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第7話 ランクアップ(上)

「あの、俺こんなものいただいてよかったんですか?――」


 行きと同じ馬車の中、手の中にあるずっしりした重さのある革でできた巾着袋を見ながら俺は目の前に座るギルマスにそう尋ねた。


「ええ、大丈夫よ? それだけの事を雄太クンはやってのけたんだから――というか実質はエアリア()なんだけど契約しているのは雄太クンなんだからもらっていいのよ」


 とにっこり笑顔でそう言うギルマス。なんか鼻歌なんか歌いだしそうなそんなにこやかな笑顔だ。



 ――なぜこうなったのか、それは数時間前に遡ることになる。


 地下の裁判所において、俺がグレイソン、レナード、シャーロットの3人に攻撃を受けたとき、エアリアがその力を発揮して3人を霧散させた一件について、すごく詳細に状況説明がなされた。どこから情報を得たのか――ってそういやランスさんが状況伝えたって言ってたっけ――


 で、そこで知らされた事実として、グレイソン、レナード、シャーロットの3人は冒険者ギルドどころか、クエルカリーナの所謂地方自治体政府内でもグレイソン達3人の悪行に関する証拠を集めようとしていたようで。そしてグレイソン達の悪行報告について、報奨金を出すことを秘密裏に通達していたらしい。これに関してはギルマスも知っていたらしいのだが、ぶっちゃけ報奨金に関する話はギルマスで止めていたようで。

 そして、今回俺が、というかエアリアがグレイソン達3人を存在から無にしたことで、グレイソン達による被害がなくなったことから、情報提供者でもあるランスさんたちのパーティ黒衣の霧煙にも報奨金が出ることが決定し、そしてグレイソン達による弊害を事実上なくした俺については、情報提供報奨金金貨10枚と討伐報奨金100枚の併せて金貨110枚を俺が授与することになったのであった。金貨1枚を日本円に換算すると約1億円であることから、情報提供報奨金と討伐報奨金で115億円を得ることになったのであった。

 報奨金だけでもかなりでかいことだったのだが、今回の件で、俺はFランクからグレイソン達のランクだったDランクに二階級特進となったのである。

 このランクアップの話を聞いた俺は、思わず大きな声をあげてしまったのだった。


 さらにこの件でグレイソンによる無秩序がなくなったことで多少なりとも街の秩序が回復したこともあって、ランドル子爵の地位も上がったらしい。そのため、ギルマスの子爵から入る定期報酬自体もかなり上がったそうである。

 なので、ギルマスも懐がホクホクになり、鼻歌なんぞ歌いだしそうなほどににこやかになっているわけなのだ。


「まあ、グレイソン達を倒したのはエアリア様であったとしてもそのエアリア様と契約しているのが雄太クンであること、そしてこの町で数十年ぶりに現れた精霊との契約者であることも踏まえるとね、DランクどころかBランクへの昇格でもいいと子爵は仰っていたのだけどね、さすがにそれではという意見も出て、Dランク昇格ということになったのよ。それでも雄太クンの状況から考えると驚異的な昇格スピードなのよね」


 と「ウフフフ……」と右手を口に当てながら愉快そうに笑うギルマス。


 しかし、Dランクか――実力も備わっていないとだめだよな。これからが大変だろうなと思う。あと、エアリアにあの力を使わせないようにしなきゃ。そのためには俺自身が強くならなきゃ駄目だよね。




 ギルドについた後、俺はギルマスとギルマスの部屋へ。

 ギルマスの勧めで上手に座らされると、エアリアを召喚するように言われたので、エアリアを人間サイズで召喚した。


「雄太、ランクアップおめでとー!」


 と召喚したとたんに俺に抱き着いてきたエアリアは頭を撫でまわしながら自身の頬を俺の頬にくっつけて上下にぐりぐりと。しかもすごい密着しているせいで、エアリアの俺的にちょうどいいサイズの二つの丘が腕やら胸ならに押し付けられるので、男としてはうれしいけれども恥ずかしい、けど男としての煩悩が――


「エアリア様にそんなにくっつかれていいわね。 ところで雄太クン、鼻の下伸びてるわよ?」

「え?――」

 

 俺は空いている手で鼻と口をサッと隠した――

 ギルマスがジト目で俺をにらんでいる――なんかやばそうな――そんな予感が、したのだけれども――


「そんな雄太クンにはこの依頼を受けてもらうわよ?」


 と、ギルマスが顔をニヤリとさせながら一枚の魔物討伐依頼書を出してきた。

 俺はいつまでもくっついているエアリアを引きはがしてその依頼書を見る。

 押しやったエアリアが不服そうに文句を言ってくるのだが、無視無視!


