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神、降臨【3】

 ……そんな時だった。

「なんか戻ってきたら凄いことになってるんですけどォ……。ねぇ? ロニオ」

「……そうだね、ジュリ」

 クルーエル達が見つめる先の出入り口には、二つの影が見える。

 一つは羽根の生えた影で、もう一つは耳の尖った小さな影。

 その二つの影は体を絡ませながら、大きな声を出してクルーエル達にも聞こえるように喋っていた。

「んもォ、ロニオが我慢出来ないからこうなったんだよォ」

「……ごめんよ、ジュリ」

 その二つの影は、より体を絡ませ合いながら喋っている。

 クルーエルと神様は、顔を見合わせて頷く。

「ジュリとロニオの仲が羨ましくて仕方がない、非リア充君達がジュリ達の可愛いBOTちゃん達を憂さ晴らしに使うだなんてェ……。可愛そう! ねェ、ロニオ」

「……そうだね、ジュリ」

 そう話ながら二人の世界に入り込む影二つを無視し、神様とクルーエルを乗せた《シャドーホース》はその影達を素通りして洞窟の外へ出た。

「……って、待ちなさいよォ!」

「任せて、ジュリ」

 小さい影が素早く動き、軽快な足取りで歩いていたクルーエルの《シャドーホース》の前に姿を現し、立ちはだかる。その小さな影の正体はエルフで、茶色の髪の男であった。

「ちょっとちょっとォ、無視決めちゃわないでくれないかしらァ?」

 空からもう一つの影が羽根を羽ばたかせながら、ふわりと降りてくる。金髪でふんわりウェーブのかかったロングヘアーのセラフィの女は、その黒い瞳をクルーエルと神様に向け睨む。

