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初心者とチーター殺し【2】

 神秘的な森の中を進んでいくと、生い茂る木の隙間から優しく木漏れ日が降り注ぎ、二人を優しく照らす。

 クルーエルが先に歩き、後から初日が着いていく形で歩いていると、広く拓けた場所に出る。

「ここで戦闘になるから、装備を準備してくれ」

 クルーエルがそう言うと、二匹の狼が森の奥から出てきた。

 初日は慌ててソフィアの箱を取り出すと、おぼつかない手つきでソフィアの箱を操作する。

「慌てなくていい。ゆっくり準備をしてくれ」

 そうクルーエルが言った瞬間、一匹の狼がクルーエルに襲いかかる。クルーエルはその巨体を軽々と動かし、狼の攻撃を見事にかわす。

 そんな華麗な身のこなしに見とれてしまい、初日はつい手を止めていた。

「私は、そこまでゆっくりしろなんて言ってはいないぞ」

 二匹の狼の攻撃を軽々と避けているクルーエルの姿は、巨人と思えないほどの身のこなしであった。

 初日はやっとの思いで装備を整える。どこにでもありそうな軽装の鎧と、鍋蓋のような盾。すぐにでも刃が綻びそうなロングソード。

 正直、ここまで初期装備が酷いものかと初日は涙目になる。

「私は手を出さないから、君一人でこの二匹を倒してくれ」

 クルーエルは狼の攻撃を軽くあしらいながら、初日に優しく微笑んで言った。

「ええぇぇ……」

 ゲームとはいえ、本物と見間違えそうな出来映えの狼に、初日は足がすくむ。

「こいつらはRPGの王道、スライムほどの強さだ。一撃で仕留められるはずだ」

 まるで二匹の狼とじゃれ合うかの様に、クルーエルは狼の攻撃を避けながら初日に言う。

 初日は勇気を振り絞り、クルーエルと戯れている一匹を背後から斬りつけた。

「キャン!」

 狼は一言そう言うと、倒れこみ動かなくなる。

「お、やればできるじゃないか」

「できましたね……」

 へへっと初日が笑うと、もう一匹の狼が唸りながら初日を見る。

「君がタゲられ……いや、狙われているぞ?」

「え……」

 クルーエルが教えるも、狼は初日に向かって来ていた。

 足がすくんで動かないし、手は震えて上手く動かない……。動揺した初日は目元に涙を浮かべ、悲鳴を上げる。

「スキルの説明もするべきだったな」

 狼に襲われている初日を見ながら、クルーエルは苦笑し呟く。

「もうやだー!」

 初日は泣きながら、震えた手でロングソードを適当に振り回す。

 偶然にも、初日が適当に振り回したロングソードの刃先が狼に当たり、「キャン!」と一鳴きしたかと思えば倒れこむ。

 運良く狼を倒した初日は、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を一生懸命に整えてから溜め息を吐いた。

「戦闘嫌い……」

「それを言ってしまったら、RPG全般の戦闘を否定することになるぞ」

 泣いている初日の肩をポンッと叩き、クルーエルは笑いながら宥める。

「君にスキル説明をしていなかった。あともう一回同じ狼と戦闘があるから、それまでにセットしておくといい」

「スキルあったんですか……?」

「ああ、わかっているものかと思っていたんだが……すまんな。……まず、ソフィアの箱の画面にあるスキルと言うアイコンを押して、その中からスキルを選んで装備するだけだ」

