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僕の夢と曖昧な君へ、  作者: ロート


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4の体育祭(前編)

 教室の端の方の席でハチマキを巻いていると後ろから声をかけられる。


「湊!今日は頑張ろうね。絶対優勝するよ!」

「お前なんか今日随分とやる気に満ち溢れてるな。まあ。俺も手を抜く気はないけどさ」


 そう、今日は体育祭。高校の三大イベントの一つ。ちなみに他の二つは文化祭と修学旅行だ。


「湊、絶対に手を抜かないでよ。これは負けられない戦いなんだよ」

「だから手は抜かないって言ってるだろ。でもさ、俺障害物競走だからそんな勝敗にあまり関わらないと思うんだが──」


 糸瀬がジトーっとした目で見てくる。いや、睨んでくるというべきだろうか。


 俺一人が頑張った所で何も変わらんないのが団体戦と言うもの。だからといって好きな人の前でふざけるほど俺は落ちぶれた人間でもない。


「わかった。真面目にやるからその目をやめてくれ。精神的にくるから」

「なんで精神的にくるのかわからないけど……見てるからね」


 たく、コイツは何回釘を差せば気が済むんだ。まあ、そんな所も好きなんだが。


「ほら〜、全員校庭に向かえ〜。招集には間に合えよ」


 もうそんな時間か。間に合わなかったらやばいから早くいかないと。


「糸瀬〜、外に行くぞ〜」

「言われなくてもわかってるよ」


 自分の席に置いてある水筒を取りに行く糸瀬を視界の端に入れながら廊下にでる。


 別に糸瀬を待つ必要はないし、このまま行っても構わない。しかし、足が無意識に止まる。これが恋の病というやつなんだろうな。


「……ん?なに湊。待ってくれてたの?ニヒッ、ありがと」


 っ!コイツはなんでこんなにも可愛らしくなれるんだろうか。頭から離れなくなる。……最近思うんだ。俺はコイツに依存し始めてないだろうか?……んなこたないか。



 ───



「選手宣誓!僕たち私たちは、今日という日を、ただの行事として終わらせません。仲間と声を掛け合い、笑い合い、ときには悔しさを噛み締めながら、最後まで全力で駆け抜けます。勝ち負けにこだわるのではなく、支え合う心と本気でぶつかる気持ちを大切にします。この青空の下で流す汗と涙が、いつかきっと、かけがえのない思い出に変わることを信じて、全力で走り、全力で応援し、最高の体育祭を創りあげることをここに誓います!」


 日差しが鋭く肌をつついてくる中、応援団長が校長先生の前で手を上げながら声を張る。


 本当に暑い。うちの校長はだいぶ年季があるからな。動いてないのは宣誓を聞いてるからじゃなくて、暑さでポックリ逝っちまってるんじゃねえか。……流石に不謹慎か。反省しよう。


 宣誓が終わって自分の番が来るまで日陰で休んでいると遠くの方から誰かが走ってくる。


 あれは誰だろうか。……そういえば俺に話しかけてくるのなんて糸瀬以外にいませんでしたね。悲しいなぁ。


「み〜な〜とぉ〜、こんなところで休んでないで自分のクラスぐらい応援しなさいよ!真面目にやるって言ったのはどこの根暗野郎よ!」

「おっふ、ナチュラルに心刺してくるのやめません?結構痛いんです。ほら、俺の目から汗が出ちゃってる」


 まあ、本当に汗なんだけど。


「あんたがこれぐらいで泣くわけ無いでしょ。ほら、早く行くよ!さもなくば”こう”だからね!」


 片目をピクピク震わせながら右手で拳を形作る。


 ……俺としてはそちらでも全然構わな、ゴホン失敬。本音がケツを出してしまっていたようだ。まあ、コイツの頼みだ。行ってやらんこともない。


 糸瀬に左手を掴まれて走り出す。校庭の砂がジャリジャリと踏み荒らされる中、走っているクラスメイトが鮮明に見え始める。


 今俺は糸瀬と手を繋いでいるも同然。だがドキドキしていたりはしない。なぜならそんなのを焼いてしまうぐらいに日差しが痛いからだ。

 本当に痛い。明日の朝に目を覚ましたら俺きれいに脱皮をしているんじゃないだろうか。新種の爬虫類だな。


 マラソン選手が走っているトラックにいる生徒の群衆に入り込むとどこかのクラスの選手が二人で競り合いをしていた。


 あれはたしかうちの学年で一番早いって言われてるやつだな。名前は俺なんかが覚えているわけはない。まあ


群衆の影に隠れると、さっきまで刺すようだった日差しが少し和らいだ。太陽に焼かれながら糸瀬に引きずり回されるよりは、こっちのほうがまだマシだ。


 こんなふうに俺の青春は過ぎていくんだろうな。うん、寂しいねぇ。

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