1/2
正直者は馬鹿を見るか
いつだって、正直者は馬鹿を見てきた。
ずる賢く生きる人間は、臆病な正直者を横目に時に大胆に行動し、利を得る。
きっと、この先もそれは変わらないだろう。
四月の人事異動で、職場にやってきた上司は専らエリートとの噂だ。
確かに見た目からして、黒縁メガネに涼し気な目元、マスクをしているから分からないが、おそらくその下にはシュッとした顔という、細顔のいい男が隠れているに違いなかった。
しかも、自分より2,3も年下だから少し居心地が悪い。
年下の上司というのは、接し方が難しい。過去の経験からもそんな風に感じていた。
コロナの厄災が小康状態担ったといっても、世間の人がマスクを手放すことはなかった。
大多数の職場の人は今もマスク姿だ。
時折、定年間近のおじさんたちがマスクを外している姿を見かけるが、基本皆マスクを外すことはない。この職場に異動してきて3年が経つが、余程親しい間柄じゃない限り、昼食を一緒に取るとかしない限りはマスクの下を晒すということはなく、この30人程度の職場でも完璧な素顔を白日の下に見たことのあるのは数名程度でしかなかった。