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第3話 VS 謎の龍(前編)

 龍の形に変貌した魔獣。その存在の出現は、俺たちに死という恐怖をもたらした。


「うわぁぁぁぁ!僕はまだ死にたくない!」


 生き残った誰かがそう叫び、転移石を掲げる。

 しかし、その石は輝くことなく砕け散った。

 

 「な、なんで......なんでだよぉ!?」

 「――龍圧だ。一定以上の実力を持つ龍の前では、マジックアイテムは効果を失う」

 「そ、そんな......」

 

 情けなく声を絞り出した男に対して、アデルが静かに理由を告げる。

 男は真っ青になってその場にへたり込んだ。

 未だ血の匂いが漂うこの空間で絶望が深く浸透していく。

 

「......階段、階段だ!せめて上の階にに逃げれば!」

 

 誰かが発した、その言葉を皮切りに、多くの者は我先にと階段へと走り出した。

 まさに、この空間は混沌と化していた。

 

 師匠の言葉が頭をよぎる。

「いいか、ノア。戦場で最も危険なのは、混乱だ。指揮系統を失った人間ほど、脆いものはない。」

 ――せめて、自分自身だけは冷静でいなさい。


「クソッ、こんなところで死ねるか!」


 頭の中で、生き残る算段を立てては破棄していく。

 しかし、答えを見つける暇もなく、龍は無情に口を開き、魔力を貯め始める。


(一番生存が高い方法は......やはり戦うこと!)

 俺は決意を固め、アデルに声をかける。

 

「アデル、ブレスが来る!お前の最大火力をあれにぶつけろ!」

「なんという無茶を!?ええい、仕方ない!貴族の意地、舐めるなよ!」

「任せた、加速(アクセラレート)ッ!」


 アデルは俺の意図をすぐに理解したようで、すぐに魔力を集め始めた。

 それを確認し、俺は龍へと走り出す。

 

 共感感を通じて、生きている前衛を探す。


「誰か、いないか!一緒にこいつと戦える奴は!」

「......ギリギリ、生きては、います」

「――私も大丈夫よ。ちょっと気を失ってただけ」

「もう、暫くすれば......動けるよ」

 

 1人、また1人と、倒れていた前衛が起き上がる。

 それを見たテレーゼは前方に駆け出し、杖を掲げ、高らかに叫ぶ。


「ここは私が――全知全能の我が大母よ!この世界に、救済の光を!セイクリッド・エクスヒールッ!」


 掲げた杖は眩く輝き、その光は空へ登って太陽となる。

 その光は、そこに生きる人すべての傷を癒した。さらに、体の芯から熱くなるような感情と共に、体に力が入るようになった。


「私にできるのはここまで......ちゃんと、勝って、ね――」

 魔術の発動を見届けたテレーゼは、あとは任せた、と言わんばかりの笑顔で倒れこんだ。


「体が......軽い。これならまだ戦えます!」

「これは回復と強化の魔法......!これだけお膳立てしてもらったら、もう負けるわけには行かないわね!」

 

 起き上がった少年は拳を握り締め、龍を見据える。

 赤髪の少女も、立ち上がり、剣を構える。


「よし、アデルがブレスを相殺したのち、攻撃を仕掛ける!」

「はい!」「えぇ!」

 

「精霊よ、解き放て!――五精魔術・エーテライト!」


 龍からブレスが放たれ、俺たちめがけて一直線に迫りくる。

 対抗するように、五つの精霊、その魔力が1虹の光となり、龍へと向かう。

 

 龍と精霊。2つの力の奔流が激突する。耳を劈く轟音と共に、洞窟そのものが軋みを上げる。

 衝撃波が絶え間なく走り、空気が揺れる。

 

「ここで敗れるのなら貴族にあらず!はぁぁぁぁ!」

「今だ、龍のそばまで走れ!アデルが抑えている間に叩く!」


 俺達3人は、激しい揺れの中、龍に向かって走り出す。

 暫くして、アデルと龍の攻撃の均衡は破られ、爆風と眩い閃光が広がる。

 

「チッ、吹き飛ばされるなよ――!」

 

 爆風で吹き飛ばぬよう、俺は剣を地面に突き刺し屈む。

 しかし、その構えは悪手だった。爆発が収まり、龍の全貌が見えるようになったとき、こちらに向けて大きな手を振り下ろそうとする。

 (まずった、回避が間に合わない......ッ!)