 依頼書をよく見ると、そこには「セルクス5頭討伐、期間4日間」と書かれてあった。


「マ、マジですか?――」


 と俺がギルマスに多すねると、


「マジです。大マジ――クソマジ――ううん、それ以上のマジです!」


 やっぱそうなのかあ――

 何というか、誰かに助け船を出してほしくてエアリアを見る。

 エアリアは「雄太なら朝飯前だよ」と左手を腰に当て、ニカッと白い歯を見せた笑顔でサムズアップした右手を俺に突き出してくる。

 いや、これたぶんエアリアは楽しんでるに違いない――きっと――いや確実だな――


 と、俺が大きくため息をついていると、セリーナさんが紅茶とお茶うけに洋菓子のマドレーヌのような焼き菓子を持ってきた。

 セリーヌさんが焼き菓子を乗せた大きめの皿をテーブルに置くや否や、エアリアが両手に一つずつ持って右手に持ったものから口に運ぶ。


「エアリア――」


 さすがに失礼すぎるだろと思った俺がエアリアをジト目で見ると、エアリアはしゅんとして左手に持ったまだ口をつけていない方のお菓子を皿に返そうとするので、


「一度取ったものを返さない」


 俺が注意すると、齧り跡のついた右手のお菓子とまだ口をつけていない左手のお菓子を交互に見て困った顔をするので、「一つ俺がもらうよ」と俺が手を出すと、エアリアはにっこりと笑って齧り跡のついた右手のお菓子を俺によこした。


「齧った方かよ――まあいいか――」


 と、俺は何も考えずにエアリアの齧り跡のついた約半分の大きさになっているお菓子を口の中に入れた。

 マドレーヌに似たというか、食べた感じでいえばマドレーヌそっくりのお菓子だった。


「おいしいですね――」


 口の中に残ったお菓子を紅茶で流し飲んで、お菓子の感想を言うと、なぜかギルマスがハンカチの端を噛んで目をウルウルさせていた。


「えと――ギルマス?――」

「関節キッス――」


 とボソッとつぶやくギルマス――

 つか、間接キスって――


「あ!」

「う゛ーー!」

「いや――あの――ギルマス?――」


 俺が声をかけるも、ハンカチの端を噛んだまま涙目で俺をジト目で見てくるギルマス。


「あの――もしもし?――」

「う゛ーー!」


 俺は皿から一つお菓子を取ってエアリアに渡すと、ちょこっと齧ったものをギルマスに渡してもらうことにした。

 エアリアは当初キョトンとしていたけれども、俺とギルマスを交互にみて合点がいったのか、「わかった」とお菓子の4分の1を齧ると、「はいレイナ」と齧り跡のついたお菓子をギルマスに渡した。


「エ、エアリア様!――」


 ギルマスはエアリアから齧り跡のついたお菓子を両手で恭しく受け取った。

 そして受け取ったお菓子を胸に抱くと頬を朱に染めながらエアリアを見るギルマス――


 ――面倒臭い人だなあ――


 そう思いつつも「よかったですね」とギルマスに声をかけた。


「エアリア様からお菓子貰っちゃったー! ほら見てみてー! このエアリア様の齧り跡――私、今日このお菓子と一緒に寝るんだ!」


 お菓子を両手で恭しく持ち上げながらそう言うギルマス。しかもなぜかエアリアの齧り跡のついたお菓子が後光なんぞ纏っている始末。


 ――いや、やめておいた方がいいと思うよ――




  ☆☆☆  ☆☆☆




 アチラの世界へ行ったギルマスが戻ってきた後、ニコニコ顔のギルマスに見送られる形でギルマスの部屋を出た俺たちは、セリーナさんの紹介でセルクス討伐に向けて防具屋やと武器屋をめぐり準備を整えた。


