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第五話 草原にて(1)

 ――数刻前、試験会場。

 

「ふむ、おおよその班の試験は滞りなく行われておるが......第三班だけ定時報告が途切れておる。監督官はどうした?」

 

 白と金のローブを身に纏った学園長が、隣に控える黒衣の男に尋ねる。

 

「はい、扉を閉めた際の報告は確認できていますが......それ以降は報告がありません」

「内部の状況は?転写球で確認はできんのか?」

「それが......転写球は監督官が持っているので、我々には観察することができないのです」

「――少々......まずいな」

 

 学園長は眉を顰め、杖を振るう。

 杖の先端がまばゆく輝き、光の中から1つの水晶玉が現れる。


「学園長、それは?」

「私の転写球だ。これであれば、どの試験場の様子も観察できる」


 そう言いつつ水晶玉を3班の扉へ向ける。

 水晶が紫色に輝き、内部に洞窟の情景が浮かび上がる。


 「――なんだと!?」


 学園長は思わず、椅子を蹴り上げ立ち上がり、叫ぶ。

 その尋常ではない様子に、教師陣は慌てて駆け寄る。

 

「学園長、何が――」

「緊急事態だ!第三迷宮の扉を開き、最下層に向かえ!現在、最下層では、龍種が受験生と交戦している!今すぐいかねば奴らは全滅するぞッ!」

 

 学園長は水晶玉を放り出して叫ぶ。その異様な気迫を察知した教師陣にも、緊張と動揺が走る。


「できるだけ早く駆け付け、受験生を救助したのち、龍を無力化せよ!」

「「「ッ――了解!」」」


 各迷宮の監督官を除いた、全教師が第三迷宮の扉の前に立つ。


「扉を開け――」


 その瞬間。 

 ――バチンッ!

 

「痛っ、ぐぅ.....う、腕が!?」

「おい、大丈夫か!?」

 

 扉に触れた教師の腕が、弾け飛び、血しぶきが上がる。

 続けて扉には無数の亀裂が走り、粉々に砕け散った。

 ある教員は驚きの余り立ち尽くし、またある教員は、思わず悲鳴を上げた。


「扉が......どうなっている!?」

 

 学園長は、慌てて扉の前まで駆け寄り、破壊された扉を目の当たりにする。

 深い皴を寄せながらも、扉に手を翳し目を瞑る、そして、こう告げた。


「龍圧だ。第三迷宮に現れた龍の影響で、扉は破壊された。」

「では、彼らの救出は......」

「私が直接、第三迷宮に直接赴く!お前たちもついてこい!」


 声を荒げ、学園長が踵を返そうとした矢先。

 突如として巨大な魔法陣が現れる。

 そして、魔法陣の中からは声が聞こえた。


「クソッ、――失敗した!」

 



 

 ――そして、現在。

 

「ん......」

「ノア!生きてて良かったぁ......」

 

 目に差し掛かる眩しい光を感じ、目を開ける。横たわる俺は、テレーゼにのぞき込まれていた。

 そのテレーゼといえば、俺が目覚めるや否や、目から大粒の涙を流している。


「お、落ち着け、俺は生きてるから......痛っ――」

「その体で動いちゃダメだよ!」


 慌てて体を起こすと、体に雷が落ちたような痛みに襲われてしまい、思わず声を上げる。

 言われてみればさっきまで龍種と戦ってたんだっけ――。


 そうだ、みんなは......?

 

 しかし、周囲にを見渡しても、龍や血生臭い洞窟の面影はない。むしろ、平和そのものかと言うほどの青い草原が広がっていた。

 ただ、それと同時に人の姿も見られなかった......