 

「っ、いけない!――インパクト・ナックル!!」


 咄嗟に少年が一人前へと飛び出し、振り下ろされる龍の腕に攻撃を加える。

 

「ぐっ――あぁぁぁぁ!」

「何やってる、無茶だ!」


  龍による強力な一撃を一人で防ごうとした少年は、大きく後ろへと吹き飛ばされる。

 しかし、その決死の一撃により、龍には少しの隙が生まれた。

 

「っ......今だ、押し込むぞ!――加速(アクセラレート)!」

「聖炎よ......輝け!ホーリーブレイドッ!」


 アデルの魔法と少年の拳撃により、二人の刃が龍の胸へと届く。

 二人の渾身の攻撃を受け、龍は低く唸りながらも態勢を崩した。


「続けて攻撃を仕掛けるぞ!」

「ぐっ、拳が……」

「さっきは助かった。無理せず下がってろ!ビット、展開!」

「あとは私に任せなさい!聖炎よ――!」


 拳から血を流し、後方で屈み込む少年を激励し、俺と少女は再び龍に向かって駆け出す。

 俺は魔力の球を周囲に展開し、彼女は神々しくも、猛々しく燃え上がる剣を解放する。

 迫りくる小さき人間を捉え、洞窟を破壊する勢いで叫びながら翼で衝撃を起こす。


「っ、加速(アクセラレート)!」「聖炎、壁となれッ!」


 加速で強引に翼の下に潜り込み、後ろを見ると、神々しい炎で衝撃を相殺する少女の姿が目に映る。


「お前、どんなすごい魔術だよ!?」

「感心している場合じゃないでしょう!攻撃を緩めないで!」

「っ......おう!ビット!」


 少女は炎を操りながら叫ぶ。俺は展開したビットを3つ、龍の翼めがけて加速させる。

 同時に自身も加速させ、再び龍の胸に切りかかる。


「粒子展開――加速(アクセラレート)!ストームブレイド!」


 龍の右翼にビットが直撃し、爆発を起こす。そして怯んで無防備になった龍の胸に、粒子の渦巻く剣を叩きつける。

 魔力粒子の奔流は、加速され続け、徐々に龍の鱗を、そして皮膚を抉っていく。

 やがて、龍の胸からは僅かながら鮮血が噴き出し始めた。


「ここだ――ビット!」


 続けざまに、展開していた残りのビットを傷口に向けて撃ち出す。

 ビットの爆風を浴びながらも着地し、龍を見上げる。そこには胸から黒い煙を上げている龍が、未だ咆哮を上げていた。


「ノアのやつ、龍種に傷をつけたぞ――!」


 はるか後方でアデルの感嘆の声を上げている。

 ――しかし。

 

「クソッ......足りないっ!」


 肉を抉られた龍は、痛みに藻掻いている。しかし、倒れる気配は感じられない。

 俺では、力不足だった。

 これでは残った仲間たちさえ、アデルやテレーゼさえも、守り切れない――。

 

 「何をボーっとしてるの!一人でダメなら、私に合わせなさい!」

 

 龍の姿を見て俯く俺に、声がかかる。

 ハッとして上を向くと、そこには剣を構えた少女の姿。

 俺は慌てて飛び上がり、剣を構える。


「十字に一気に切り裂く。まだやれるでしょう?手伝いなさい!」

「ッ......了解!行くぞっ!」

「ストーム――ブレイド!」「聖炎よ、燃え上がれ――ブレイズ......カリバーンッ!」


 少女は剣に携えた莫大な熱量で龍を深く切り裂いていく。

 こいつ、凄い......俺だけ劣るわけにはいかない――。

 少女の威力に合わせ、剣に纏わせる粒子をさらに加速させる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


 二人の叫びと共に、龍の肉体は十字に引き裂かれ、龍は大きく仰け反る。そして、長く大きな叫びをあげた。

 全力の刃を放った二人は、龍の後方に着地。そして、技の反動から膝を付く。


「はぁ、はぁっ......やったか!?」

「いや――まだだ、二人とも避けろっ!」

 

