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第4話 VS 謎の龍(後編)

「あの、私でよければ、まだ――戦えます!」


 この声は、確か......

 声のする方を振り向くと、そこには例の青髪の少女が立っていた。


「君はさっきの氷魔法の子か!よく残ってくれた!」

「てっきり逃げたのかと思ってた......申し訳ない」

「えっと、ソフィアです。本当は逃げようとしたんですけど、あの人の波に気おされて、どうしようもなくて残っただけです......」


 ソフィア、と名乗る青髪の少女は、分が悪そうに苦笑いをする。だが、俺とアデルの表情は幾分か明るくなった。

 

「そ、そうか......何はともあれ助かる。あいつへの攻撃、行けるか?」

「できるだけ、やってみますね」


 しかし、ソフィアに杖を構えるように頼む俺を、アデルが制した。

 

「少し待て。恐らく普通に攻撃してもあいつは倒せない。魔力の無駄だ」

「もっともな意見だが、それ以外に何か方法があるのか?」

「まだない。だが、敵を知るには時間と観察が必要だ」

「――なるほど、アデルさんの言うことは分かりました。要は動きを停めればいい、?」

「う、む......その通りだ」


 アデルは台詞を取られて少し不服そうだ。それはともかく、策としては適切だろう。


「ソフィア、だったか?あいつの動きを止めることは可能か?」

「はい。恐らくは可能です――」

「可能なのか!?」

 

 俺が驚愕する中、ソフィアは頷き、一歩前へ出る。

「では頼む、ソフィア!」

「はい!悠久の時、絶えぬ鼓動と共に、永遠の城となれ――クリスタル・パレスっ!」


 アデルの掛け声で、ソフィアが詠唱を始めると、彼女の周囲が凍結していき、辺りに冷たい風が吹き荒れる。

 そしてその冷気は龍にまで届き、青白い結晶が表面を覆い始めた。足が凍り始めた龍は、氷を破ろうと腕を足に叩き付けるが、氷が砕けることはなかった。


「それは氷じゃありません。人、物、すべての時を止める結晶。故に相手を殺すことはできませんが、私の魔力が続く限り、封じ込めることはできます」

「ここにいるやつの固有魔術、凄いのしかないな......」

「あ、貴方のだって私を助けるのに役立ったじゃない!」

「そういうお前もでかい炎操ってるじゃん......」


 呆れていても仕方がない。いつ龍が動き出すかもわからない今、真っ先に対策を練らねば。


「ノア、あの龍の心臓、すでに切り裂かれてないか?」

「やっぱそうだよな。じゃあ、あの心臓の中の結晶は......なんだ?」


 アデルの指摘通り、龍の胸には、十字に切り裂かれた心臓が見える。

しかし、その中心に心臓とは思えない、赤黒い結晶体が埋め込まれていた。

 龍の肉体と似ても似つかないその結晶は、凍結された時間の中で、なおも悍ましい輝きを放ち、鼓動していた。

 

「止まった時の中で、どうして動いていられるんだ......?」


 俺が当たり前の疑問をつぶやくと、アデルが口を開く。

「いや、あれは明らかに龍の心臓じゃない。ソフィア、お前の魔術は指定した対象の時のみを止めるのか?」

「えぇ、ですから今、他の皆さんは凍結していない......ッ!」


 そこまで話した青髪の少女は、何かに気づき、声を荒げながら謝罪を始める。

 

「ごめんなさい!あの結晶は龍の物ではない、と思います。その場合......凍結はすぐに破られます!」

 

 そう叫んだ瞬間、龍の心臓に埋まった結晶体は鼓動を早め、凍結した龍の身体にヒビを入れていく。


 「クリスタル・パレスは、厳密には対象の周囲の時間を凍結させ、相手の動きを封じるものです。中に動くものがあれば、その周囲から綻びが生まれ、崩壊します――」

「ふむ、袋に封をしたものの、中に虫が入っていて、そこから袋を破られる、そんな感覚だろうか......」

「感覚的に言えばそうです!すみません、止めると言っておきながら......」

「でもこの時間で、あの龍の異常に気が付けたわ。上出来よ!」


 赤紙の少女がソフィアの頭を撫で、今にも動き出そうとする龍の前へと進み始める。

 

「要はあの結晶を破壊すればいいってことか。何も分からないよりずっといい!」

「火力はボクに任せるといい」


 俺もその後に続き、アデルはレイピアを構える。

 

「お役に立てたなら何よりです!凍結、破られます――、後は頼みます!」

 

 時の牢獄、その結晶が破られ、再び龍は絶叫する。まるで自身の復活を宣言するように。


「最終目的は定まった!赤髪とノア、二人は奴が防御できないよう引き付けてくれ!その間に、ボクの全身全霊をぶつけてやる!」 


 アデルが高らかに叫び、俺とリーナは駆け出す。


「案外人使いが荒いのね!やってあげるわよ!」

「相手は高貴な貴族サマだからな!遅れるな、えーと......」

「リーナ・フラウリアよ!あなたの名前は散々聞いたわ、あと少し、頑張りましょう、ノア!」

「了解、リーナ!――行くぞ!」

 

 龍は咆哮をあげながら、口元に魔力を集める。


「アデルの邪魔はさせない......!ストライクビット、展開!」

 

 制御機構をオミットし、加速してぶつけるためのビット。通常のビットよりも威力が高く、魔力の消費も抑えられる。


「――行け、ビット!」

「聖炎よ......穿て!ブレイズ・ファングッ!」

 