 初日は目に涙を溜ながらソフィアの箱に触れる。

 スキルのアイコンに触れるとスキル画面が開き、その中にまだ三種類のアイコンがあった。

「アクティブスキルと、パッシブスキルと、特殊スキルって書いてありますよ……」

 初日は目に溜まった涙を拭い取ると、クルーエルに問いかける。

「ああ、パッシブスキルは装備しなくても発動するスキルだ。アクティブスキルを装備してくれ」

 初日はそう言われるがままに、アクティブスキルのアイコンに触れる。その中に入っていた『カウンター』と『ディフェンド』をスキル装備に入れていく。

「特殊ってなんですか?」

 スキルを装備し終わった後に、初日はクルーエルに訪ねた。

「それは、また後で説明する。……先を急ぐぞ」

 クルーエルがそう言うとまた足早に先に行ってしまう。

 先行きを不安に感じた初日は、また目に涙を溜めて急いでクルーエルを追いかけた。

 二人は同じような道を進んでいくと、また同じように拓けた場所が目の前に広がる。

「もう一回戦だ。頑張れ」

「ふえぇ……」

 そう二人が会話したすぐ後に、今度は三匹の狼が森の奥から出てきた。

 それを見た初日は、憂鬱そうな顔でその三匹を見る。

「今度は三匹……」

「私が二匹のタゲをとっておくから、まずは一対一で頑張るんだ。スキルの使い方だが、使いたいスキルを頭に思い浮かべれば使えるぞ」

 そう初日に教えたクルーエルは、狼の注意を自分に向けさせ、またじゃれ合うかのように狼と戯れていた。

 残されたもう一匹の狼は、初日を睨みつけて唸りながら近付いてくる。

「うおし……頑張る! 《カウンター》っと……」

 初日は頭でそう思い浮かべると、その瞬間狼が初日に飛びかかって来た。

 次第に狼の動きがゆっくりに見え、どこで反撃をすればいいのかという情報が、初日の頭の中に流れ込んでくる。

「すごい……いける!」

 初日は軽やかな身のこなしで、飛びかかってきていた狼の腹をロングソードで斬りつけた。

 狼は一言鳴くと、斬りつけられた反動で離れた場所に飛ばされ、そのままそこに力尽きた。

「やればできる子、初日ちゃん!」

「そうだな、やればできる子だ。じゃあ、その調子であとの二匹も頼む」

「はいっ!」

 初日はそう一声言うと、一匹ずつ確実に仕留めていった。


 三匹の狼を倒し終えた初日は、ノーダメージで戦闘できたことにご満悦の様子だった。

「《カウンター》良いなぁ……。《ディフェンド》全然使わなかったや」

「まぁ上手く使えば、《ディフェンド》もかなり使えるんだが。まぁ、使い方次第だ」

「どんな風に使えばいいんですか?」

「んー、『肉を斬らせて骨を断つ』ような感じだ」

 クルーエルは大きな体を動かし、ストレッチをしながら言う。

 それを聞いた初日は首を傾げる。

「なんか違う気がするのですが……」

「案外変わらんよ。《ディフェンド》は盾無しで使えるからな、このゲームは」

 クルーエルはふんと鼻を鳴らし、微笑みながら初日を見た。

「さあ、神樹まであと少しだ。行くぞ」

「はいっ!」

 二人は木々の間からの木漏れ日を浴びながら、ひたすらに一本道を進んだ。

 その木々が風に吹かれて、森が騒ぎ始める。

 木漏れ日の光が、段々と眩しさを強めていった。

「着いたぞ」

 クルーエルが言った時には、森があったのか? と疑うほどに、辺りは真っ白な世界になっていた。

「あれ……森でしたよね?」

「そうだな」

 初日は辺りを見回した。自分たちが歩いてきた道さえ分からない、真っ白な世界だ。

「アルコーンに支配され、捕らわれの身の神の子(ニンゲン)よ。貴方がここに来ることを待ち望んでいました」

 辺りを見回す初日の目の前に、緑色の髪、緑の瞳をした神秘的な女性が舞い降りてくる。