 共感覚越しにアデルが叫ぶ。咄嗟に振り向くと、胸から大量の血を吹き出しながらも腕を振り上げる龍の姿があった。


「まずいっ――加速(アクセラレート)......!」


 鈍く大きな音とともに巨大な砂埃が巻き上がる。


 そんな砂煙を破って飛び出す1つの影があった。

 影は龍から大きく距離を取り、アデルの近くでようやく止まった。

 

「あっぶねぇ.......アデルの声が無かったら死んでたぞ!?」


 アデルの掛け声に合わせ、間一髪で攻撃を躱すことができた。

 今度こそ死んだかと思わされる、そんなタイミングだ......。

 

「そ、その.......そろそろ下ろしてもらえないかしら」

「――わぁお」

 

 その声でやっと、胸に抱いていた彼女の存在を思い出す。

 アデルが思わず変な声を上げるのも無理はない。

 ――そこにはお姫様抱っこされた少女がいたのだから。


「うわっ、ごめん、咄嗟だったから......」

「ま、まぁ助かったものね......ありがとう」


 龍の腕が振り下ろされた瞬間。俺は加速加速する直前、まだ攻撃に気づいてない彼女が目に入った。

 このままでは彼女が死ぬ、と思い、つい抱き上げて逃げてきてしまった。

 慌てて赤髪の彼女を下ろすと、アデルが腕を小突きながら小声で囁く。

 

「ノアってば、もしかして女の子に慣れてないのかい?」

「アデル、やっぱりこの場で殴ってやろうか!?」

「二人とも、まだあいつ生きてる!」


 少女の制止する声が聞こえた直後。

 背筋にゾクッと悪寒が走る。振り向くと同時に、後方から龍の絶叫が響きわたる。

 俺とアデル、そして彼女は再び武器を構える。

 

「クソッ、どんだけ丈夫なんだよ」

「いや、普通の龍種であれば死んでいるはずだ」


 ――やはり、あの出血量であれば普通死ぬはずだ。第一、胸を狙ったのは心臓が近いからだ。龍であっても頭、もしくは心臓が破壊されれば生き残ることはできない。

 砂埃をかき分けながら、龍こちらに進んでくる。


「正直、もうそんなに魔力に余裕はないぞ」

「同感。私も底をつきかけてるわ」

「――であれば残っている後衛部隊で何とかしたいところだな」


 とはいっても、後衛部隊はほとんどが階段に向けて走っていったはずだ。

 そういえば彼らは大丈夫だろうか?

 階段のほうに目線をやろうとすると、俺の視界を塞ぐように、アデルが前に立ちはだかった。


「アデル、階段の方のみんなを確認したいんだが」

「それはあとでいい。あいつらはどうせ役に立たないさ」

「なんだ?酷く冷た言い方して。逃げたことそんなに根に持ってるのか......?」


 アデルの妙な反応に困惑しながらも、無駄な時間は使えまいと共感覚を使って呼びかける。


「――だれか、生き残りの中でまだ魔力に余裕があるやつ、いるか?」

「一応動けますが......もう魔力はそんなに」

「あたしは動けるけど......あの龍に一撃入れられるほどの魔術じゃないんだよね」


 共感覚に反応したのは、拳を損傷した少年と、もう一人。

 そしてこの場にいる俺、赤紙の少女、アデル、気絶したテレーゼ。


「決定打が欠けてるな、一体どうしたものか......」

 

 頭を抱える中、もう一人、聞き覚えの声がする。

「あの、私でよければ、まだ、戦えます――!」

更新忘れてました。ごめんなさい

今日の21:10分に後編上がります

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