「服も買えたいんだよなあ――」


 とボソッと呟いた俺に、セリーヌさんが俺たちを洋服屋に連れて行った。いや本当にただ連れて行っただけで緑色の髪を前髪は眉毛の下で切りそろえ、後ろはまっすぐなロングヘアを首の後ろ辺りで髪の色と同じ緑色の髪留めでひとまとめに止め、白いサマーセーターに青っぽいウール製のスカートを履いた店主のエリナ・ハートフィールドさんという人間の女性店主に「じゃ後は任せた!」と帰って行ってしまった。

 とにかく、汚れない、破れない、破れてもすぐに修復されてしまうというチート性能をもつこの紺色のスーツ1着というわけにもいかないしせめてそろそろ洗濯もしたい――


 ――あ、これ洗えるスーツだったっけ?――


 いくつかの服を持って試着室に行くと、スーツを脱いでタグを見ると、洗濯してもOKのようだ。そしてタグを見て思い出したことがある。


 ――このスーツ、ウォッシャブルスーツだったっけ――


 洗濯できることが分かったことだし、服を決めよう。

 あれこれと服を試してみていると、


「雄太にはこっちが似合うよ」


 と、エアリアが店主のと選んだという綿の白いシャツ、ウール製の茶色い生地のズボン、同じくウール製のグレーのローブを持ってきた。

 まあ、俺自身そこまでファッションに明るいわけじゃないから、こういう時には誰かにコーディネートしてもらう方が楽だ。

 エアリアから受け取ったシャツとズボンに着替えて、試着室を出てみたところ、店主のエリナさんが


「うん、見立て通りね! 私はこの道のプロだと自負してるけど、エアリアちゃんもなかなかのセンスしてるわ!」


 着替えた俺の姿を見て納得顔のエリナさん。

 初めて入った店なんだけど雰囲気が軽くて良い。女性ものが多いのはどこの世界でも同じようだけども、ちゃんとメンズ用も取り扱っていて、さながら異世界版ユニ〇ロといったような感じかな。そこまでごちゃごちゃしていないのにちゃんと必要なものは取り揃えてあるんだよね。

 といっても俺はユニ〇ロ以外はスーツもブルーマウンテンなところしか行ったことないからほかのところはよくわからないというのが本音。それだけに今日はエアリアとエリナさんにほんと助けられた。


 とりあえず、これでいつまでもスーツ姿ではなく動きやすい冒険者な服装と装備になった。着心地はさほど悪くはない。チクチクもしないしそんなに破れそうな気もしない。まあこの世界の洋服なんて初めてだからまだ何とも言えないけど、でも一応それなりに大事にしたいかな。


 というわけで――


「じゃあ、狩りに行くかあ!」

「オオー!」


 俺の呼びかけにノリ良く答えてくるエアリア。

 その勢いのまま結構な速足で門に到着した。


「お、雄太、服変えたんだな?」


 よく薬草回収やスライムやゴブリン狩り等で何かと助言をもらっていた衛士のレオナルド・アーンハートさんに服を変えたことを気づいてもらってちょっと照れ臭かったけど、「あの服も雄太らしくて良かったけど、こっちはこっちで冒険者らしくていいじゃないか」なんていわれると、変えてよかったなとも思う。


「けどさ、雄太の前の服、大丈夫だったのか?――」


 と、突然レオナルドさんが言ってきたので何のことかと思ってたら、右腕に刺さったところとか、爪でえぐられた左肩のことだった。


 あれなあ――


 えぐられたりした後って上着にはなんの後もなくなってたんだよね。エアリアに聞いてみたところ異世界に来たことでスーツもワイシャツもネクタイも靴もそうだけど靴下でさえ自動修復機能があるらしく、しかもよほどのことがない限り破れないという――いやシャーロットの爪やレナードの矢は刺さったんだけどね――

 まあ今日買った服は普通に敗れるんだろうから注意しておかないとな――



 門を出た俺とエアリアは門を出てすぐに東側の道に入って門が見えなくなってからエアリアに車を出してもらって車に乗ってセルクスを退治するために東の森に車を走らせる。相変わらず振動も来なければタイヤが巻き上げる砂の量も半端なく少ない。