 

「一体、俺たちは......それに、みんなは?」

「みんなはもう目覚めて、周囲を探索してるよ。」

「俺が一番の寝坊助ってことか......っ!」


 立ち上がろうにも体が言うことを聞かない。


「クソッ、他の奴はもう現状を調べようとしてるってのに――」

「はぁ......あんた、自分がそんなに丈夫だと思ってたの?」


 上半身を起こした俺の後ろには、いつの間にかリーナが立っていた。

 左手に持っていた木の枝で俺の頭を叩きながら、ため息交じりに口を開く。


「でも、お前らは現に動いて――」

「あんたは最初から最後までずっと先陣を切って戦っていた。一番疲れていても当然なのが分からない?」

 

 俺が困惑している間に、言い返せないような正論を次々言い放つ。

 そして、そこまで話すと、俺の目の前にやってきて屈み、目線を合わせた。

 

「それに、あの加速魔術......肉体に負荷が無い方がおかしいわ。今だって、全身が痛いんじゃないかしら?」

「その通りだが......的確過ぎて怖い」

「これくらい剣士なら分かるものよ?」

「そ、そうなのか......」

 

 額に木の枝をぐりぐりと押し当てながら、俺の症状を言い当てる。

 剣士の基本だということに驚きながらも、話を聞いているうちに、痛みにも慣れてきた。

 

「あの時、俺一人じゃ龍には勝てなかった。一緒に戦ってくれてありがとう、リーナ」

「とっ、当然よ!聖炎の使い手は伊達じゃないんだから!」


 立ち上がりながらそう口にすると、リーナが頬を赤らめてそっぽを向く。

 不覚にもその表情にドキッとしてしまう。しかしその直後、唐突に後ろから肩を掴まれる。

 

「おや~?ノア君は僕が周囲を探索してる間に女の子を口説いているのかい?」

「のわぁぁぁっ!?あ、アデル......驚かすなよ」

「いやぁ失礼。何やら二人の間に新しい感情が芽生えたようで――ッ!?」


 いきなり現れ、何かを言いかけていたアデルが視界から消える。

 そして一拍遅れて木の枝が地面に落ちる。

 後ろでは、真っ赤にして息を荒げたリーナがいた。


「あんた、それ以上喋ったらぶつけるだけじゃ済まないわよ――」

「暴力反対!どうしてボクの周りにはこんなのしかいないんだ!」

 

 起き上がりながらアデルが悲痛な叫びをあげる。

 こいつら......あの戦いの後の癖になんでこうも元気なんだ?

 ――それはそうとして、他のみんなの姿が見えない。みんな探索に行ったってわけでもなさそうだが......


「なぁ、アデル。他の奴らはどこに行ったんだ?」

「――そろそろふざけるのはやめにして、現状の話をしようか」

「急に落ち着いてどうしたんだよ」


 いきなり声のトーンを落とすアデルを見て、一筋の汗が流れる。


「今、ここにいるのはボクたち4人だけだ。他の人がどうなったのかは、見当もつかない」

「どうして俺たちだけ?」

「あの銃の少女に願った結果、4人だけ、運に見放されたわけだ」

「運、か......龍と戦って生き残ったんだ。使い果たしててもおかしくないな」

 

 一先ず周囲に危険が無いだけ幸運だと思うべきか。

 まさか分断されるとは。俺は苦笑しながらアデルに言葉を返す。


「この場所がどこかも分からないのか?」

「あぁ。だが、憶測はある」

「憶測?」

「ボクたちは恐らく、第三迷宮の外――簡単に言えばあの迷宮本来の出口から脱出させられたと考えられる」

「そうなると......まずいわね」

 

 リーナの言う通りだ。確か、レストア魔術学園の試験に使われる10個にも及ぶ迷宮は場所が公開されていない。

 現在位置が分からない以上、むやみに移動するのは危険だ。


「――ふむ。おおむね正解だ。ここでもよく混乱せずに結論を導き出せたな」

「誰だッ!」

 

 俺たち4人の声ではない、低い声が響き、4人は慌てて振り向く。

 彼が現れた瞬間、風も音も時を止める。

 そこに響くのは、声の主の足音だけだ。

 

「1つ――間違いを上げるとすれば、学園の行動力を視野に入れていないことか?」

「な、なんで学園長がここに......!?」

 

 白と金のローブに包まれた男、学園長がこちらを見据えていた。

こんばんは、連休明けはしんどいですね。桜樹です。

5話にしてやっと茶番を言える状況になりました。

試験が終わるまで、あと少しお待ちください。


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