表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/40

第26話: 嵐の幕開け

シグナルが消えた瞬間、世界が爆発した。


「ブォォォォォォン!」


五十台のエンジンが、一斉に咆哮を上げる。その音が、空気を引き裂いた。心臓が、音に押し潰されそうになる。アクセルを踏み込む。全開。クロが、前に飛び出した。


「ギャアアアアッ!」


タイヤが悲鳴を上げる。周りの車も、同じように飛び出す。五十台が、一斉に加速する。その光景が、圧倒的だった。速度計を見る。80km/h。あっという間に100km/hを超える。


二十三番グリッド。スタートで、一気に前に出る。横をすり抜ける。ギリギリのライン取り。左に一台。右に一台。タイヤが、路面を掴む。まだ行ける。さらに前へ。120km/h。


「いいスタートだ。そのまま行け」


ヘッドセットから、零の声。冷静だ。落ち着いてる。


「…ああ」


短く答える。前を見る。まだ、十五台が前にいる。最初のコーナーが見えてきた。速度計が140km/hを指す。


「さあ、スタートしました! Cランク公式戦第一戦! 今年の幕開けです!」


実況の声が、スピーカーから響く。


「おおっと! 二十三番グリッドの星野選手、いいスタートを切りましたね!」


「そうですね! 一気に五台抜きました! あのシルビア、加速がいいですね!」


美月の声。明るい。楽しそうだ。


「第一コーナーです! ここで順位が大きく変わります!」


実況が叫ぶ。第一コーナー。鋭い右カーブ。ブレーキングポイントを見極める。前の車が、ブレーキランプを光らせた。速度が落ちる。俺も踏む。でも、相手より遅く。ギリギリまで引っ張る。


「ガガガガガッ!」


ブレーキの悲鳴。タイヤが、路面を削る。140km/hから80km/hまで一気に落とす。Gが、体を前に押す。シートベルトが、食い込む。ステアリングを切る。インから刺す。前の車が、アウトに膨らんだ。隙ができた。そこを突く。並ぶ。抜く。また一台。


「いいぞ。焦るな」


零の声。


「…わかってる」


答える。コーナーを抜ける。アクセルを踏む。加速。60km/hから一気に加速する。80km/h、100km/h、120km/h。エンジンが唸る。次のコーナー。左カーブ。前の車が、早めにブレーキを踏んだ。守りの走りだ。チャンスだ。もっと奥まで引っ張る。130km/hでブレーキを踏む。ステアリングを切る。車が、鋭く曲がる。抜いた。また一台。


「おおおっと! 星野選手、第二コーナーでも一台抜きました! これで十六位まで上がってきました!」


実況の声が、興奮してる。


「いいですね! あのライン取り、本当に無駄がないです!」


美月が、俺の走りを褒めてる。嬉しい。でも、まだだ。まだ、十六位。三位まで、あと十三台も前にいる。


「凪、焦るな」


零の声が、冷静に響く。


「今は、様子を見ろ。無理に抜くな」


「…っ」


言いたいことがある。でも、我慢する。零の言う通りだ。焦ったら、車を壊す。俺の癖だ。


「タイヤを温めろ。五周目から、本気を出せ」


「…わかった」


アクセルを踏む。でも、全開じゃない。八割くらい。前の車を追う。でも、無理に抜かない。距離を保つ。タイヤを、じわじわと温める。


第二ラップ。直線。前の車が、少し離れる。パワーが違う。GT-Rだ。直線は、勝てない。速度計が150km/hを指す。GT-Rは160km/h以上出てる。でも、コーナーなら。


「第三コーナー。ヘアピンだ。ここで抜ける」


零の声。


「…わかった」


ヘアピンが見える。鋭い左カーブ。GT-Rが、早めにブレーキを踏んだ。重い車体。慎重にならざるを得ない。速度が120km/hから60km/hまで落ちる。俺は、もっと奥まで引っ張る。130km/hまで引っ張って、そこからブレーキを踏む。


「ガガガガッ!」


ブレーキが唸る。70km/hまで落とす。フロントに荷重を乗せる。ステアリングを切る。インから刺す。GT-Rと並ぶ。抜く。


「やった!」


思わず声が出た。


「調子に乗るな」


零の声が、冷たい。


「…っ」


ムカつく。でも、正しい。まだ、十五位。まだまだだ。


「星野選手、また一台抜きました! これで十五位です!」


実況の声。


「あのシルビア、コーナリングが本当にいいですね! タイヤの使い方が上手いです!」


美月が、また褒めてる。


第三ラップ。前に、十四台。順位は十五位。少しずつ、上がってる。でも、まだ足りない。もっと、もっと前へ。速度計が140km/hを指す。直線を駆け抜ける。風が、車体を揺らす。


