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平凡冒険者のスローライフ  作者: 上田なごむ
2-4 平凡の非凡
97/190

82話 要


「ええ、おっしゃる通りです。それと、こちらが今回の明細です」

 売り上げの詳細を記した羊皮紙を手渡す。


「……ふむ。想像以上──いや、始めなのだからこんなものか。物珍しさもあるだろうしな」

 リーゼスが書類に目を通し、肯定的な意見を返してくれる。


「はい、有り難いです。よい宣伝にもなりましたので、ダナさんも喜んでいました」 「ホホーホ(ナカマ)」


「──はいはい! うちもよろしいでしょうか!」


「マリン君だったね。その前に、ハーベイからはるばる感謝するよ」


「いえいえ。サウドはええ街ですね~。治安ええし、みんな明るい雰囲気やし。とてもアンション最果ての辺境都市とは思えへんわぁ」


「お褒め頂き感謝するよ。これも偏に住人達の頑張りのおかげだ──っと、君の話を聞く前に、先にこちらの少々強引な頼みになってしまうのだが、いいかな?」


「なんです?」


「サンマンマを三十匹程、優先して都合願えないかな。もちろん上乗せして支払う用意はある」


「構いませんけど、三十匹もどうしはるんですか?」


子供達(孤児院)に、ね。サウドでは新鮮な物を口に出来る機会はそう多くないのでね」


「なるほど~! 噂に違わん、よ~出来たお人やなぁ」


「素直に受け取っておくよ」


 一度目の訓練日程を終え、統治官リーゼスを訪ねている。

 

 中央広場で露店を開く際には、ギルドで申請し、許可をもらうだけで出店自体は簡易に出来る。

 マリンも同席しているのは、実家の商店の支店を、サウドに創設する計画のお伺いを立てる為だ。


 当然応援したい気持ちはあるが、無暗に肩入れなどしない。

 公明正大であるリーゼス相手にそんな事をしても逆効果だと、俺もマリンも理解しているからだ。


「それで、うちはハーベイで……」

 交渉へと入るマリン。


 この三日間に露店で売り上げた金額は銀貨百枚程と、予想に反し大盛況だった。

 もちろん限定品の効果もあるだろうが『冒険者達の仕事場の出入り口を押さえた、作戦勝ち』とマリンも言っていたし、戦略としては概ね間違いは無かったのだと思う。

 

 商税──売り上げの十パーセントが営業後に徴収される──の銀貨十枚、パンとかき氷の仕入れ値銀貨四十枚を除き、利益は銀貨五十枚。

 俺が遂行出来るクエストの基本報酬三日分と、ほぼ同額の儲けとなった。

 さらに討伐した魔物達の買取代金を合わせれば、銀貨百五十枚相当と、穴埋めに行ったにしては十分すぎる金額だ。


 金銭に目を向ければ、やはり冒険者には夢がある。

 魔物から得られる様々な素材は、食料、生活用品、薬、武具等、重宝され纏まったお金になる。

 マリンを救出するべく討伐したディープクロウなどは、近頃羽根の供給不足だったらしく、色を付けてもらい全身で銀貨六十枚と、一匹だけで相当なものだ。

 ロングに差し入れるお金にも余裕が生まれ、一度目の訓練は成功だと評していいだろう。


 その反面懸念事項──反省点もある。

 特に、マリンを危険な目に合わせてしまった事だ。


 ディープクロウの事を頭に入れていながら、警戒を怠り、マリンが囚われの身となってしまったのは、時に一般人を保護する役回りも担う冒険者──俺にとって大失態だ。

 今回は運良く救出することが出来たが、一歩間違えれば、彼女は今頃空の彼方に消えてしまっていた事だろう。

 曲がりなりにも冒険者を生業としている分、俺の中に微かに宿る冒険心や探求心が、自ら定めた行動規範から逸脱させてしまったのかもしれない。

 


「というわけで、相乗り──共同経営なんてどうやろか?」


「ふむ……ヤマト君はどうかね。ダナ婦人の話もそうだが、婚約者としての君の意見は?」


「い、いや、婚約者というわけでは無いので、一応訂正させていただきますが」


「ヤマちゃんつれへんわぁ。うち悲しい……」

 両手を目の下に、泣き真似をしながら、いたずらっ子のような表情で目線を

こちらに向ける。


「失礼。些か君の色恋に関する話題も珍しくてね」


「ハハ……大枠は当人同士の話し合いで。俺としては賛成です。折角のご縁ですし、ダナさんもマリちゃんも互いにメリットがあるかと」


「そうだな、私もそう思うよ。では今後の具体的な事は後程、決まり次第申請してくれたまえ」


「はい! 楽しみやなぁ!──うち頑張るで~!」



 宿に戻った俺は、ベッドの上でリーフルとまどろみながら考えを巡らせていた。


(レストラン……カフェ……まぁカフェだろうな。ランチをメインに日用雑貨もってとこか)


("継続は力なり"か、俺も頑張らないと)


「ホホーホ(ナカマ) ホーホホ(タベモノ)」


「そうだなぁ。友人特権でリーフル専用席でも作ってもらおうか?」


「ホーホホ(タベモノ)」


「メニューの方か~」

 今回かき氷を露店で販売していた目的の一つに、ダナが新たに構える予定の、店の宣伝も兼ねていた。


 ギルドの並びに役所が管理する空きテナントがある。

 少し前からダナに対しかき氷を販売する店を構えるよう、誘いがあったらしく、それについて彼女も前向きに考えている。

 役所としてもテナントを遊ばせたままにしておくのももったいないし、サウドにおいて評判高いかき氷であれば、すぐに潰れてしまう心配も無いというところだろう。


 それを知ったマリンは『じゃあうちの魚や雑貨もどうやろ?』と、目ざとい商売人らしく、早速統治官の下へ相談に赴いた訳だ。


 まだ詳細を詰めたわけではなく、俺が関与する部分もあまりないので、それに関しては当人同士が上手い具合に進めていくだろう。

 

「ホ~……」

 ベッドに立てかけられたロングソードをリーフルがつついている。


「これもなぁ……」

 ロングソードの習熟が課題の訓練計画だが、新たに生まれた課題、神力の制御。

 俺にとって強力な武器となる神力だが、毎度毎度気絶してしまうようでは話にならない。

 加減の習得や、確実に発動させる為のコツ等、憂いなく実戦使用できるよう特訓が必要だろう。


「そういえばリーフルは気絶してないもんな」


「ホ? (ワカラナイ)」


「ふむ……まぁ徐々にでいいか。おやつは……飴ちゃん?」

 リーフルが大いに喜んでいたので、マリンからまとめ買いした飴を取り出す。


「ホゥ(イラナイ)」

 仰向けに寝転ぶ俺の胸の上で、休息する姿勢を取る。


「リーフルは寂しくないか?……寝ちゃったか」

 眠りについたリーフルの頭を撫でる。


 戦闘、恋愛、商売。この世界にやって来てからというもの、多様な経験の連続だ。

 充実しているとも言えるし、気疎く感じることもある。

 自分の為にだけの行動なら、恐らくパンクしていた事だろう。


 全てはリーフルの為。

 他人の為であれば、多少の試練なら乗り越えられる事をリーフルが教えてくれた。

 共依存とでも言うのだろうが、それでもいい。

 神様に"生きる"事を約束したんだ、期待に恥じぬよう、これからもリーフルの健やかな鳥生を願い、日々を過ごして行くんだ。


 



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