕は負けない」

 するとスコットは、三度頷いてステッキを持ち直した。そのステッキでライオンの腿を叩く。

「え」

「行け」

 ライオンが僕に襲いかかってきた。




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