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第二章 予告編

「…………わたしに……育てさせ、て……ください」






 ――――――物語からさかのぼること、十三年前。


 男谷涼は、

 精信学園の保母として……

 日々、子供達を養育する日々を送っていた。




「……そ、そん、……なっ……!? 

 ――――――こ、こんなところに……

 っう、うぅぅ………―――ひ、……ひどい……」


 左太腿から下はちぎれ落ち、

 その、本来きめ細やかなはずの皮膚は、

 体液が殆ど流れ落ちたせいなのか……

 枯葉を重ねたように、麻布のように干乾びている。


 血液は既に硬質化し、

 青紫から暗緑色に…………変色していた。




「……だ、誰がこんな、こんなこと……」

「生きる権利すら奪い……この子の未来すら……」




 窪んだ眼孔は、既に鼠か、蟲たちに喰い破られて、いた。


 生まれたての頭髪は僅かに残り、

 頭骸骨が透けて見えそうな青黒いその頭部は、

 地獄の餓鬼も避けて通るほど……


 あまりに……悲惨な、状態だった。



 (むくろ)が……転がる。


 粗末なタオルに包まれただけの、

 その生命を愚弄するかのような、出立ちで……。



 ゴミ捨て場に捨てられた……


 一体の乳児死体。






 東菊花は、生後数日で――――――







 誰から生まれ、誰に捨てられたのかも……


 わからない。


 なぜ、左太腿が引きちぎられていたのか……

  



 悪臭と共に、死臭とともに……


 鼠と蟲の這い回る、汚らわしい塵捨て場に……


 捨てられていた、少女……東菊花。






「―――――っ、う、……生まれたての赤ん坊を……

 ……っ、ゴミ箱に捨てる、なんて……


 しかも左脚が……っ、……い、痛かったろうに……


 どんなに痛かったろう……痛かったね、辛かったね……


 ……ごめんね、ごめん……気がついてあげられなくて……


 ―――――ごめんね………………」





 男谷涼は大粒の涙に溢れつつ……


 異臭を放つ、顔面に蛆の這い回る……

 その乳児死体をひしと、抱きしめる。


 遺体を抱きしめては涙に暮れ、

 涙を落としてはその新生児亡骸を抱きしめる……三日、三晩。


 死体を抱きしめ続けた彼女は……


 男谷涼は、ある決意をする。


 在る人物・在る団体との……契約の、果てに……。

 




「……人間の残酷さを……その非道さを……。 

 ――――人間が悪魔になったその瞬間を……


 知るが、いい。


 人間は、神様には……なれんのだ……」



 「……三歳の誕生日の前日まで……だ。


 二歳まで、お前に託そう。


 愛情を注ぎ込むもよし、可愛がるもよし……


 教育を伴うもよし。好きにするがよかろう」





 「3歳直前で……手放せ、というのですか……?」




 







「東菊花は世界を救う」


 第二章 「塵捨場の乳児遺体・西郷の下賜菊紋」











 数千人の終結。


 首都高速道路77号線ジャンクションは、

 既に道路機能を失っていた。



「……島田を返せよッ!……チンピラ野郎ッ!


 ……ああッ!? 聞こえてたらなァ、バイクから降りて、

 俺とサ・シ・で……やれやァ……?」


 榊原タクミはこの世にはもういない、友・島田の仇を前に、

 その殺意を……ギリギリまで、押し隠していた。




「……シラネーよ? 


 ……爺ちゃんむざむざ殺されてヨォ……てめぇ、

 よくもまァ…………俺の前にツラ、出せたもんだなぁ? 


 ……マジ死にてー……のかァ? あん?」



 今井京也の手足は震え、既に首都高速道路上に転がる、周囲の何体もの人間の山が、その怒りの程を示していた。


 彼の怒りは、何千人を死地に追いやっても収まりそうにない。



「――――もう一度言うぜ……? 

