第5話 草原にて2
「こちらに飛ばされたのは、4人で合っているか?」
「あぁ、この場にいない者は既に試験会場に帰還できたということでいいのか?」
「全員が無事という訳ではないが、帰還は完了している。」
学園長と共に現れた、複数の教師と思われる人物達は、俺たちの状況を事細かに聞いていく。
他の生き残りはそのまま試験会場に転移させられてきたらしい。
「改めて、この度は異変に気付くのが遅れて、申し訳なかった。謝罪で許されることではないことは分かっているが......受け入れてもらえないだろうか」
「学園長、頭を上げてください!今こうして救助してもらえなかったら、私たちここで死んでたんですから!」
入学さえしてない俺たちに頭を下げる学園長と、それに慌てるテレーゼ。この二人が話すと、話が進まない気がした。
そんな時、二人の遠慮を引き裂くように、ぐぅーっと低い唸り声が周囲に響く。
「敵襲か!?」
「ブフッ......いや、敵襲じゃないよ、ノア。ただの生理現象だ......」
「生理現象?」
構える俺を笑いながら制止するアデル。
いまいち状況を掴めない俺は、アデルの指の刺す方を見る。
そこには――顔を赤くしてお腹を押さえるリーナの姿があった。
「こっち見ないでよ......お腹が空いたらお腹が鳴るのは当然じゃない......!」
「この通り、リーナの腹の虫が鳴いただけ――って痛い!」
「こ、これはアデルが悪いわね......。擁護の仕様がないわ。」
リーナがアデルの頭を一発。リーナの顔面は茹で上がったように真っ赤だった。
流石にこれはアデルのデリカシー不足だ。俺にだって擁護できない。
「アデル、女の子には優しく、な?」
「まさかノアにまで諭される日が来るなんて......」
「んだよその言い方。学園長、もし良かったら......食料があったり、しませんかね?」
俺は学園長に聞いてみる。腹の虫こそなっていないが、俺を含めた全員、お腹もすいていれば喉も乾いている。
学園長は待ってました、と言わんばかりに、マジックバッグからサンドイッチと水の入った小瓶を4つ、取り出す。
嬉しそうな顔で、一人一人に食事を手渡しながら、何やら可愛いことをつぶやいている。
「勿論しっかり持ってきたぞ。真っ先に飯!と言うと思っていたんだが......現状把握ばかりしてくるから渡し時を見失ってな......」
「それは、何というか......すみません」
「仲間思いでいいことではあるが、自信をおろそかにしてはいけないぞ。ほら、さっさと食わんか」
「ありがとうございます、学園長。それじゃあ――」
「「「「いただきます!」」」」
四人は食事を受け取り思い思いに食べ始める。
俺はひとまず、瓶に入った水をぐいっと飲む。ひんやりとした感覚が、ひりついた喉を潤していく。
「ぷはぁ!生き返った!水がこんなに美味いなんて......」
「もぐもぐ.....がふへんひょう!おいひいあよ!」
「リーナ、食べながら話さない。お行儀が悪いでしょ?」
「ふぁ~い」
ちなみに、サンドイッチにはレタスとトマト、チーズが挟まれており、マスタードとマヨネーズで味付けがされている。
程良い辛みと野菜のみずみずしさが、空腹を程よく満たす。
「お前たち、いい食べっぷりだな。やはり若者はよく食わんと」
「学園長、そろそろ迷宮の調査を始めようかと」
「うむ、そうだな。お前たち、暫くここで待っていてもらえるか?」
俺たちに食事を配り終えた学園長は、どうやら迷宮の調査に向かうようだ。
先に返して欲しいのだが、何か理由があるのだろうか?
「えーと、先に俺たちを返す方が楽なように思うんですが、何か理由が?」
「あぁ、それはな――」
「学園長!まだ私のこと紹介してなかったんですかー!?」
ややテンションの高い声が響き渡り、学園長の後ろから、亜麻色の髪を揺らしながら、小柄な少女が顔を出す。
「この生徒会長が謝罪とあいさつを真っ先にしたいと聞かなくてな......帰還後にできる、と言ったのに着いて来てしまって」
「なんですか!私そんなにお邪魔虫ですか!?」
「逆にここで、邪魔以外のなんだと思っておる」
「むぅ、辛辣~......」
ええと......この人が生徒会長?
