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未来の息子

作者: 雉白書屋

 とある夜。アパートの部屋に住む一人の男が眠りについた。すると……


「お父さん、ねえ、お父さん……」


「ん、んん……」


「ねえ、お父さんってば……」


「んん、お、お父さん……? 誰? え、おれが?」


「そうだよ。僕だよ」


「えっ、僕だよって言われても、どういうこと……」


「僕はお父さんの息子だよ」


「え、は? いや息子って、はははっ、おれは結婚してないし、そもそも彼女だっていたことも……できる気もしないし……」


「でも、結婚するんだよ。これから婚活に励んで、出会った女性と結婚して、それで僕が生まれるんだ」


「ははは、どうしてそんなことがわかるんだよ。そもそも、君はどうやっておれの部屋に、いや違うな。この空間はなんだ? ん? これって、もしかして夢か……?」


 彼は辺りを見回した。すると、薄ピンク色の靄がかった空間にいることに気づいた。


「そう、ここは夢の中だよ。夢を介して、未来からお父さんに話しかけているんだよ」


「おぉ、いや、そんなことができるのか……? でも、ここが夢の中であることは確かみたいだ。よし、とりあえず、君の話を信じるとして、そうかそうか、ははは。結婚はもう諦めていたのに、何がきっかけだったんだろうなぁ。いやぁ、おれに息子がなぁ……こんな、こんな……かわい、うん……」


「かわいくないでしょ」


「え、いやいや、そんなことはないよ。ははは……」


「お父さんに似てるからね」


「おぉ……まあ、おれは顔が良くないしな」


「頭もだよね」


「ああ、うん」


「僕のお母さんも顔と頭が良くないんだ。同じレベルとしか結婚できないのは、まあ自然なことだよね」


「あ、はい……それはその……ああ、それでどうしてお父さんの夢に来たんだ? 偶然か?」


「結婚して僕を作らないでほしい」


「釘を刺しに!?」


「そういうわけだから、じゃあね」


「いやいや、ちょっと待って! こういうのはさ、『未来で会おうね』とか『ちゃんと僕を生んでね』とか、そういう流れのやつじゃないの!?」


「この地上に不幸な子を増やしてはならない」


「神のお告げのような重みが……でも本気で言ってるのか? 君は生まれたくないの? どうして?」


「それは言わなくてもわかるでしょ。僕の口から言わせないでよ」


「ああ、いや、おれも子供時代、つらい思いばかりして、今もしているからわかる気もするけど……でも、そうなると、君の存在は消えてしまうんじゃないか?」


「いいんだ。もう決めたことだから。僕の意志は揺るがないよ」


「そう……まあ、君がいいならいいよ。さっきも言ったけど、おれはもともと結婚できる気がしなかったからね。仮にできたとしても、その相手が美人や性格の良い人のわけがないしさ。うん、おれは自分というものがよくわかっているんだよ。無理に頑張って、顔や性格がよくない人と結婚するくらいなら、一生独身でいいかなって思ってたんだ」


「わかってくれてありがとうございます、おじさん」


「もう他人行儀なんだね」


「それじゃあ、もう行くよ。さよなら……」


「……待って!」


「え?」


「やっぱり……うちに生まれてきなさい」


「はい?」


「そりゃね、人生につらいことはあるだろうさ。でもね、そのときにはお父さんが味方になるから」


「いや、いやいや、なんで急に父性が芽生えたんですか。そういうのはいいですから」


「口先だけって思ってるのかい? そんなことはないよ。ほら、パパとハグしよう」


「グイグイくるなぁ……。あの、本当に大丈夫ですからやめてください。たぶん、他の家庭に生まれてくることになると思いますし」


「そんな保証はないだろう。さっきも言ったように、おれにもわかるよ。子供に自分と同じようなつらい目に遭わせたくないという気持ちもある。でも、おれは君に生まれてきてほしいんだ」


「そんなの、親のエゴじゃないですか……」


「ああ、そうとも。でもね、今、消えようとしている子供を見過ごすなんてできない」


「それを、未来でも言えますか……?」


「ああ、言えるとも。言ってみせる」


「そう……まあ、これ以上言っても無駄みたいですから、もういいです。そろそろ夢から醒める時間ですし」


「ああ……ただ、最後にお願いしてもいいかな?」


「何ですか?」


「もう一度、お父さんって呼んでくれないかな」


「それは、未来にお預けだね……お父さん」


「ふ、ふふっ、はははははは!」


 翌朝。目を覚ました彼は涙をこぼした。しかし、その理由はわからない。夢の記憶は滲み、消えていく。ただ、彼は揺るがない一つの意志を胸に宿したのだった。


「よし……婚活始めるか!」







 ……と、その様子を遥か上空から見ていた者たちがいた。そう、宇宙船の中から。


「2250-5Dも乗り気になったみたいだな」

「だな。しかし、この星の独身者はひねくれ者が多いな」


「だが、意外と単純でもある。押しても駄目なら引いてみろ、というやつだ。これでうまくいっている」

「ああ、でも、地道な作業だ」


「だが、大事な任務だ。この装置を使って夢に干渉した彼のように、本来ならば淘汰されるはずだった劣った遺伝子の持ち主が世に広がってくれれば」

「この星の侵略も容易になると……。それが本当だとして、しかし……」


「なんだ?」

「やっぱり、地道な作業だなぁ」


「仕方ないさ。それが仕事というものだ」

「おれたちはこの星の人類よりかなり長寿だが……どうにも……」


「どうにも?」

「おれたち、左遷された気がするんだよなぁ……」

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