「困ったな……タチの悪いリア充に絡まれたぞ……。私はリア充が苦手なんだ……」

「……ボクもそうなんだけどね」

 クルーエルと神様はコソコソと話をしているつもりなのだが、二人が思うよりも声が大きく、セラフィとエルフにはそう言った事全て筒抜けだった。

 クルーエル達の会話を聞くと、セラフィの女の顔は険しい表情に見る見る変わっていく。

「非リア充の君達のせいで、ジュリ達の可愛いBOTちゃん達が被害に遭ったのよォ! どう責任とってくれるのかしらァ?」

「うん? あれは君達のBOTなのか?」

「そうよォ」

 クルーエルが質問を返すと、セラフィの女は自慢気な顔をして答えた。

 それを聞いた神様は無邪気に笑いながら、クルーエルの《シャドーホース》から降りる。

「それだったらそうと言ってよー」

「言ったわよォ! ……まぁ、今だったら土下座して、あるアイテム全て置いてくなら許してあげてもいいわよォ?」

 セラフィの女は声を高々に張り上げて言うと、終始笑顔だった神様の表情が、一瞬で無表情になったかと思ったら、整った顔で不気味に笑い始めてこう言った。

「それはこっちの台詞だよ、雌豚ちゃんっ」

 そう神様が言った瞬間、セラフィの女が持っているソフィアの箱から音が鳴る。

「ジュリ!」

 それが何なのかすぐにわかったエルフの男は、ジュリと呼ばれたセラフィの女に勢い良く飛び掛かる。

 そのすぐ後に銃声のような音が二回鳴った。

「あらら、避けられちゃった」

 神様は小さな銃を両手に一つずつ持ちながら、不気味に笑っていた。

 そんな神様を見ていたクルーエルは影で出来た馬から降り、《シャドーホース》のスキルを解除した。

「なな……何なのよォ! 雌豚って言われて、いきなり攻撃なんてェ……。それもそんな武器、ジュリ見たことないわよォ!」

「まぁ、未実装の武器だからな。知らないのが普通だ」

「ボクは神様だから仕方がないよ。神にのみ許された権限だからさっ」

 地面に倒れ、驚き叫ぶジュリとは正反対に、クルーエルと神様は笑いながら話す。

「自分の事を神って呼ぶなんてェ……、中二病にも程があるわァ!」

「中二病とは……。ボクにとっては誉め言葉も同然だよ」

 神様は中二病と言われるのがよっぽど嬉しかったのか、いつもの無邪気な笑顔で二人を見下ろしていた。

 そんな中、エルフの男が軽く舌打ちをして、神様を睨み付ける。そしてすぐに神様のソフィアの箱から音が鳴る。

「よくも僕のジュリを……!」

 そう言葉を発したエルフの男は、すかさず弓矢を装備して神様目掛け矢を放つ。近距離の攻撃だが、神様はその矢を銃で見事に撃ち落とす。

「そうだ! 楽しいこと思い付いた。これからボクにPVPで勝ったら君達を許してあげるよ」

 機嫌が良さそうな神様は、笑いながら話す。だが、倒れたままでそれを聞いていたジュリとエルフの男は顔をしかめる。

「ふざけんじゃないわよォ……。どれだけ上目線なのよ、中二病ォ……。痛い目にあわせてあげるわァ……ねェ、ロニオ」

「その意見に賛成だよ、ジュリ」

 ジュリは手に杖を装備すると《飛行》を使い大空を舞い、ロニオと呼ばれたエルフの男は《瞬速》で素早く動く。

 何かのショーを見ているかのように神様はそれをぼけっと眺めていた。

 ロニオは《瞬速》の間に、《ホークアイ》と言う遠い場所でも良く見えたり、急所など細かい部分まで見え狙えるスキルを使い、狙いを定めて神様を狙う。

 因みに《ホークアイ》は、エルフの特殊スキルである。

「もらった!」

 神様の太股部分を的確に狙い、ロニオは矢を放った。

 その矢は確実に神様をとらえた……筈だった。

 矢は神様にたどり着く前に二つになり、残骸として地面に崩れ落ちた。

「余計だよ、くーちん」

「余計なのは分かっている。ただ、一人で二人は流石にズルいぞ、神様」

 クルーエルがMOBを仕留める時に使っていた大剣を手に、ロニオに強制的にPVPを仕掛け、ロニオの放った矢を真っ二つに斬ったのだ。

 楽しそうに話すクルーエルと神様。

 ロニオはその余裕そうな光景に腹が立ち、また顔をしかめる。

「ロニオ! まず中二臭い『機人』から仕留めるわよォ!」

 ジュリはロニオの矢に効果が高い《風のエンチャント》と言う魔法をかける。

 エンチャントとは、武器に属性や効果を付け、より武器を強化するものである。魔法のエンチャントは簡易的なものであって、より強いエンチャントを付けたいならエンチャントショップに行かないと付けれない。