「あ、ゲームを始めた時に出てきたソフィアちゃんだ」

 初日は知っているようで、神秘的な女性――ソフィアを指差す。

 ノンプレイキャラクター(プレイしている人間がいないキャラクターのこと)……略してNPC(エヌピーシー)である彼女は、そんなことをされてもお構い無しに喋り続けた。

「約束通り、貴方をその忌まわしき肉体から解放し、本来有るべき貴方を呼び覚ましましょう」

 ソフィアは言い終えてから両手を上げた瞬間、白い世界から大きな大樹が現れる。

 クルーエルでも一番下の枝に近付けないほどの見事な大樹である。その大樹には、赤い果実が沢山実っていた。

 ソフィアが両手を下げ、次にその手を器のようにして初日の前に差し出す。その手には、林檎のような果実が一つ置いてあった。

「この果実を食べなさい」

 恐る恐る、初日はそれを受け取った。

 正直、ゲームだとしてもこの得体の知れない果実を口に運ぶ勇気が出ない。大丈夫なのかと瞳で訴えるように、初日はクルーエルをじっと見つめた。

「大丈夫だ。その果実は不思議な味がして、美味いぞ」

 クルーエルが笑いながらそう言うので、初日はその言葉を信用し、勇気を振り絞って初めてゲーム世界の食べ物を口にする。

 噛みちぎる音が辺りに鳴り響き、初日の口に入った果実を舌でよく味わってみる。口の中に甘酸っぱい味が広がり、それを充分味わった後に飲み込んだ。

「普通の林檎じゃん……」

 初日はそう思った瞬間だった。

 自分が今まで使っていたキャラクターと初日自身の意識が引き離され、その肉体(キヤラ)は朽ち果てたかと思えば、光の塊になっていく。

「え、うそ? 動けない……」

 初日は光の(たま)となり、ソフィアの前にふわふわと浮かんでいる。

「どういう事ですか! クルーエルさん!」

「まぁ落ち着け」

「落ち着けませんよ!」

 初日は声を荒ぶらせて言う。

「どうにかしてください!」

「落ち着け!」

 クルーエルが初日の前で、初めて声を張り上げた。その声に迫力があり、初日はその一言で黙り込む。

 少しの沈黙の後、何事も無かったかのようにソフィアは口を開いた。

「貴方はグノーシスを得て、ニンゲンと言う牢獄から解放されました。さあ、私に貴方の本来の姿を見せてください」

 それを聞いた後、ソフィアの周りに七つの人影らしきモノが現れた。

「あっ……、動ける」

 光の魂となった初日は、ふわふわと宙に浮きながら動き回ってみる。その姿に違和感があるが、動けることに安心したようだった。

「クルーエルさん、この影達は……」

「ああ、もう一度ソフィアに聞いてみるといい」

 初日は、人影が現れてから動かなくなってしまったソフィアに話しかけてみる。

「……――その中の精霊達から、種族を選んでください」

 ただそれだけを言って、ソフィアはまた動かなくなる。

「種族を選ぶと言うことは、ついにキャラクター作成ですか?」

「そうだな。影に話しかければ、種族の説明をしてくれるぞ」

 そう聞くと、初日の顔がみるみる笑顔になる。

「公式ホームページを見てくれたら、種族の説明も大まかに解るんだが……。多分あの子は、見ていないな」

 ぼそりとクルーエルは呟いた。

 そんな事を言われていると知らず、光の魂の初日はまず一際目立つ大きな影に近付き、話しかけてみた。

「ネフィリム――巨人族。約三メートルはある巨体を自由に操ることが出来る。火力に優れていて、攻撃型である。また、土系の魔法を得意とする」

 大きな影からそう説明が聞こえてくる。

「あ、これクルーエルさんですね」

「そうだ。いまいち人気が延びない種族なんだ……。君もネフィリムにしないか?」