 周囲に展開した8つのビットすべてを龍の口めがけて加速させる。

 合わせてリーナも、龍の顔に向けて牙のように鋭い炎の刃を放つ。


 輝く炎の刃が龍の口を穿ち、口の仲と顔にビットの嵐が叩きつけ、爆発させる。

 龍は口から煙を吐き出しながら、顔をゆらゆらと揺らしている。

 

「やっぱブレスの最中は無防備か!」

「二人とも、よくやった!左右に避けろっ!」


 五つの精霊を召喚し、その虹の力をレイピアに集める。それはやがて刃の先に虹色の光球を生み出し、アデルはその球体を、龍めがけて解き放つ。


「――我が魂に宿し精霊よ、その全てを顕現し、眼下の敵を滅さん!彩色魔法・エレメント・バースト!」

「「行けっ!」」

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 思い思いに叫び、それに呼応してアデルもありったけの魔力を込める。虹の光は、龍の心臓に宿る結晶を徐々に砕き始める。


 そんな中、アデルは心の中で舌打ちをしていた。

(クソッ、こんな時に魔力切れ......もうすぐ破壊できるというのに!)

 

 既に結晶体には大量のヒビが入っていた。だが、同時にアデルの魔力、体力ともに限界が来ていたのだ。


「まずい、アデルの魔法の威力が弱まってるわ!」

「クソっ......リーナ!あと一撃くらい行けるだろ!」

「あんたも相当な無茶ぶりをするわね......まぁ、無茶してるのはあんた自身もか」


 仕方ないわね、と剣を構えるリーナ。

 俺もそれに頷き、剣を構える。

 ハッキリ言えば、二人の魔力は既に尽きている。今は生命力を魔力に変換して魔法を使っている状態だ。故に一歩も動けない。

 

「俺たちに近づく余力はない。ここからやるぞ」

「私もよ。無茶させてるんだから、合わせてよね――」

「善処する......魔力粒子、展開ッ!」

「聖炎よ、巻き上がれ......!」


 

 己の魂までもを削って魔力を吐き出す。だが、それほどの極限状況だからこそ、人生で一番、魔力制御が冴えている。

 今なら、ここからでも届く。

 

 剣を、龍の胸部へと向ける。

 ――魔力粒子、加速。



 炎の出し過ぎで体が熱い。でも、まだ耐えられるはず。私はこの炎に選ばれた人間だから。

 痛みが意識を繋いでくれる。体の血の巡りがよくわかる。

 今なら、ここからでも貫ける。


 剣を、龍の胸部を向くように固定する。

 ――聖炎よ、まだ燃えられるでしょう!


 二人の極限まで高めた魔力が、ぶつかり合ってプラズマを起こす。

 その目線は、龍の胸部へと真っすぐ向いていた。

 やがて、アデルの魔法が途切れ、再び龍が動き出そうとしたその時。

 二本の刃が、龍へと突き出される。

 

「――渦巻け......ビット・ストーム!」

「ぶち抜けっ!バーニング・レイ!」


 突き出された刃は、極限の粒子制御により発生した光の柱と、極限まで熱された聖なる炎の一閃。

 二人は極限の状況で、その場最善の必殺技を生み出す。


「「貫けえぇぇぇぇぇぇぇッ!」」


 結晶体を穿つ二本の光は、やがて1つとなり、青白い閃光へと変わる。

 一欠片、また一欠片と、アデルの入れたヒビを広げ、砕いていく。そして。

 パリィンッ――

 甲高い音と共に、結晶は砕け散り、光の刃は龍を貫く。

 結晶は断末魔の叫びをあげ、それに呼応するように龍も絶叫する。


「やった......」「これで、終わり――」


 全ての力を出し切った二人は、結晶の破壊を見届けると、人形のように崩れ落ちた。


「体......指の先まで動かねぇ」

「私、声を出すだけでも限界よ......」

 「全く、二人とも無茶をして......おっと――」

 

 それを後方で息を切らしているアデルも、よろめく体を何とか動かし、立ったまま龍の最後を見届けた。


「終わり、ですかね――」


 ソフィアもまた、限界だったようで、杖で体を支えながら、よろよろと座り込んだ。

 やがて命の限り絶叫した龍も動きを止め、その巨体を地に下ろした。


 「終わった。終わった、が......誰も脱出できる余力はないな......これでは全員不合格だ――」


 アデルが乾いた笑いと共に地面に座り込んだその時。


「――まだ諦めるには早いっすよ?まだ一人、何もしてないやつがいるでしょう?」


 そういえば、と俺は朦朧とする意識の中で思い返す。

 戦える人に共感覚で声をかけた時、一人だけ知らない人の声がした。

 結局最後まで姿を現さなかった、あいつか。


「あたしの固有魔法は願いの共鳴――つまるところ人の意思を集めて一つにすることっす」


 それだけで、何ができるんだ?


「って思うじゃないっすか。この能力、同じ意思がたくさん集まると、その意思、願いを具現化することがあるんす」

「最後の最後で運ゲーか......」


 消え入る意識の中、出てくるのは悪態だった。

 

「結果がどうであろうと、試す価値はあるだろう。なにせボクたちは討伐を完了させている。帰還さえできれば合格だ」

「了解っす。喋れる人は君だけみたいですし、総意にさせてもらうっすね」

 あたしも死にたくないんで、と言いながら、少女は銃を空に向けて構える。

 「さぁ、強く、強く願うっす。――共鳴開始(レゾナンス)。」


 あぁ、そうだな......これだけやったんだ。せめて、生きて帰って......。


 暫くして聞こえる、一発の銃声。俺の意識は、そこで途絶えた。

あとがきを忘れていました。

無事に龍を倒し、帰ることができるのか、、、

今後しばらく戦闘はないと思いますが、それでも着いて来てくださる方がいればうれしいです。


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ではまた、明日お会いしましょう。

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