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恋愛感情

作者: かぎしっぽ

「あ……」


僕は思わず声を上げてしまった。

周りの人たちがこちらを見ているようだが、手を止めて見入ってしまう。

鉄格子の窓から外で、少しばかりの雪が舞っているのだ。

この地で雪が降るなんて珍しいこともあるんだなと、それを見ながら今は懐かしい高校生の頃を思い出す。




好きな子がいた。

よく僕に話しかけては笑顔を見せていた彼女。

だが10年前、彼女は死んだ。

とても感情豊かなよく笑う子で友達も多く、僕とは真逆な人間。

そう、僕は感情というものをうまく表すことができない。

だが彼女はいつもニコニコして


「やっぱり笑顔ぎこちないねー」

「頑張って笑顔の練習しよう!」


などと、話しかけてきては


「うん。やってみる」


と、僕は素気ない返事を返しつつ、

彼女曰く、「ブルドッグ」のような笑顔を絞り出すだけだった。

こればかりは生まれつきなのだからどうにも直すことは出来ないし、

彼女と出会うまではまったく直す気もなかった。

友達なんてものはいなくてもどうにかやれると思っていたし、感情の薄い僕には寄ってくる人もいない。

けれどそんな僕にも、友達といえるのかもしれない人はいた。家が近所で、幼稚園の頃から高校まで一緒のいわば男の幼馴染。

よくクラスでバカをしてはみんなの注目を集めるやつがいるが、あいつはまさにそれだ。

昔から口数の少ない僕にもよく


「おーい。紹介するからこっち来いよ」


と、話しかけてはみんなの輪の中へ入れようとしてくれていたが、

当然ながら僕がその輪に交わることはなかった。

僕には笑顔で話しかけてくれる彼女、そして幼馴染のあいつ、そんなお人好しな二人だけで十分だった。

そうしていつの間にか彼女のことを好きになっていく。

交友関係なんて皆無に等しい僕に唯一、関わろうとしてくれる彼女。

たぶん必然的にそうなっていったのだろう。

だがそのときの僕は好きという感情など理解できるはずもなく、告白するなんてことはまったく考えもしなかった。

ただ、彼女との日課になっている笑顔の練習を続けることさえできれば、それだけで満足だった。



だが、同じ日常なんて続くはずもない。

ある寒い少しばかりの雪が降る日、僕は熱により午後から保健室で寝ていたが、

放課後になり、帰る準備をするために教室へと向かっていたのだが、教室の前に来ると中から聞き慣れた男女の声がする。

この扉を開けることにより、傍から見れば寂しい、けれど僅かばかりの暖かい大切な日常を、

自らの手で壊してしまうなんてあの頃の僕は夢にも思わなかった。




看守の注意する声が遠くから聞こえ、また現実に戻る。

そうして思う。

今の僕ならあの理解できない感情に身を委ねることもしなかったし、それらの感情も理解でき、

自制することができるだろう。

だがどんなに後悔してもあの日常は返ってこない。

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