1の幼馴染
「……なと ……ね湊」
?何か聞こえる。
「おい!銅湊! お前、俺の授業で寝るとはいい度胸だな。褒めてやる」
!まずい、いつの間にか寝てたか。
「さ、真田先生、その、えっと、あはは、すみません……」
「今回は許そう。 次はないからな」
「あ、あははは……」
はぁ、早速学校での俺の立場が消されるところだった。
視線を感じたため、ふと右側を見ると……幼馴染の糸瀬加奈が、ニヤリと笑いながら見てくる。
クソ、あいつ面白がってやがる。
それにしても、今が数字で助かった。
国語の先生は色々とやばいからな。
ふぅ、問題解くか。
ーー
授業の終わりのチャイムが鳴り、皆が席について帰りのホームルームが始まる。
ホームルームの間やることがなくて困るんだよなぁ。
そんなことを考えていると、スマホの着信音が鳴る。
スマホを、見ると糸瀬からのメッセージだった。
『今日さ、一緒に帰らない?』
不覚にもドキッとしてしまった。
なにせ、中学校が違ったため約三年間会うことのなかった、俺の初恋の相手だ。
返信はどうするかなんて決まっている。
『なんか、お前らしくないな。まあ、いいけど』
よし、これであいつの家に行く理由を作ることには成功したな。
ーー
ホームルームが終わって校門に急ぐ。
靴に履き替えて校門を見ると……俺の自転車を我が物顔で乗っている糸瀬を見つける。
「おい、それ俺のチャリ。つかどうやって鍵外した」
「湊のカバンからスペアキーを掏った!」
自慢げに話しながら自転車にささった俺のスペアキーを指さす。
はぁ、いつの間に取られたのだろう。そんなことを考えているとふと思う。どうにも朝からふわふわとする感覚が抜けない。糸瀬の声も曖昧に聞こえる。まるで夢の一部だ。
「……どうしたの?なんか今日の湊変だよ?」
しまった。顔に出ていたか。
「そ、そうか?特に変わらないと思うが。つか、お前普通に犯罪を犯すな……帰るぞ」
そのまま糸瀬が俺の自転車に乗り、俺が横を歩いている。……あれ、なんで?
「ねぇ、湊、ちょっと寄り道しない?」
学校を出てから大体十分ほど歩いた所で糸瀬が止まりそう言う。
指の先を見るとカフェがあった。……いかにも陽キャが行きそうなところだ。まぁいいか。
糸瀬の話に賛成して店内に入る。
「じゃあ湊、私ワッフルとドーナツとカフェオレね」
はぁ、俺は使い走りじゃないんだけどな。しかも金は俺が払えってか、あいつめ。……払っちゃうけど。
「そういえば湊、今日睡眠学習してたね」
糸瀬が口を抑えながらクスクスと笑う。
「仕方ないだろ。睡眠は生理現象だ。抗おうと思って何とかなるものじゃない」
「いやいや、ちゃんと夜に寝ていれば日中に眠くなることなんてありません。昨日は何時に寝たの?」
「……二時頃に布団に入った」
「夜ふかしはだめだぞ。あたしが寝かしつけに行ってやろうか」
そういえば糸瀬はもとからこんなやつだった。人の家に許可もなく上がり勝手に泊まっていく。
まあ、好きな人が毎日起こしに来てくれるのもそれはそれでいいが。
ーーー
スイーツを食べ終えると糸瀬は自転車を俺に渡し手を振って走り去っていく。
本当、騒がしくて自分勝手なやつだ。まあ、そんなところに俺は惹かれたんだが。
……そういえばあいつ、帰っちゃった。家に寄れると思ったんだけどな。
は!何だこのキモい思考は。こんなのバレたら俺終わるな。俺も早く帰って勉強しないと授業に追いつけなくなる。ただでさえ寝てしまっているんだから。
提出物は出しているがそれでもテストの点数が悪いと留年しかねない。そしたら、糸瀬と離れる。嫌だ。それだけは嫌だ。
少し焦りながら自転車を漕いでいった。