 嬉しそうに笑うクルーエルに対し、初日はつい思ったことを口にしてしまう。

「可愛くない」

 それを聞いたクルーエルは、とても悲しそうな表情をする。

「可愛くない……そうか、可愛くないな……」

「え、あ、か、カッコイイです! 可愛いよりもカッコイイ……って、ことで……」

「いいんだ、分かっている……」

 何かいけないことを口走ってしまったと、初日は少し反省しながら、しゃがみこみ拗ねているクルーエルを見た。

「その隣も種族はあるから説明を受けてくれ……」

「あ……」

 拗ねているクルーエルは、片手でしっしと初日を追い払う様にして言った。

「クルーエルさん、ごめんなさい……」

「いや、しみじみ感じてしまっただけだ。ほっといてもらえれば、すぐに立ち直るのが私だ……」

 初日はそう言われて、本当に大丈夫なのかと疑いながら、隣の小柄な影に話しかけた。

「エルフ――耳が長く、少し小柄な種族。身長が小柄だが足が速く、弓を扱うのに優れている。また、風の魔法を得意とする」

「ああ……もし試てみたいなら、その前でどんな姿かをイメージしてみるといい。すぐに形成してくれるはずだ」

 説明を聞くや否や、立ち直った様子のクルーエルが仁王立ちで初日に話しかける。

「本当に早いですね……」

「ああ、私の長所だ」

 胸を張り、ふんと鼻を鳴らすクルーエル。

「イメージって何をイメージすれば……」

「このゲームの目玉の一つ、イメージを実体化するシステム『KS(ケーエス)』だ。どんな姿なのか肉付きはどのぐらいか、目はどんな感じか。……詳しくイメージすればするほど、自分の理想的キャラの完成というわけだ」

「へえ……そんなシステムがあったのですね。ところで、『KS』って、どういう意味なんですか?」

 素朴な疑問を投げる初日に、苦笑しながら言いたくなさそうにクルーエルは答えた。

「……どこかの中二病臭い誰かさんが開発して、つけた名前『神システム』の略だよ……。本当に痛すぎるネーミングだ……。システム的には凄いモノだというのに、勿体無い……」

 頭に手を添えて、首を横に振りクルーエルは言う。それを聞いた瞬間、初日もクルーエルが言いたくなさそうにしていた理由が分かった。

「まぁ、イメージしてみてくれ」

「わかりました」

 初日は頭の中でイメージをふくらませる。今まで光の魂だった初日は、エルフの形に形成されていく。

「おお、やっと球体から脱出です」

 小柄なエルフになったせいか、クルーエルを見上げるともっと巨大に感じた。

「そんな感じで、他の種族にもなってみればいい。気に入った種族に出会えるかも知れんぞ」

「はい! 他も見てみますね」

 初日は動きやすくなった体で、その隣の種族に話しかける。

「メロウ――人の形をし、耳の代わりにヒレが生えていて、体が鱗でできている種族。別名人魚。水中戦に特化し、息継ぎをしなくても移動可能な唯一の存在。また、水の魔法を得意とする」

 メロウという種族の前で、初日はイメージしてみる。人間だった時の背丈になり、耳からヒレが生え、手には水かきがしっかりと付き、腕からもヒレが生えてくる。

「……これがメロウですね。なんかイメージしてたのより、人魚って感じがしませんね」

「ああ。従来の下半身だけ魚のような人魚にしてしまったら、陸上戦は不利になってしまってつまらないから、こう言う姿になったらしいぞ。また上半身魚というのも、気色悪くて人気にならないからな」

「そうなんですか……」

 体中の鱗を触り、確かめ終えた初日は次の影に話しかけた。

機人(きじん)――人の形をしているが、全体が機械で出来た種族。両手に武器を装備でき、装甲をカスタマイズしオリジナルの機人に仕上げることができる。また、雷の魔法を得意とする」