 ロニオはそのエンチャントされた矢を力強く引く。

「《チャージ》! ……そして《ホークアイ》!」

「ジュリが注意を引くからァ、ロニオ……お願いするわッ!」

 《チャージ》とはその名の通り、力を溜め相手に強力な一撃を与えるスキルである。

 そうジュリが言うと、ロニオは一回頷いた。

 ジュリはロニオに笑いかけると《飛行》し、浮いた体を自在に操り、クルーエルと神様の居る所に近付く。

「中二病と巨女!」

 クルーエルと神様が声のする方に顔を上げると、浮遊するジュリの姿があった。

 その時、クルーエルが大きな胸の間に入れてあるソフィアの箱から音が鳴る。

 ジュリは火の低級魔法である《ファイア》を詠唱する。《魔法詠唱短縮》の効果もあるのか、通常よりも早く詠唱が終わりジュリの手に火の塊が浮かんでいた。

「これでもくらいなさい!」

 ジュリの手の上に浮かぶ火の塊を、クルーエルと神様目掛け投げつける。それと同時にまた逆の手に《ファイア》を作り、一つ目を投げた後に二つ目を投げつける。

 その二つとも、それぞれに当たった感覚があった。

「……少し痛いぞ」

「そお? ボクは痒いぐらいかなぁ。……くーちんはもっと魔法防御を鍛えるべきだよ」

「これが私の戦闘スタイルだ、魔法防御を上げる訳がない」

 当たった感覚はあったものの、クルーエルと神様にとっては大したダメージになっていない様子だった。

「想定の範囲内ッ」

 ニヤリとジュリは笑い、再び杖を構える。そして何かの魔法を唱え始めた。

「ふむ、《ファイア》で様子を見たか」

 ジュリの行動を見たクルーエルは、次に大掛かりな魔法がくるかもしれないと踏み、神様から離れてジュリに近付く。

「魔法はあまり使いたくないのだが……」

 クルーエルが土の低級魔法《ストーン》を唱え始めた時だった。

 ジュリはよりいっそうニヤリと笑う。

「ロニオッ!」

 ジュリはすぐに唱えていた魔法スキルをキャンセルし、クルーエルから少し離れた。

「ナイス、ジュリ!」

 ロニオは十分に《チャージ》した力を、孤立した神様目掛け一気に放つ。

 その矢は神様がまばたきをする間も無く、腹部に突き刺さる。

「チームワークは愛し合うジュリ達の方が上なのよッ。なめんなァ」

「大成功だね、ジュリ」

 ロニオとジュリはそれぞれに近付き、身体を絡み合わせ勝ち誇っている。

「中二病は倒したわァ。あとは巨女……あんただけよォ!」

「僕達の愛の力は、誰にも負けない!」

 ロニオとジュリはクルーエルにそう言い放つと、見せつけるように互いの唇を絡め始める。

 とても見てられなかったクルーエルは顔を赤らめ、目を背け咳払いをして見せた。

「いつまでそうしてるつもりだ、神様」

 クルーエルは、神様の姿を見ずにそう言った。そのクルーエルの顔はにんまりと笑っているのだ。

 その顔を見たロニオは顔を歪め、舌打ちをする。

「何言ってるんだよ、そいつはもう……」

「……少しぐらいやられたフリさせてよー」

 その声を聞いたロニオは、信じられないと言わんばかりの顔で神様を見た。よくよく見ると、突き刺さった様に見えた矢は神様が握りしめ持っていたのだ。

「どういうことだよ……!」

「《真剣白刃取り》のスキル……。こう言う規格外な使い方も出来るんだよ?」

 それを聞いたロニオは少し後ずさり、ぼそりと呟いた。

「チート過ぎる……」

 勿論、ロニオが言いたかったチートの意味は、「チート(不正行為)の様に強い」……そんな感じだったのだろう。

 だが、その言葉を聞いた神様から笑顔という笑顔が消え、滅多に御目にかかれない冷酷な表情の神様がそこに居た。

「チート? ……チート……。ボクの事をチートって言うの……?」

「……うん、マズイな。神様が怒るぞ?」

 クルーエルは不穏な空気を感じ、被害に合わぬように苦笑しながらその場を離れる。

 ロニオにべったりとくっついていたジュリは、神様のその顔を見ると、怖くなりロニオに強くしがみつく。

「何度も言ってるよね……。ボクは『神』、この世界の創造主。ボクを『機人』だと勘違いしてたんだろうけど、残念。ボクのキャラの種族は『神』……。この世界のたった一人……ボクにしかなれない種族だよ。……雷属性の『機人』だと見て、風属性で攻撃したのは正解……。それだけは誉めてあげる」

 その深い深い青色の瞳はロニオとジュリを捉えて離さない。

 二人はまるで、蛇に睨まれた蛙のように固まって動けなくなっていた。

 その圧倒的な威圧感はロニオとジュリにのし掛かり、少し離れていたクルーエルでさえ感じ取れた。

「ああ、でもチートって言われたから、もう手加減も楽しもうとも思わないよ」

 神様は右手をかざして光を集め始める。その光は徐々に姿を表し、BOT狩りをした時に使っていた銃の一回り小さい銃が現れる。

 それを握り、銃口をロニオとジュリに向けた。

「じゃーね」

 ガタガタと震えてしまっていたジュリは、ロニオの影に身を隠す。

 神様はトリガーに指をかけ、溜まっているエネルギーを二人に向けて放つ。

 BOT狩りの時の大きさの銃と比べてしまうと、轟音はしないのだがそれでも耳に障る音をたてエネルギーは 二人を貫いた。

「うわあああ!」

「きゃあああ!」

 悲鳴をあげ二人は光に包まれ消えていく。

 そんな様子を眺めていた神様に、やっと笑顔が戻ってきた。

「あーあ、時間を無駄にしたよ……」

「仕方がない。本アカウントをBAN出来ただけ良しとしようじゃないか」

「そーだね。……あーあ、初日ちゃんと月子ちゃんとでダンジョン巡りしたかったなー」

 頬を膨らませまた子供のようにごねる神様を宥め、クルーエルは苦笑する。

「時間もないし、また明日か、駄目なら今度にするぞ。な?」

 クルーエルのその言葉を聞いて、渋々二つ返事をする神様。

 その言葉を聞いたクルーエルは《シャドーホース》を召喚し、神様を乗せてから自分も馬に股がると、ラクナノのある方角へと《シャドーホース》を走らせた。

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