何とも気が抜けているというか、掴みどころが無くてふわふわしているような......。
「あ、そこの君、今「頼りないなー」って思ったでしょ!分かるんだからねー?」
「いや、流石にそこまでは思ってませんが」
「そこまではって言った!ちょっとは思ってたんだ!?」
「......アデル、俺この人苦手」
「ボクに言われても困る。なんとかしたまえ」
頬をぷくーっと膨らませて憤りをあらわにする生徒会長。
耐えきれずにアデルに助けを求めたが、あっけなく拒絶された。この薄情者め。
「リエル、お前は子供か。生徒会長ならもう少し大人になったらどうだ」
「で、でも学園長!後輩に舐められる生徒会長は良くないと思います!」
「舐めてはないです。引いてるだけです。」
「それはそれで傷つく!」
「めんどくさい学生会長だな!?」
学園長はなんて爆弾を持ってきてくれたんだ。
問い詰めようにもすでに仕事に向かおうとしてるし......。
「学園長......。俺たちはこの人と何をすれば?」
「うむ、そいつのお守りをしておいてくれ。なに、精神的にはガキでも戦闘力はお前たち以上だ。護衛にはなろうよ」
「学園長!私、貶された気がします!」
「さて、どうだろうな?それでは、調査に行ってくる」
学園長は面倒ごとを躱すように、一言いい残しその場を去る。
俺たちは、いよいよこの爆弾を押し付けられてしまったようだ。
会長はといえば満面の笑みで俺が何か言うのを待っている。
――早く終わらせてくれよ、学園長。
「さーて、学園長もいなくなったことだし!若者だけで自己紹介でもしますか!私、リエル・アイリーン!学生会長です!」
「俺はノア・エインズワース。こいつらが、アデル、テレーゼ、リーナです」
周囲に星でも飛びそうな挨拶をしてくる会長に対し、話そうという気概が無い三人。
仕方なく俺が全員を紹介していく。
どんだけ厄介ごとを避けたいんだお前たちは。
「へぇ~、ノア君って言うんだ。君がで龍を倒したって話は本当なの?」
「俺たちが夢を見ていなければ、本当ですね。会長はその、普段からそんな雰囲気なんですか?」
「ううん?今日はちょっとふざけただけ!ごめんね!」
「......そうっすか、何よりです。ただもう少し抑えてもらえると......」
「えぇ~、明るいの嫌いかぁ......」
そうではないが......
激戦で疲れた奴の前でふざけないで欲しい。正直、まだ体痛いし。人と話すのだって体力使うんだから。
「ところで、龍を倒すってことは相当強いんでしょう?ノア君の固有魔法って、どんなの?」
「全然、他の奴が凄かっただけですよ。俺のは、俺に連なるものを加速させるだけの能力ですから」
「加速?」
「えぇ、こうやって――加速」
指先に小さな魔力の塊を生成し、呟く。
加速した魔力の粒子は、アデルの鼻っ面へ飛んでいき、衝突した。
「アガッ!?いきなりなんだ無礼な!」
「無礼はどっちだ。会長と一言も話そうとしなかったくせに」
「なっ、それは他二人だって同じだろう!?」
俺はアデルにジトッとした目線を送り、淡々と答える。
ついでに他二人にも目線を送ってやると、気まずそうに眼をそらした。
「別に!ちゃんと入学してから挨拶しようと思っただけだから!」
「ひ、人様は話してるところに割って入るのも迷惑かな......なんてね」
「......へいへい、さいですか」
「試験で会ったばっかりなのに、もう仲良しなんだねぇ」
当然、嫌でも仲良くなる。あんな死闘を共に潜り抜けたんだ。逆に仲良くなければ死んでいただろう。
「会長が試験を受けた時はどんなだったんですか?」
「んー、私の時は特に異変とか無くて、私の魔法で「ズバッ!」ってやったら......いつの間にか終わってたんだよね」
「え、一人でやったんすか......」
「先人切ったら私一人で事足りちゃった、って言うべきかな」
「それはなんというか......強いっすね」
ふと気になり聞いてみたのだが、予想以上の答えが返って来た。
やはり、この人にはふんわりとした見た目とは裏腹に、会長足り得る実力が確かにあるらしい。
その後もいろいろ質問責めに合い、限界が来るまで会話相手を務めさせられた。
「さて、ノア君ともいっぱいお話しできたし、そろそろ――」
「先に帰るんですか?」
「あれ、もしかして仲良くなれてない?邪魔って思われてる!?」
「それ、先輩のネタなんです?」
まぁ鬱陶しいくらいに騒がしくはあるけど。こういう先輩のほうが、リーダーとして適切なのかもしれないな、とも思った。
そして会長は、俺以外の3人に目を付けたらしく、次々と会話の餌食にされては、疲弊して倒れて行った。
人に話を任せた罰だよ、君たち。
その後、俺も再び餌食になったんだけども。ここで話すほどの事でもないだろう。
――学園長と教師が帰ってくるまでに、俺たちは無事、精神的にも、体力的にも壊滅させられた。
予約忘れていました。ごめんなさい。
それとテスト期間なので更新暫くないです。1週間お待ちください。