 エアリアはというと、ちっちゃい体になってメーターコンソールにちょこんと腰かけている。

 なぜちっちゃい体になっているのかというと――


「こっちの方が色々わかるからいいんだよ」


 ということのようで――

 まあ話するときでもエアリアがほぼ目の前にいるので、俺も俺でぶっちゃけ()()なんだよね。


 運転を開始してから約20分、目の前に木々が覆い茂る森が見えてきた。


「あれが東の森だよな?」

「そうだよ。どうする?」


 俺が森があっているか確認したところ、行先は正解のようなのだが、しかし「どうする?」とはどういうことかを聞いてみると、


「あの森、たぶんこの車でも中に入れるよ?」

「そうなのか?」

「うん、ちょっと待ってね――」


 エアリアはそう言うと胸の前で手を組んで目を閉じると、エアリアの体がぽわーっと緑色に光った。

 最初これをやられたときにはびっくり仰天してしまった俺だが、さすがにもう慣れたというか――エアリアにこういう現象が起きるときには何かしら魔法を使っているときだったりする。

 しばらくしてエアリアの体の光が消えていき元のエアリアの状態になると、


「人の気配はないからこの車で突っ込んでも大丈夫だよ。あと、この森の中央部には開けたところがあってね、そこにセルクスが5頭いるよ」


 といってにっこり笑うエアリア。

 どうやら探査系の魔法を使っていたらしいのだが、さすがというかなんというか――


「そんなことまでわかるんだな――」

「そのうち雄太も使えるようになるよ。今はちょっと力が足りないだけだからね」

「使えるようになるのか?」

「うん! だって前にも言ったと思うけど雄太の魔力はこの世界の人間の約100倍あるからね。エルフよりも多い魔力なんだよ?」

「マジか……」

「大マジ! 雄太の魔力に近いとすれば竜人族だと思うよ?」

「竜人族?」

「ドラゴニュートともいうんだけど、(ドラゴン)と人間の混血、かな。昔、竜と人間が交配したことがあるんだよ。その子孫が竜人族(ドラゴニュート)だよ」

「へえー」


 さすがというかなんというか、でもエアリアよりも知識や力を持ってるのがエアリアの母親なんだそうだ。精霊の母親――つまりエアリア、風の精霊のトップ、風の大精霊ってことになるらしい。その風の大精霊ってのに俺はこの世界に来るときに会ってるらしいんだが、そんなの記憶にすらないんだよな。だって、トンネルを抜けたらこの世界だったんだし――


 エアリアと話していると本当に時間が早い。何と言ってもこの世界の常識とかそういったものは俺は持ち合わせていないのだからそういうのをエアリアに教えてもらいながらだから、この世界の理に驚いたり呆れたり――そんな感じで車を進めていると、森の入り口に到着した。

 森の入り口は、というか普通に未舗装の道路があった。どうやらこの森は普通は荷馬車とかも走る道路。そこにセルクスという魔物が住み着いてしまったからその討伐依頼が出ているというわけなのだ。


「なあエアリア――」

「なに?」

「この森の中央にある開けたところにセルクスが5頭いるんだよな?――」

「そうだね――それがどうかしたの?」

「いや、今回の依頼ってさ、セルクス5頭だったじゃんか――」

「あ、そうだったね!」

「ってことは――」

「あっという間に終わるね!」

「いや、そうじゃなくて――」

「大丈夫だよ! この車で体当たりすればいいだけなんだから楽勝楽勝!」


 とエアリアがメーターコンソールに腰かけたまま右手で力こぶを作りながら左手で上腕部の肉を押し上げてより大きな力こぶを作っている。可愛いといえば可愛いんだが――まあいいか――


「まあ車傷つかないんだったら――行くか!」

「結界なら任せて!」

「任せた!」

「はいはーい!」


 と、いうことで俺は森の中へと車を走らせた。

 森の中の道路はまっすぐではないにしても車で走れないほどに曲がりくねってはいなかったので、楽に運転できている。


 途中、ゴブリンと鉢合わせしたけども「そのまま行っちゃえ!」というエアリアに従いゴブリン10匹を轢き逃げしていく。まあ、前にゴブリン退治したときにも車で跳ね飛ばしただけでよかったし、魔物が体内に持っている「魔石」もエアリアの魔法のおかげで車内に送り込まれてくる、しかも車内は汚れもしないという親切設計。

 そして今回もゴブリン10匹分の魔石が後部座席足元にカラカラと音を立てて取り込まれてくる。この親切設計にはぶっちゃけ笑うしかない。



最後まで読んでいただいてありがとうございます。


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