プロローグ
仮想世界に、赤い雨が降る。
赤い雨は空からではなく、人から噴き出ていた。
そして、その赤い雨はべっとりと長い髪のプレイヤーに降りかかる。
その長い髪のプレイヤーは赤黒い瞳を光らせながら、近くにいた人を大剣で斬りつけた。
人を斬る度に髪の毛や体を赤黒く染めて、長い髪のプレイヤーは無差別に人を斬りつけていく。
ただ、ひたすらに。
ただ、憎しみを込めて。
……ただ、悲しみを堪えながら。
***
動画サイトに、VRMMORPG『Blood Rain』の動画が投稿された。
その動画に映る一人のプレイヤーは大剣を持ち、降り注ぐ血を浴びながらも無心になって他のプレイヤーを斬り捨てていく。
この残酷な動画が、今流行りのVRMMOと言われれば、目を疑うだろう。
動画の中で滑らかに動き回る、プレイヤー達。
相手を一度斬りつければ、血飛沫をあげて雨の如く降り注ぐ。
見事なまでの映像美と、目を引く鮮やかな血は、その動画を観る全ての者を釘付けにして、確実に再生数を伸ばしていく。
だが、その動画の再生数が伸びる理由は他にもあった。
動画の中で血飛沫を浴び、全身を赤黒く染めるプレイヤーの名は――クルーエル。
優れたプレイヤースキル(プレイヤー自身の操作技術のこと)の持ち主であるクルーエルは、大剣を縦横無尽に操りながらも他のプレイヤーをなぎ倒していく。
そのクルーエルがPK(プレイヤーキル、またはプレイヤーキラーの略)をする相手達は、殆どがオンラインゲームでチート(不正行為)をしているプレイヤーなのだ。
クルーエルは必要以上にチートをするプレイヤー――それをチーターと言うのだが――をPKし続け、ネット上では『チーター殺しのクルーエル』と持て囃されるようになった。
クルーエルは数多のオンラインゲームでも、同じように『チーター殺し』をし続けていく。
だが、ある日を境に、クルーエルはVRMMOの世界に現れることは無かった。
「飽きて辞めた」
「運営にBAN(アカウント停止処分のこと)された」
「現実世界が忙しくなった」
などの憶測が飛び交う中、時間が流れると共に話題から伝説へと変わっていった。