3の思い出
雨の日の学校終わり。帰るためにバス停まで傘をさして歩きだそうとすると、腕を引っ張られる。
「糸瀬。今日は雨だから寄り道とか無理。早く帰らないと家に着くのが遅くなっちまうから」
「だあ~め。今日みたいな雨の日だからこそ寄り道をするべきなのである。お、今の言葉良くない?」
コイツは今の言葉のどこをどういいと思ったのだろうか。問いただそうと思ったがやめておこう。
「大体、傘をさしながらじゃろくに遊べないだろ。どこ行くかも決まってないくせに」
「それはが大丈夫!お店に入るわけじゃないから。昔遊んでた公園あるでしょ?あそこ行こうよ~」
肩をつかまれて揺さぶられる。雨で濡れているからか肩の肉もつかんできて正直痛い。
はあ、またコイツの我儘かよ。たく、面倒なんだけど……ん?昔遊んでた公園って家の近くだよな。ってことは一旦家に帰るってことだよな。ならまあいいか?
「まあ家の近く出しいいけど……お前バスに乗るだけの金は持ってるんだろうな。俺が負担するとか嫌だからな」
「君は私を何だと持ってるんだ。自分のバス代ぐらいあるよ」
なら別に俺にデメリットはないし、なんならコイツと二人きりで遊べると考えればメリットのほうがデカいかもしれないな。
そのまま、糸瀬に流されるようにバスに乗る。
バスの席に座るとふと思う。
コイツの中学生時代を知らないし、俺としてはコイツが俺以外とどこに行っていたのかが気になるが、そんな単刀直入に聞けないしな。いや、平気か。
「糸瀬。俺としてはお前が中学生時代に友達と遊んでいた場所に行きたいんだがダメか?」
「う〜ん。どうしようかな〜。そんなに私の中学時代が気になるの〜?……まあ、また今度ね」
おっと、これは触れてはいけないことだったか。それとも俺が嫌われたか。
───
家近くのバス停につくとバスが止まる。
「糸瀬。降りるぞ。荷物をまとめろ……ってお前よくこんな短時間でそこまで散らかせるな」
「だって久しぶりの湊との二人だけの時間だったからね〜。盛り上がちゃった」
俺相手だからってコイツよくこんな恥ずかしいことを堂々と言えるな。こういうところだけはまじで尊敬するわ。
公園で糸瀬がブランコに乗ると金属の支えがギィっと音を立てる。
「おい、このブランコ結構濡れてるぞ。制服を洗って次の日に乾くとでも思うのか?」
「流石に一日じゃ乾かないよ。あ、これ持って」
そう言い、さしてた傘を閉じて渡してくる。
おいおい、コイツまじか。雨を浴びながらブランコ漕ぎ始めたぞ。
「お前、まじか。明日の制服はどうすんだ。家帰ったら──ってお前これ着ろ」
湊は少し顔をそらして、自分のブレザーを糸瀬の肩に掛けた。
雨に濡れた制服から透けたシャツ。その下にあるものに、意識がいかないふりをした。
コイツ、雨で濡れて制服を透けてんじゃんか。羞恥心とやらはコイツにはマジでないのかよ。
「なんか……懐かしいね。湊とここに来たのってたしか四年ぶりじゃない?遊具もすっかり老化しちゃって、サビが目立つね」
「そうだな。その割にはお前ためらいなくサビを触るよな。まあ、雨で流れるか。それにこういう場所は特に整備の手が届きにくいからな」
そっか、もうこの公園が懐かしい思い出の一つになりつつあるんだ。もし高校で糸瀬と出会えてなければ、俺の中で思い出になって美化されていたのかもしれない。だが、思い出にはならなかった。それだけで俺は十分なのかもしれない。