湯上がり刑事の推理ファイル 〜美少女連続誘拐殺人未遂事件〜
俺の名前は温水 泉太郎、職業は刑事。
──ひと呼んで「湯上がり刑事」。
どうしてそんな風に呼ばれているかって? それは俺の、異能とも呼べる特殊な体質が理由だった。
湯上がりにコーヒー牛乳を一気飲みすることで脳細胞が異常活性化し、あらゆる事件を一発で解決に導くことができるのだ。
そんな俺の姿はいま、夜の倉庫街の一角にあり、ひとりの屈強な男と対峙していた。
「見つけだぞ、連続誘拐殺人未遂犯、頃嶋 久留人ッ! きさまの悪行もここまでだ!」
「バっバカな、どうしてっ!?」
「ふっ、この湯上がり刑事、どんな死角の拭き残しだろうと最後の一滴まで見逃さないのさ──!」
決まった。そして俺は、逆上してナイフを振りかざしむかってくる犯人の足元に、抱えた洗面器から取り出した石鹸をアンダースローで投擲する。
「えっ……うおっ!? ぎゃふん」
地面すれすれを一直線に飛んだ石鹸は、狙い通り犯人の踏み出した足の真下にすべりこむ!
まんまと転倒した彼は地面に後頭部を思い切りぶつけて、気を失っていた。
「さあ、誘拐されていた少女たち! もう安心だよ!」
犯人の懐から見つけた鍵で、近くの倉庫の扉を解放する。中から現れた数人の美少女たちは、俺の顔を見て安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございま……キャアアアア!?」
そして悲鳴を上げると、俺の両脇を走り抜けて一目散に逃げていった。
──おおっといけない、そうだった。
なにせ一刻を争う状況だったから、湯上がりに犯人の潜伏場所を閃いた俺は全裸で銭湯を飛び出し、スクーターに颯爽とまたがってここに駆けつけたのだ。
サイレンの音がすぐそこまで近付いてくる。応援にしては、早すぎるような……?
数分後。
パトカーの後部座席には、犯人と仲良く並んで署に連行される俺の姿があった……。
──だが、それでいい。
少女たちは救われ、俺は彼女たちの恥じらいと軽蔑の眼差しを、全身に浴びることができたのだから。
(完)