 

 タクミィ、俺の前から消・え・ろ。


 お前を殺したくねェ……」




今井信次郎の死から半年。京也の怒りは……。


 そして、榊原タクミの真意とは裏腹に、

 再結成された新生「SSS」榊原組……。











「東菊花は世界を救う」


 第二章 「塵捨場の乳児遺体・西郷の下賜菊紋」















 維新の勲功をもって、明治天皇は西郷隆盛に……

 ある「菊紋」を下賜したという。



「抱き菊の葉に菊」の紋。



 しかし、西郷は自分には畏れ多いと、

 決してこの紋を使用する事はなかった。



「さ、西郷様……よろしいのですか、

 このような菊の紋を……わたしなどに……

 確か……この紋は天朝様より賜った……!?」



「……よかで……ごわす。おいは……

 この紋は畏れ多くて、とても身につけることは

 できもはん。

 しかし……みなしごたちにそこまで愛をば、貫き通す御姿、

 おいは感動しておりもす……」


「男谷先生も……ほんのこつ、よか弟子に恵まれて……」



 明治維新・廃藩置県後、

 男谷精一郎の膨大な資産も他の士族同様、

 大半を返納することになり、

 広大な敷地面積を必要としていた各地の精信慈悲院も……

 次々と閉鎖となっていった。



「……ま……桜島の火山灰も……よかこつ、

 稚児らも喜びもそ……」



 かくて精信慈悲院は西郷、

 そして薩摩藩の手厚い保護・協力により、

 「鹿児島私学校」に移設されることになった。



「……わ、わたくしどもは……精一郎様を神と崇め、

 これまで生きて参りました。

 此処に至り、この御恩を賜り、

 わたくしは今日から西郷先生を生きる糧と……」



「ふっ、ふっはははっ………ふっ……、

 京殿、まあ、そう(かしこ)まることも、なか……


 おいどんは薩摩ァのから芋。

 おいも稚児さぁの苦しみ、悲しみはわかっど。

 

 男谷先生のいっだまし(魂)は、おいが引き継ぎもんそ……」



 ……精一郎の死後、男谷京・静姉妹に、久々に訪れた……

 神との謁見――――――――――






 ――――――しかし……神と思われていた存在は……






「馬鹿なッ!? ……西郷先生が……

 二人いるとでもいうのかっ!?」


「姐様、しかしそう考えるしかありませぬ……

 あのような残酷ななさりよう、人とは思えませぬッ! 


 まして西郷先生の御指図とは、到底……」




 1877年、西南戦争勃発。


 鹿児島私学校に残された子供達もまた、

 その幼き手に武具を取る…………。









「東菊花は世界を救う」


 第二章 「塵捨場の乳児遺体・西郷の下賜菊紋」











 「どこだ……ここはっ!?」


 丈太郎は自らの名前も忘れ、自らの素性すら忘却の彼方。



「東……菊花の本当の姿を教えてあ・げ・る☆ 

 兄様、あたいの言う通りにするゥ?」


「……う、うん……目を……つぶればいいのかい? 


 それだけっ?」



「クックックッ……そう……それでいいよん……」



 ―――――……まどろみの中、


 丈太郎……いや、亞蘭千鶴子は、

 眼前にいる二人の女剣客の、その名前だけは……


 何故か知っていた。



「あんた……京ちゃんだろっ!? そっちが……静ちゃん……」


「……ちゃん!? なんだ御主は!? 無礼であろう!!」





 精一郎葬儀のさなか……


 突然現われた学生服姿の亞蘭丈太郎は、

 不思議な胸のふくらみに気づくことも無く……


 秋葉原のコスプレショップの手提げ袋を抱えながら、


 ただ、茫然と……



 其処に立ちすくむしか、なかった……。







 「……菊花ちゃん、どこいっちゃったのかなあ……


 新しい漫画、描けたのにィ…………」



 東菊花を追い、

 隣町の中学校に赴く小川直美と中井理恵子の2人組……。


 








「東菊花は世界を救う」


 第二章 「塵捨場(ごみすてば)の乳児遺体・西郷の下賜菊紋」





 2013年より(たぶん)連載再開――――――――――――。

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