 説明を受けた後、また初日はイメージすると機人の形に成形されていく。

「あれ……これって、見た目的に人間と変わらなくないですか?」

「ああ、機人は見た目はまんま人間だ。ただ歩く時に機械音がする」

 そう言われて、興味本位で二、三歩足を進めてみた。よくアニメとかで聞きそうなな機械音が、ウィンウィンと音を立てた。

「本当ですね……」

「そして機人は一番人気の種族だ。ただ、初心者には扱い難いがな」

 そう聞くと、初日はまた次の影の前に立ち説明を聞く。

「クエレブレ――龍人族。角と太い尾が生え、鱗がある種族。龍の鱗は非常に硬く、魔法や物理といった攻撃を簡単には通さない。また、火の魔法を得意とする」

 また説明を聞くと、初日はすぐにイメージする。

 初日の頭から二本の角が生え、太く逞しいしっぽがお尻の辺りから生えてくる。メロウの鱗とはまた違った鱗が体についていた。

「なんか硬いですね、この鱗」

「この世界では、一番の防御力を誇る《龍の鱗》というものを持っている種族だ。なかなか使いやすい種族だぞ」

 初日は尾に意識を集中させると、尾がブンブンと動く。

 尾が自在に動かせることに感動した初日は、思いっ切り左右に動かして遊んでみる。

「わぁ! 尾が動かせる……すごい!」

「さあ、次にいこうじゃないか。次は他のMMORPGでもめったにお目にかかれない、『GNOSIS』の目玉種族だ」

 嬉しそうに笑いながらクルーエルは言った。何故クルーエルがニヤニヤしてるかもわからないまま、初日は次の種族の前まで行った。

「デュラハン――別名、首なし騎士と呼ばれる種族。首を片手に持ち、馬に乗り駆け巡る。また、闇の魔法を得意とする」

 なにも考えず、初日はその前でイメージをしてみた。

「およ……? なんか視点が変ですよ」

「ああ、デュラハンの醍醐味はその顔の位置だ!」

 腕が何かを持っている感覚と、顔が何かに持たれている感覚があって変な感じがした。何かを持った腕を動かしてみると、顔の視点まで動く。

「ええええ……もしかして、これって……」

「そうだ! 片手に必ず顔を持っていると説明していただろう」

 そう言った瞬間、初日はデュラハンという種族が視点の関係上、凄く扱いが難しいことに気付く。

「お気付きの通り、デュラハンは一番扱い難い。正直、ネタ種族なんて言われているくらいだ。だから運営ももう少し改良しようと考えている」

 クルーエルは、えへんと威張ったように言った。

 そんなクルーエルを横目に、初日はそそくさと最後の種族に行く。

「セラフィ――天使族。後ろに白い翼を持ち、飛行できる唯一の存在。魔法防御と魔法攻撃が高く、魔法強化の杖を装備できる。また、光の魔法を得意とする」

 初日は説明を聞き、嬉しそうに笑った。

「天使! きっと可愛いに違いない……」

 そう言うと、初日は早速イメージしてみる。

 初日の体は今までとは違う変化をしていく。

 セミロングのピンクの髪。黄金の瞳で可愛らしい顔つき。胸は普通位の、羽根の生えた天使に姿を変える。

「キター! 私これにします!」

 初日は嬉しそうに自分の体をペタペタ触った。

「サポートが多めの種族だ。戦闘型にもできるが、初心者にはそうもできないぞ?」

「いえ、可愛いのでこれで大丈夫です」

「そうか……」

 それを聞いたクルーエルは、残念そうな顔をする。クルーエルはふうと溜め息を吐いた後、口をまた開く。

「決まったなら、ソフィアに話しかければいい」

 そう聞いて、初日はソフィアに話しかけた。

「――……貴方の本来の姿はそれですか?」

 ソフィアにそう聞かれたが、なんと答えたら良いのかと慌てふためいている初日に、

「はい。と一言、返事をするだけでいい」

 と、クルーエルが教えた。

「はい!」

 元気よく初日が答えると、不気味に動かなくなっていたソフィアの動きが滑らかになっていく。

「――……貴方にお願いがあります。……地上世界に残る大勢の神の子(ニンゲン)を、アルコーンの手から救い出してください」

 ソフィアは涙ぐみ、初日を見つめる。

「私のせいで、九つの過失……強大なアルコーンを生み出してしまった。彼らを止められるのは、貴方しかいない」

 彼女の目からは涙が流れ、その顔を手で覆い隠す。

「どうか、どうか……」

 その言葉を聞くと、その場が真っ暗になっていき、辺りは何も見えなくなっていった。

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