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脱走

「なるべく動きやすい服で。荷物は最小限に抑えて」

 僕は姫が身支度を整えるのを待った。部屋のドアを少し開けて、廊下に絶えず視線を注いでいた。まさか姫の着替えを見るわけにもいくまい。

「ニルさん、準備ができました」

「よし。それでは、行きましょう。あくまで堂々と。怪しまれたら終わりです」

「わかりました」

 カレン姫は背筋を伸ばして、優雅に闊歩した。服装こそボーイッシュな狩猟用の服を着ているが、歩き方には王族独特の威厳があった。

 前にいた兵に僕は敬礼する。そう、堂々と。

「姫、どうされました?」

 この状況を訝しんだのか、兵はカレン姫に問いかけた。カレン姫はちょっと震えたが、すぐに良く通る透き通った声で言った。

「よく寝つけないものですから、散歩に。この方にお供を申し付けましたの」

「そうでしたか、どうぞお気を付けて」

 姫がそういうのだから、兵はそれ以上何も言えない。僕はもう一度彼に敬礼をして城内を歩いた。


 城の外に出ると、僕達は駆け足で裏手の森に逃げた。ここからはスピードが勝負。追いかけられたら捕まってしまう。

「あれを見ろ!」

 見張り台の上にいた坊主の兵が叫んだ。しまった、見つかったか―。

「総員準備!火の手を城に近づけさせるな!」

(え?)

 僕達は全力疾走していた足を休めながら少し高くなったところから城を見下ろした。するとどうだろう。城のすぐ近くで火事が起きているではないか。あそこは何もない、ただの畑だ。火の気はない所。枯草らしきものが燃えているのが双眼鏡から確認できる。

「フォール…」

「ニルさん、あれは?」

 息を切らしながらカレン姫が聞いてくる。僕は微笑んで、友人を紹介した。

「僕の友人が、逃げ切れるようにと火事を起こしてくれたようです。彼のことですから、城にも他の者達にも危害はないようにしてくれているでしょう。…走れますか?」

「ええ」

 僕達は闇夜の中をひたすらに駆けた。



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