『波紋の種』 〜詩的散文〜
因果律について、自分なりに柔らかい散文詩にしてみたつもりです。
季節は、
兆しを拒んだまま、静かに過ぎていった。
空は曇りでも晴れでもなく、ただ、濡れていた。
その日、
わたしは風の背に身を預けていた。見えない景色の壁に、そっと触れるように。
声にならなかった祈りがあった。
誰にも触れられなかった微笑もあった。
それらは、風の底流に触れながら、果てしない波紋となって広がっていった。
誰にも気づかれないまま、けれど確かに、世界のどこかを揺らしていた。
わたしが踏みしめた影は、誰かの光に触れていたかもしれない。
見過ごした痛みは、誰かの胸に、そっと芽吹いていたかもしれない。
そう思うと、世界は少しだけ、静かに揺れているように見えた。
終わりを孕んだ始まりは、音もなく、確かにそこにあった。
時のほとりに、種のかけらが落ちていくのを、わたしは見た。
それは芽吹くことを急がず、ただ、静かに待っていた。
その徴は、今ではない。
けれど、風の奥へと運ばれていくその気配を、わたしは感じていた。
名もなき音の粒となって、遥かなる耳の奥に滲んでいく。
誰の記憶にも触れずに、ただ、ひとつの余韻として消えていく。
それでも、わたしは知っている。
その余韻が、誰かの静かな午後に、ふと波紋を残すことがあるのだと。
読んでくださった方々、ありがとうございました。




