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四天王

「疲れましたか?」

「ええ、少し」

 僕は森の中でカレンさんを木の根に座らせた。半年とはいえ軍隊で訓練を受けた僕と、教養で運動を教わるくらいしかしていない彼女とでは、体力の差がありすぎる。僕は周囲に警戒しながらも彼女の隣に腰掛けた。

「急なことで、すみません」

 僕は今更ながらに今回のことを詫びた。どういう結果になれ、彼女を巻き込んでしまったことに変わりはない。

「いえ、とても、嬉しかったわ」

 カレンさんは蕾から花が咲き誇るように笑った。彼女の笑顔だけで僕はご飯が三杯いける。このままいけば僕の将来はでっぷりとした腹の中年オヤジだ。

「私、夢みたい。こうしてニルさんとまた会えて、しかも一緒になれるなんて」

 カレンさんは王女という立場から逃れられたためか、口調が砕けていた。そんなカレンさんがとてつもなくかわいくて、僕はさらにご飯を三杯かき込みそうになった。

「このまま東の隣国へ。そうしたら僕達は晴れて自由の身です」

「…そうでしょうか」

 カレンさんの顔に、暗い影が落ちる。僕は急に不安になった。カレンさんは、何をそんなに心配しているのだろう。

「何か、気になることがありますか?」

「…きっと、追手が来ます」

「…追手?」

 僕は復誦した。追手。追いかけてくる者。そうか、わかった。警察だな。

「大丈夫。隣国まで逃げればこの国の警察も追ってきません」

 僕は努めて明るく言ったつもりだが、それでもカレンさんの表情は晴れない。

「警察では、ないんです」

「…と、言うと?」

「四天王が…」

「してんのう?」

 事情がよく呑み込めない。彼女はひたすら暗い顔をしながら、湿った地面を見つめている。その瞳には恐怖が浮かんでいた。

「王族直属の、警護隊のことです。彼らは王族のためなら何でもやります。それこそ…最悪なことも」

「まさか…」

「私を取り戻すためなら、どんな犠牲もいとわない。そこには情も躊躇いもありません」

「四天王は、どこまででも追いかけてくる?」

「そうです。彼らはいわば暗部。その正体や実体は表沙汰になっていません。彼らに国境なんて、関係ない。彼らは王の命令のままに、私たちを追ってきます。私達は、命がけで逃げなければなりません」

「マジですか…」

 僕は絶句した。四天王?僕は…殺される?

 きっと、そんな奴らのことだ。僕だけ殺してカレンさんは王の元に戻すに決まっている。そうしたら僕達はまた離れ離れじゃないか。しかも、今度は一生。

「それはだめだ」

「え?」

「カレンさん」

 僕は彼女の細い両肩をがっしりと掴んだ。

「僕は、あなたを守り抜く。約束です。四天王からも、どんな追手からも、僕達は逃げる。そして、自由を得る。ついてきて、くれますね?」

「…ええ」

 僕達は立ち上がって、東へ走った。


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