「凪」


零の声。


「…何だ」


「お前、攻めすぎだ」


「…は?」


「タイヤを使いすぎてる。このペースだと、十周持たねえ」


「……!」


そうか。俺、焦ってた。無理に抜こうとして、タイヤに負担をかけてた。コーナーで限界まで攻めすぎてた。


「落ち着け。五周目まで、我慢しろ」


「…わかった」


アクセルを緩める。速度が130km/hに落ちる。前の車を追う。でも、無理に抜かない。距離を保つ。タイヤを、労る。


第四ラップ。順位は変わらない。十五位のまま。でも、焦らない。零の言う通りだ。まだ、時間はある。速度計を見る。直線で150km/h。コーナー進入で80km/h。コーナー脱出で60km/hから加速。


「いいぞ。そのペースだ」


零の声。


「…ああ」


タイヤが、じわじわと温まってくる。グリップが、上がってる。この感覚。好きだ。車が、路面を掴んでる。コーナーで、車が素直に曲がる。


「第五ラップ。ここから、攻めろ」


零の声が、鋭くなった。


「…ああ」


アクセルを踏み込む。全開。クロが、吠える。


「ブォォォォォン!」


エンジンが、咆哮を上げた。速度が上がる。160km/hまで加速する。前の車が、近づいてくる。コーナー。ブレーキを踏む。相手より遅く。相手が100km/hで入る。俺は110km/hで入る。ステアリングを切る。インから刺す。抜く。また一台。


「おおっと! 星野選手、ペースを上げてきました!」


実況の声。


「タイヤが温まりましたね! ここから、本気モードです!」


美月の声が、興奮してる。


次のコーナー。また抜く。また一台。直線。また抜く。また一台。第五ラップで、三台抜いた。順位は、十二位。速度計が165km/hを指す。今までで一番速い。


「いいぞ。その調子だ」


零の声。


「…ああ」


心臓が、バクバク言ってる。手のひらに、汗が滲む。でも、楽しい。これが、レースだ。これが、俺が求めてたものだ。


第六ラップ。前に、十一台。順位は十二位。まだまだ前へ。コーナー。ブレーキを踏む。120km/hから70km/hまで落とす。Gが体を前に押す。ステアリングを切る。前の車が、少しアンダーステアを出した。隙ができた。インから刺す。並ぶ。抜く。また一台。


「星野選手、止まりませんね! また一台抜きました! これで十一位です!」


実況が、叫ぶ。


「すごいです! あのシルビア、タイヤがまだ生きてます! 他の車が少しずつグリップを失ってる中、星野選手だけがしっかり曲がってます!」


美月の声が、興奮してる。


「これは、タイヤマネジメントの差ですね! 序盤、無理に攻めなかった分、今タイヤが生きてます!」


美月が、解説してる。正しい。零の指示通りに走った結果だ。


「凪」


零の声。


「…何だ」


「前に、佐々木葵がいる」


「……!」


スクリーンを見る。確かに、前方にRX-7が映ってる。葵だ。現在、八位。速度計を見る。俺は155km/h。葵は160km/h以上出てる。


「あいつを抜け」


「…わかった」


第七ラップ。葵のRX-7に迫る。距離が縮まる。葵の走り、見える。ライン取りが完璧だ。無駄がない。コーナーで、全く膨らまない。コーナー進入速度が90km/h。速い。


「…上手い」


呟いた。


「だが、お前の方が速い」


零の声。


「…!」


そうだ。俺の方が速い。タイヤが、まだ生きてる。行ける。


コーナー。葵が、完璧なラインで曲がる。90km/hで入る。でも、俺はもっと奥まで引っ張る。100km/hまで引っ張る。ブレーキを踏む。


「ガガガッ!」


ブレーキが唸る。75km/hまで落とす。ステアリングを切る。インから刺す。葵と並ぶ。


「……!」


葵が、こっちを見た。ヘルメット越しでも、驚いてるのがわかる。でも、ラインを譲らない。並走。速度が80km/h、90km/h、100km/hと上がる。次のコーナー。葵が、アウトから被せようとする。でも、俺の方が速い。110km/hで突っ込む。抜いた!


「やった!」


声が出た。速度計が120km/hを指す。さらに加速。140km/h、150km/h。


「星野選手! 佐々木選手を抜きました! これで八位です!」


実況が、絶叫してる。


「すごい! すごいです! 去年Cランク四位の佐々木選手を抜きました!」


美月の声が、興奮してる。


「凪、調子に乗るな」


零の声が、冷たい。


「…わかってる」


でも、嬉しい。葵を抜いた。去年、俺の一つ上だった奴を、抜いた。速度計が165km/hを指す。クロが、唸る。この車、まだまだ行ける。


「前に、まだ七台いる。気を抜くな」


「…ああ」


零の声が、背中を押した。第七ラップ、終了。まだ、半分残ってる。これから、さらに激しくなる。心臓が、バクバク言ってる。手が、震えてる。でも、止まらない。前へ。もっと前へ。三位まで、まだ遠い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