ベルリンに雨が降る
「馬鹿者!!」
寝床から飛び起きると、暗い部屋に俺一人。また出てきやがった、あのクソ親父。いつもそう叫んでは頬を張ってきた。痛え、と涙目で押さえてもすぐには収まらず、殴りかかったって勝てっこないのがすぐわかる。俺はいつもの上着を手に、夜の町に出た。
寝静まった町を、一人歩いていた。こんな日でないと、なかなかできることじゃない。親父は、評判が悪い。悪かった、と言った方がいいか。今でも後ろ指を指す連中が後を絶たず、俺を見れば皆、目を逸らす。くだらねえ、俺が生まれた時にはもう終わっていたというのに。そんなことを言ったって誰も俺を相手にしない。いつからか、引け目を感じていた。自分の生まれ育った町を、こんなにのんびり歩くのはいつ以来だろうか。
後ろから、物音がした。慌てて振り向くと、野良猫が一匹。目が合うとそいつも逃げていった。俺は、もしかすると……親父がいるとでも、思ったのかもしれない。ゆっくりと前を向き、わずかに胸が痛いのを感じて知らぬ間に押さえていた。空を見ると、雨。一粒二粒と落ちてきた雫が、俺の顔を濡らした。涙など流さない。そんなものは枯れている。だからこれは……ただの雨なのだと思う。